371話 新たな武器はトラウマもの
ダイナール大陸、王都の周辺にも冬がやって来た。冷たい風が体に当たる。
体の温度を瞬く間に奪い取っていた。いくら準備運動をした所で、まるで暖かくなりやしない。
体の感覚は、どんどん鈍くなっていく。それでも、私の心だけは熱せられ熱かった。
「ガードと戦えるなんて嬉しいよ。せっかくなんだし、お互いに手加減は無しだからね!」
ガードにそう言うが、言葉が返ってくることはない。他者を寄せ付けないような集中力。それほどまでにガードは真剣な表情をしていた。
「フェクト! 試合の合図は任せた」
木剣を構え、ガードを見つめる。ガードもまたこちらを見つめていた。
「組み手開始!」
フェクトの声が平原に響く。それは風に乗って王都にまで届きそうな声の大きさだった。
だがそれとは裏腹に、こちらは静寂の時が流れている。両者共々動かず、ただジッと見つめ合う。
それがなんとも長く感じる。まるで止まった世界にいるかのような感覚。
それだけ、静かだった。
「お覚悟」
ガードの言葉共に踏み出す一歩。次の瞬間、ガードはすでにこちらの間合いに入っていた。
「一撃で終わらす、眠拳」
「物理的に眠らせるつもり? その程度で倒せると思うな!」
拳と木剣がぶつかる。その衝撃は、結界を震わせている。
「手加減なんてしたら、あなたの存在を抹消するからね」
ガードの顔は、少しばかり機嫌が悪そうだ。それだけ今の一言は、ガードにとって嫌な言葉だったのだろう。
「たった一撃……ぶつかったぐらいで、そんなことを言うなんて思ってなかったわ」
少しばかり笑みを浮かべているような顔だが、目は全く笑っていない。
それを証明するかのような拳が打ち出される。
「私は剣聖よ。その程度の拳、フェクトを見習った方が良いわよ」
軽く弾き、カウンターを決める。そのまま連撃を繰り出し、地面に叩きつけた。
「――ガハッ! 一瞬の過ちで、ここまで攻め込まれるなんて」
「何寝ぼけたことを言ってるのガード? 私と組み手をするって、こういうことになる覚悟があるって意味よ」
圧倒的な強者の雰囲気を醸し出す私。それに対して、先ほどの威勢は消えさり、地面に這いつくばるガードの姿がそこにはあった。
「早く立ち上がってよ。まだ武器を隠しているのでしょ?」
また、ガードは嫌な顔をする。私を敵意を向けるような目が、私に突き刺さる。
「なんでアリアがそのことを知っているのかは知らないけど、こっからは反撃させてもらうわよ」
「望むところよ、早く立ち上がって!」
ガードは立ち上がると、すぐさま後ろのに飛んだ。その際、右手には、とある武器を装備させる。
細長い黒色の鞭。それが現れた瞬間だろうか、見に来ていたトータトンが身震いをする。
「魔物にトラウマ植え付けてるなんて、どんなことをやったのよ」
「必要なことをやったまでよ。こっからは、剣聖アリアの好きにはさせないわ!」
勢いよく鞭を繰り出してくる。リーチが単純に伸びたため、戦い方がガラリと変化していく。
「逃げられると思わないで! 私の鞭は決して逃さないわよ」
パチン、パチンと地面に当たる。その音だけで、痛いとわかるほどだ。近づこうにも、地面に当てた鞭を自由自在に近づかせないようにしている。
至近距離に近づかないと私にとっては、厄介な相手だと言える。
「魔法も駆使して随分と馴染んでる。天性の持ち物なんていっても良いほどだね」
ガードは、少しばかり褒められて嬉しいのか、頬が少しばかり緩んでいる。
だが、鞭の威力は先ほどより増していた。
……
先ほどに比べて、アリアが攻めづらくなっているのを感じている。
それをアリア自身も気が付いているだろうが、どうすることもできないのか、あまり動こうとはしなかった。
「トータトン、お前はどうやってこれを突破するんだ?」
不意に質問を振られ、目を見開いてこちらを見てくる。唾をグッと飲み込み、少しばかり考え始めている。
「盾で守りながらですかね。それでも、衝撃も痛みも凄まじいので、だいぶ必死になりますけど」
「俺だったら正面突破を狙うかな。少しでも早く、自分の技を叩き込む」
「魔法での攻撃は考えないんですか?」
「おそらく弾かれて終わりだろうな。あそこまで自由自在に操ってる時点で、ぶつけるのは難しい」
そんな話をしていても、アリアは突破口を見出せずにいた。アリアからしてみれば、厄介この上ない感じなのであろう。
だからこそ、どう攻めれば良いのか足踏みをしている感じだ。
「アリア怖がるな。なんでもいいから行動を起こせ!」
……
フェクトからの野次が聞こえる。そうしたいというのがわかっているのに、なんとも腹立たしい限りである。
「アリアどうしたの? 避けてばっかじゃ、私にやられちゃうよ」
おそらく体力勝負にも持ち込んだ所で、ガードは休めることはないだろう。
あの家を掃除、買い物、料理、そんなことをしていれば、嫌というほど体力が付く。
「一気に突っ込むか!」
私は満面の笑みで宣言をする。そんなことをしたばっかりに、ここにいた全員の顔に疑問の顔が浮かぶ。
「何を言ってるわけ? こんな状況だからって頭がおかしくなりました?」
「それはどうかな」
勢いよく振る鞭を軽々に避けつつ、どんどんと詰めていく。それに伴って、ナズナは大きく後に下がるがもう遅い。
「わざわざ弾いた? まさか剣技!?」
「御名答! ソード・インパクト」
最後は鞭を足で踏みつけ、そのまま体にぶち当てたのであてられる。
吹き飛ぶ瞬間足を退かし、そのまま吹き飛ばされ勢いよく地面に叩きつけられたのであった。
「勝負そこまで! 勝者アリア!」
フェクトの声が平原に響き渡る。そうして、組み手は決着がついたのであった。
「よっしゃー! 私の勝ち、やっぱり鞭をよく見て正解だったわ」
鞭をどれだけ自由自在に動かせようが、何度も見ていれば、避けられると思った私の勝ちである。
ガードもそれに気が付き、悔しそうな顔で立ち上がり、互いに握手を交わすのであった。
 




