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剣聖少女 〜あてもない旅がしたいと願った少女の冒険譚、剣聖にもなれたので箒に乗って路銀稼ぎや旅を楽しみたいと思います〜  作者: 両天海道
1部-9章 剣聖は詠唱を唱えて戦いたい

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367話 ガードと朝食


 翌朝。私が目覚めた場所は、リビングの床であった。暖かい床暖房が、どうやら眠りに誘ったようだ。

 頭は、暑さでぼんやりとしており、まだ思考が上手く機能しない。

 そんな中、体はバキバキになっており、身体中が痛いとその時ようやく理解する。


「今、何時?」


 眠気がまだ続く目を擦り、辺りを見渡す。その周りには、仲間たちが眠っていた。

 そんな中、キッチンの方から物音がした。何かを作っているような、そんな音である。

 ふらつきながらも、固まった体をほぐすように立ち上がる。

 そうして一歩一歩、歩みを進めていく。キッチンを見るとそこには、ガードが食材を切っていた。

 真剣な表情、一定のリズムで食材を切っていく。それはまさに、料理人の顔つきである。

 そんな姿に私は、その場に立ち尽くしてしまう。声を掛けるなんていう、無粋なことはできなかったのである。

 それだけ、ガードは真剣で私が入り込める隙など一切ないのであった。

 そんな時だった、包丁が止まる。ふと顔を上げ、こちらを見るなり驚いた様子もなく「おはようございます」とにこやかな笑顔と共に言うのである。

 私はそれに釣られて朝の挨拶をする。


「アリアが最初に起きてくるなんて、少し意外だったわ」

「それは確かにそうだね。いつもならフェクトやナズナが起きてる頃だろうし」


 現在二人は、フランスパンを抱きついて眠るフェクト。よだれを垂らしながら眠るナズナの姿が、床暖房の上にはあった。


「それにしてもあの子たちが起きないのは、まだまだ扱き甲斐がありそう」


 まるで、おもちゃを渡された時のような笑顔を見せるガード。

 その姿に、彼らには悪いがガードが楽しそうでなによりだと思う私が居た。


「反旗を起こされる前に程々にしてよ。その対処をするのは、私なんだから」

「それはないと思います。トータトン以外、私の敵ではありませんから」

「へぇーそうなんだ」


 うん? 今、ガードは何を言った? 敵ではないとか言わなかった。私の中で何かが燃え上がるのを感じ取る。


「ガード」


 遮られるかのように、ガードは言い放つ。


「勝負に関しては受ける気はないわよ。アリアからしてみれば、フェクトやナズナほど、強くないから」


 キッパリと言われてしまい、私は口に出そうとした言葉を唾と共に飲み込んだ。

 そんな話をしていても、彼女は料理を止めない。サラダを作り終え、パンを焼き始める。

 その傍では、フライパンに乗ったオーク肉のバラの肉で作られた、加工済みベーコンが大量に焼かれていた。


「アリア、済まないけどお皿とか準備してくれる? おそらくこの匂いで、何人かは起きると思うから」


 戸棚に置いてある食器を人数分をキッチンに置く。

 サラダをそれぞれに盛り付け、サラダと水の入ったガラスのピッチャーに並べて置く。

 そんな物音と匂いに釣られてか、何人かは起き始める。その中には、フェクトもナズナも混じっていた。


「アリアが起きてるなんて夢だろうか?」

「フェクトも準備して、早く朝ごはんを食べましょ!」


 そうして全員が揃って朝ごはんを食べ終え、私たちは運動がてらギルドに向かう。

 ギルドの扉を開けると、寒さで誰もクエストを受けたがらないのか、無造作に貼られたクエスト用紙に目が入った。


「流石王都って言うべきかな? 色々なクエストがあるみたいだけど、何か受ける?」


 私は魔物を討伐する系を選び、二人に見せていく。


「これなんてどう? 雷帝竜討伐!」


 雷帝竜――雷を操る竜。迫力のある見た目、圧倒的な雷の力、そのため誰も受けたがらないクエストの一種。

 圧倒的な雷で、白銀の冒険者パーティを一瞬にして亡き者に変えたと恐れられていた。


「この白銀って、今よりもだいぶ弱いだろ? それに結界を貫通したなんて言う噂が立ったぐらいだぞ」

「その結界も今よりもだいぶ性能は違うと思うニャー」


 ナズナに痛いところを突かれたのか、少しばかりイヤな顔をするフェクト。

 そんなことはつゆ知らず、ナズナの攻撃は続く。


「魔神のくせに怖がってるニャー! 三人の力を合わせれば、そんなの余裕ニャー」


 とある言葉に反応したのか、勢いよく立ち上がるフェクト。

 その顔は、今にも吹き出そうなほどに赤くなっている。空気を吸い込み、準備万端に整える。


「誰が怖がってるって! ナズナ、今日はもう許さねぞ! 表に出ろ、俺がぶっ飛ばしてやるからよ」

「怖がりの魔神さんが怒ってる〜。あ、怖い怖いニャー」


 本当に加減知らずに一撃が飛びそうだ。それもわかった上でやっているので、ナズナも意地悪だ。

 その間に入るように、私は真剣を彼らの前に突き出した。


「ナズナこれ以上言うのは禁じるわよ。それにフェクト、少しは外の空気を吸って落ち着いて来て」


 声色を変えず、表情も変えず、私は言葉を発する。それを聞いた二人は、恐るおそる怖いものを見るかのように、こちらを見てくる。

 こちらと目があった瞬間、本気で悲鳴を上げていた。その後、すぐに二人とも謝りながら、逃げ出すのであった。


「ごめんなさいニャー!」

「俺も少しは悪かった!」


 その反応に心底驚いたのは、私自身である。

 全く怒ってるつもりなんてなかったのに、二人が涙を流しながら逃げるなんてと、目を見開いて驚くことしかできなかった。

 数分後、二人は戻ってくるなりビクついた感じで私を遠くから見ていた。

 

「二人とも大丈夫? 私、そんなに怖かった?」


 私は、不安げな声で二人に聞くと、二人とも勢いよく頭を縦に振る。

 なんとも言えず、私も謝るのだった。そうしてギルドで話していると、イデリアが入ってくる。


「朝からほんとに元気よね。私は、昨日の処理に追われてたって言うのに」

「それはお疲れ様。疲れているみたいだし、寝てた方がいいんじゃ」

「別にこの程度、大したことではないわ。それより、何かクエストを受けるの?」


 私は(くだん)のことを話した。イデリアは、クエスト用紙を見るなり、そこまで驚いた様子はなかった。


「せっかく帰って来ているのに、ゆっくりすれば良いのに」

「それはおいおいね」


 そうしてイデリアは、眠たげな目を擦りながらギルドの奥へと向かっていくのであった。

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