357話 山菜天ぷらと無礼講
お風呂から上がり、着替えて外の冷たい空気を浴びる。その冷たさがなんとも心地がいい。
そんなことをしていると、二人が遅れて出てきた。
二人は私を見るなり、目を見開いて驚きの表情でこちらを見る。
私は不思議そうに首を傾げ、二人がすぐさま駆け寄ってくるなり、ナズナはコートをボックスから取り出し着せてくれた。
「ど、どうしたの……急に?」
私は、少しばかり困惑した声を出す。二人は慌てた様子でこちらを見るなり、心配そうな声で話を始める。
「どうしたのじゃないニャー。こんな寒い夜に何をしてるの?」
「ほんとそうだぜ。せっかく暖まったのに、何してるんだ?」
私は素直に答える。二人は、その答えを聞くなり大きなため息をつき出した。
「アリア、ここちがいいのはわかるが少しは自分の体を大切にしろ」
「フェクトの言う通りだよ」
ここちがいいの他に、少々暑かったという意味も含んでいたのだが、それを言ったらまた怒るかもしれない。
そんなことを考えたら、私は何も言い出せなかった。
「とりあえずご飯を食べに行こうよ! お腹空いた〜」
大きな音とともに、ナズナはそう言う。それに釣られて、私たちのお腹も鳴る。
「そうだね。とりあえず向かおっか」
そうして私たちは、教えてもらった場所に向かう。
山菜の天ぷらが美味しいと教えてもらったので、私たちはすっかり山菜気分である。
そうしてお店の前に着くと、外にまで響く笑い声が耳に届く。
気配を見るに、結構人数が入っているのを感じとる。だが、もう口は山菜の天ぷらである。
私たちはそうして、中に入っていったのだ。
「いらっしゃいませ! 三名様でよろしいでしょうか?」
「はい」
そうして、私たちは奥にあるテーブル席に通された。メニュー表を取り出し、私たちはとりあえずエールを頼む。
エールがくる間、私たちはそれぞれメニュー表に目を通していく。
お目当ての山菜天ぷらは、赤文字でオススメと書かれた横に大きく載っている。
そうしてエールを届けてもらった際に、私たちはそのまま注文を済ませる。
目の前に置かれた黄金に輝くエール。それに雲のような泡。
黄金比率で注がれたエールに、テンションが上がるのを感じる。
「それじゃあ乾杯!!」
「乾杯!!」
グラスを当て合い、口の中にエールを注ぎ込む。喉を鳴らし、勢いよく飲んでいく。
そうして、半分ほど飲み終わった頃グラスを置いて一言「美味しい」と口からこぼれ落ちていた。
その光景を見ていた隣のイケおじグループの一人が話しかけてくる。
「お嬢ちゃんは、いい飲みっぷりだな! おじさん、見てて最高だったよ」
「そうですか、ありがとうございます。お互いに、羽目を外さない程度に楽しみましょう」
お互いに、グラスを当て合いまた一口飲んだ。
「国に着いて飲むエールは美味しいね」
「そうだな。でも、アリアはいつだって美味しそうに飲んでるけどな」
「それはフェクトもニャー。二人とも、そこまで飲み過ぎないでね」
そう言いながら、ナズナの大ジョッキは既に空になっていた。
そうして飲んでいるうちに、料理が届く。テーブルの中心に置かれたのは、山菜の天ぷら。
まるで山を彷彿とさせるかのような大量に揚げられた山菜。
その横には、白いお塩にお山が出来ていた。
「いただきます!」
三人同時に言葉を言い、次の瞬間には誰が最初に食べるか競争するかのように、素早く箸を伸ばす。
そうしてその権利を勝ち取ったのは、もちろんこの私。
口の中に入れる。そうして、心地よい揚げ物の音色を聞くと同時に口の中に熱さを感じる。
「アッツ……あ、でも美味しい」
遅れて二人もそれに同意するかのように首を縦に振った。そうしてそこからは、楽しい夕食が本格的に始まっていく。お店を巻き込んで、その場にいた全員と乾杯していくほどには、酔っていた。
終いには、私の正体が剣聖の称号を持つ冒険者アリアだということも。
「今日は無礼講だ! 楽しく飲んで美味しいものを食べて帰って寝るぞ!」
そこから数時間、お店では過去最高額の売上を叩き出していた。
その支払いは、もちろんこの私だった。酔った勢いでおそらく「今日は私の奢りだ!」なんて口走ったのだろう。
そうして、そのことを知ったのは翌朝の新聞である。
「昨日のアリア、ほんとに大変だったんだからね」
「新聞で書かれていることが真実なら、ほんとにご迷惑をお掛けしました! ほんとにごめんなさい」
「でもまさか、新聞に載るとはね」
ほんと誰が提供したんだよと言いたい気持ちをグッと堪え、私は朝ごはんを食べていく。
この宿には、食事関連は一切なくその代わり食べられるスペースだけは存在する。
そのために昨日、買っておいたパンを私たちは頬張っていく。
「それにしても記憶が無くなるまで飲んだにしては、私って元気よね」
二人は目を見開き、少々驚いてるがすぐさま顔を呆れ顔になる。
「ほんとに何も覚えてないんだね。アリア、自分でアルコールに関する魔法を放ってたよ」
「おそらく場の空気に酔ったんだろうな。その影響で実際は、アルコールで酔ったかのように記憶が無くなってたんだろうな」
そうして街に出ると、私は様々な視線を受けながらギルドを目指す。
まさか、金貨四十五枚が無くなっていて正直財布を見た時は誰かに盗まれたのかと思うほどだった。
ただよくよく考えてみれば、酔った自分に盗まれたようなものだと私は思ってしまう。
「四十五枚だろ。多分、この前のダンジョンとか他の素材を売れば二割ほどは帰ってくるだろ」
「あのダンジョンか、最後が強かっただけだからね」
そうして私はギルドへ換金を済ませ、何かクエストがない掲示板を覗く。
田舎特有のあまり良い手当のクエストはない。だが一枚だけ、他の紙とは違う紙質をしていた。
それは、なんともボロボロで今にも破れてしまいそうなものだ。
「ドラキュラクエスト?」
そう書かれた紙。その賞金は、ダイナール一枚と書かれていたのであった。




