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剣聖少女 〜あてもない旅がしたいと願った少女の冒険譚、剣聖にもなれたので箒に乗って路銀稼ぎや旅を楽しみたいと思います〜  作者: 両天海道
1部-9章 剣聖は詠唱を唱えて戦いたい

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377話 ナズナ落ちる


剣聖少女1周年を迎えました!!

迎えられたのは、読者の皆様方のおかげです。

今後とも剣聖少女をよろしくお願いします!


 春の陽気が少しばかり続く中、春風は心地よく体を突き抜けていく。春から初夏へとゆっくりと移り行く、季節の変わり目。ほうきは目的もなく、ただひたすらに自由気ままにあてもない旅を続けていた。

 周りに目を向けると、平原がずっと広がっている。遮蔽物もなく、魔物や魔族も一切居ない。ここにいるのは、私たちだけ。それがここしばらく、私たちの見る風景。

 世界樹の森を離れてしばらく経った。あれからすぐに、簡単にイデリアから報告を受けた。その内容は、聞いていて退屈するような事務的なことばかり。それが原因なのかわからないが、私にはまるで頭に入ってこなかった。それでも、一つだけ興味を惹かれることがあった。

 それは、イデリアが実際に世界樹の元に出向いたという話。眼を見開いて驚けるレベルの話。何ヶ月も帰って来ず、フレリアに魔法界の仕事を全て任せ、ドワーフ族の里から離れられそうになかったあのイデリアが、世界樹と話すために離れた。

 余程の事情があると考えた方がいいこと柄だろう。話した内容は、イデリアから世界樹に対して抗議をしたという内容である。

 魔物を送り込むのはやり過ぎだ、私と揉め事を起こすな、立場を弁えろ、そんな感じの内容だったと微かに記憶している。


「それにしてもイデリアが動くとは思わなかったね」

「え、何の話?」


 フェクトは不思議そうな声で聞いてくる。自然の音しかしていなかった所に、突然脈絡もない台詞に驚いた様子なのも伝わってきた。


「あーごめんごめん。ほら、イデリアが世界樹と直接話をしたってことを言ってたの覚えてる?」


 フェクトは少しばかり顔を上げ、記憶を掘り起こすような仕草をする。そして少しばかりうねりながらも必死に思い出そうとしているみたいだ。

 だがしかし、それはどうやら上手くいかなかったらしい。顔が悔しさに満ちており、その顔を私の方に向けた。


「ダメだ。やっぱり思い出せない、そんな話を聞いたような気がするのにな」

「それも無理はないよ、出来事からしばらく経っているし」


 納得したような納得していないような顔で前を向くフェクト。私はそんな顔を見ながら話を続けた。


「イデリアってドワーフ族の里に行ってたでしょ。それも何ヶ月も、今回の一件ですぐに対応するって優先度に関しては、高かったのかなって思っちゃってさ」

「それは確かにな。それだけ世界樹の件は重要性があったってことやろ、それに不法滞在者も多く居たしな」


 私はフェクトの言葉に納得する。終わったことを考えても仕方ないことなのだろうが、それほどまでに私は、まだ世界樹に対してやはり良い印象を持っていないことがわかった。


「そんなことより、なんか面白いことはねぇのか? 流石に飽きてきた」フェクトの顔には、飽きたと大きく書かれているような気がした。


 フェクトの言う通り、私たちは最近出会いも別れも経験をしていない。淡々と時間だけが過ぎていく。

 マップを展開させるも、たちまちほしい情報は見つからない。たいていそれが現実というものだ。

 それでも私たちは探さなければならない。なぜなら、私たちは旅人なのだから。そんなことを考えていると、後ろで眠っていたナズナが落下した。

 あまりに突然のことに、私たちの頭は真っ白になる。少しばかり遅れて、私は声を上げた。


「ナズナ!!」


 思いの外、私の声は大きく出た。それに釣られてフェクトも声を掛ける。私はほうきを急降下させ、ナズナを助けに向かう。

 ナズナは、自分が落下していることにすら気が付かず、いまだに眠っている。そろそろ起きてほしいと思うが、その願いは届かない。


「フェクト! 魔法で落下速度を落として!!」


 私はできる限りにことをするべく、叫び声を上げる。それを答えるかのように、フェクト魔法をナズナに放つ。

 急激な速度で落下していたナズナは、一瞬フワッと止まる。そこからは、葉っぱがゆらゆら落ちるかのように落下していった。

 私は、すかさずキャッチをして、地面に緩やかに降下した。あまりに突拍子なことに、大きく鼓動する。落ち着かせるために何度か、深呼吸をしてナズナの顔を改めて見た。


「ど、どうしたの? そんな慌てたような、顔をして?」


 眠そうな目を擦りながら不思議そうに聞いてくるナズナ。その顔を見た私は、ホッとしたのかその場に座り込んでしまった。

 ナズナは突然のことに、驚きのあまりすぐさま私から離れる。ナズナは心配そうに私を見つてくる。フェクトに助けを求めるように、上空で待機していたフェクトの方も交互に見ていた。

 それを見かねたフェクトもほうきを降下させ、降りてくる。


「ナズナ、さっきのこと何も覚えてないのか?」


 フェクトは少しばかり信じられないと言いたげな表情でナズナに問いかけている。それに対してナズナは、不思議そうな顔をしながら言葉を発した。


「だってわたし寝てたニャー、なんで地面にいるのかもわからないんだよ」


 真面目に答えるナズナ。それを見て、フェクトは苦笑する。フェクトはため息混じりに、ナズナに説明した。


「嘘!? そんなわけないニャー、二人とも嘘をついてるニャー!!」


 ナズナは、信じられないと言わんばかりに目を見開いて驚きを見せる。驚きのあまり、それは嘘だと必死に主張するが、そればっかり本当のことであると私は再度伝えた。


「それは本当にごめん。迷惑を掛けたニャー、ここはわたしがお詫びの印にご飯を作るニャー」


 確かに、私たちはお腹が空いていた。それもそのはずだ、今は絶賛お昼の時間。私たちは顔を見合わせ、ナズナにお願いをする。

 ナズナは「任せて!」と言って調理を開始した。私たちはその間、マップを互いに展開させ、面白そうな場所がないか探していく。

 私たちの旅は基本、あてもない旅をしている。それでも、何も情報がなければ大変危険なことに立ち合ったりすることもある。

 知識は武器である。その上で、あてもない旅は成り立っているのだ。


「ここ良さそうじゃないか? 魔族の森」

「確かにね。最近、戦ってないし気分転換になるかもね」


 そう言いながら、私たちはナズナが作ってくれる料理を待つのであった。

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