378話 魔族の森
マップを眺めていると、ナズナの呼ぶ声が聞こえてくる。私たちは、マップを閉じ振り返った。そこには、ナズナが作った料理が並べてあった。
私たちは、すぐさま料理を机に運ぶ。ナズナが手早く作った料理は、パンの間にオーガ肉のカツが挟まれたサンドウィッチだ。
私たちは運ぶ最中、唾を飲み込む。今すぐにでも食べてしまいたい。そんな欲望を丸出しにして、誰の静止すら聞かず食べてしまいそうだ。
「アリア、顔が怖いニャー、それにヨダレまで出ちゃってるよ」
ハッと我に返り私は顔を触る。ナズナの言うとおり、口の所にヨダレが付いていた。そうして私たちは三人が揃って食べはじめた。
そして私は、ナズナに先ほどの件を伝える。それを黙って聞いていたナズナは、顔を輝かせ眩しい笑顔と共に「行きたい!」と、強く言う。
「そう言うと思った。ご飯を食べ終えたら行って見ようか!」
私は二人に提案をした。それに対して二人は、すぐさま首を縦に振った。そして私たちは、ご飯を足早に済ませ、その場所に向かう。
幸いにも今日は天気が良い。そのためか、ほうきを走らせるにもちょうど良く、ほうきをかっ飛ばしていく。その甲斐あって、昼間にいた場所からたちまち着いた。
気配感知を発動させなくてもわかる。ここには、大量な魔物や魔族がいるということが。
「凄まじい気配だね。数の暴力って感じかな?」
「強いやつ一人で放ってるとすると、それは俺たちみたいな強さってことになるだろ」
「でもそっちの方が面白いニャー! 強いやつと戦えるなんて、そんなに経験はできないんだからそっちが良い」
私はその意見に納得する。だがきっと、それは叶わない願いだ。なぜなら、これは数の暴力でできた森だと私は直感した。
なんだが薄気味悪く感じる。まるでこの気配たちは、何かを守っているようなそんな感じがしてならなかった。
だとしても、私たちにはすぐには関係のないことだとわかる。なぜなら、私からしてみればこの程度の気配、全くもって壁にすらならない。
「ここの森は魔族が魔神を守ってる、そんな感じがするね」
二人は目を見開き、驚いた様子で私の顔を見てくる。この顔を見るとわかるが、どうやら二人は気が付いていなかったようだ。
「それってほんとかよ! 俺はそんな感じには思わなかったけど」
「やっぱり強い気配だけなんじゃないの?」
「入って見ればわかるわ」
そう言って私たちはほうきから降り、そのまま森の中へ入っていく。入ってすぐの所から、魔物が飛び出してくる。
ずっと待っていたと言わんばかりの登場に、私は少しばかり笑みがこぼれ落ちてしまう。そんな私を見て怒ったのか私に目掛けて攻撃が飛んでくる。
相手はハイ・ゴブリン。少しばかり強くなっただけの魔物。私は軽く斬り伏せ、次に進む。奥へ行くたびに、何かしらの魔物や魔族が飛び出しているが、あまりにも手応えが感じられない。
そのせいか、イデリアのモチベーションが最低を叩き出すかのような動きで。魔族を絶命させていく。
「もっと強い存在と戦いたい! これじゃあストレスが増えるだけニャー」
とうとう本音をぶち撒けてしまうナズナ。それに怒って飛び出してくる魔物たちは、数秒後には消滅してしまっていた。
そして私たちは、森の中心部へとやってくるのであった。そこで目にした光景は、驚きのあまり言葉を発することができなかった。
「この石像みたいな魔族? これって本物であってるよね」
「これは間違いなく魔神だよ。ここに封じられた魔神で間違いない。それに見てこれ」
フェクトの指を指す方を見ると、そこには、とあるメッセージが書かれていた。
『ここに来たれり旅人よ。我の復活を望むのなら、この森を浄化して見たまえ。そうすれば、汝の元に我、また顕現を果たすであろう』
土台には、そう掘られていた。それを見て二人は何を思っただろう。
どのような行動をすればいいか、悩んでいるだろうか?
それとも、もうすでに気持ちは決まっており、その言葉を待っているのだろうか?
私は、正直どちらでも良い。二人の決めたことなら、それを尊重させるまでだ。
今、私の気持ちは関係ないのだから。
「アリア浄化できるか? いずれこの魔神は復活する。それは遠い未来かもしれない。遠い未来でコイツを倒せないかも」
少しばかり怒りのこもったような声で言うフェクト。それほどまでに、彼は心配もしているとわかる。
「ナズナの意見を聞いてみないとね。結論はその後だよ」
私は、フェクトに優しみのある声で言う。フェクトが少しでも落ち着けるように。
「私も賛成だよ、それに魔神ってあんまり戦った経験がないから楽しみニャー」
ワクワクが溢れ出しそうなほどの笑顔と共に言うナズナ。私はそれを汲み取り、魔法を発動させる。
その影響で、多くの悲鳴が聞こえてくる。その声はおそらく、私の耳に残り続けるだろう。
そうして石像に振り返ると、成功したのかパラパラと石が落ちてくる。
そして、魔神が権限を果たすのであった。
「随分と時が経ったか? 我の封印が解けたというのであれば」
魔神はボソボソと言う。まるでこれは解かれることはないと思っていたかのような口ぶりである。
それも当たり前かもしれない。なぜなら、私の魔力はそこまで残っていない。
それが何よりの証明とも言えるだろう。
「魔神よ、汝の解放者この私。剣聖の称号を持つ冒険者アリア。今からどうせ殺し合いになるのはわかっているわ。それでも名乗らせてもらうわ」
魔神はこちらを見るなり、ニヤリと笑う。笑いが込み上げてきたのか、甲高く笑う。
まるで自分はここに居るぞと強調するかのように。
「小娘風情が我を起こした? 片腹痛いことを言ってくれる。もう少し、マシな嘘を付いたらどうだ?」
「どれぐらいの間、眠っていたかは知らないけど鈍ってんじゃないの?」
「この我にそんなことを言うか。面白い小娘だ、ここで殺すには惜しいな。なら彼女を殺そう」
魔神は、ナズナに目線を向けるのだった。
 




