353話 浮ついた気持ちを抑えるには?
遅れてしまい申し訳ありませんでした!
ダンジョンから出ると、すっかり夜空には満天の星が広がっていた。
すっかり夜の寒さが始まり、今年の旅の終わりを感じさせる。
そうして、私はある言葉を二人に投げかけた。
「今年の冬はどのように過ごす?」
ダンジョンでの探索を終えた直後だ。そんなすぐには、返事は返ってこないことも分かっている。
ただ、ここで聞いておかなければ、ズルズルと聞くのを引き伸ばしにして迷惑を掛けてもおかしくなかった。
だから私は聞いたのだった。
二人は顔を見合わせ、悩んでいる様子だった。どうすればいいのか真剣な面持ちである。
そんな私は、続け様に声を掛ける。
「焦らなくて返事しなくても良いわよ。とりあえずご飯を作るから二人は休んでて」
私は逃げるように、その場から離れたのだ。それでも気になって二人の動向をチラッと視線を向けてしまう。
わかっていても二人を見てしまい、おそらく無意識にやってしまっているのだろう。
そんなことを考えつつ、荒くカットされた野菜やお肉をスープの中に放り込み、簡単なスープを作り上げた。
私自身、ダンジョンでの疲労がそれなりにあるのだろう。だからか、少しばかり手を抜いた感じになってしまう。
申し訳がない、そんなことを思ったのだった。
そうしてパンを用意し、スープを注ぎ分ける。そうして二人を呼んだ。
「二人ともご飯が出来たわよ! 眠たいのは分かるけど起きて」
ご飯という言葉に反応したのだろう。すぐさま二人は飛び起き、椅子に座る。
目の前に置かれた料理に対し、目をキラキラと輝かせ、唾を呑んだ音が聞こえてくる。
「いただきます」
それにつられて二人も「いただきます!」と大きな声で言った。
フェクトはパンから手を付け、ナズナはスープから手を付ける。
「ナズナ、ちゃんとふーふーして食べるのよ。いつも勢いよく食べて、舌を火傷したって言うのだから」
「わかってるニャー」
そうしてナズナは、スプーンに注いだスープを軽く何度か息を吹きかけ口に運んだ。
食べた瞬間、美味しかったのか満面の笑みを浮かべこちらを見る。
そうして親指を突き立て美味しいと言っているようである。
フェクトの方は、すっかり元の姿に戻りパンを小さく千切って食べている。
その顔もまた、ナズナも同様な顔であった。
そうして夕食が終わり、エールを飲みながらくつろいでいると、二人が声を掛けてきた。
私はすぐに察し、姿勢をピンと伸ばし二人の方を見る。それにつられるかのように、二人も同じく姿勢を正す。
私は二人が話を始めるのを待った。
そうして少しばかりの静寂な時が流れた時、フェクトが口を開く。
「今回は王都に戻らねぇか」
「わたしもそう思ってるニャー!」
私は「そう」と言いエールを一口飲んだ。
「そうと決まれば、今年の旅を締めくくる旅をしなきゃね!」
私は二人に笑顔を向けてそんなことを言う。
それを聞いた二人はなんだが、とても嬉しそうな顔をしてこちらを見ていた。
「そんなことを言われたら、絶対いい旅にしたいに決まってるニャー」
「俺たちはあてもない旅を楽しんでだ。それぐらい朝飯前だろ」
私は強く首を縦に振るのだった。
翌日。私たちは早速ほうきに座り、旅を再開させる。
朝早くから目が覚めて、私はどこか浮ついた気持ちだった。
そのせいか、いつもよりもほうきを飛ばしている。
ナズナは早いスピードに喜んでいるが、フェクトは不思議そうにしていた。
「ちょっと飛ばしすぎなんじゃねぇか? あてもない旅なんだから、ゆったり行こうぜ」
「それもそうなんだけど、なんか気持ちが昂ってるの」
それを聞いてか、フェクトがある提案を切り出してくる。
「それだったら俺と組み手でもしようぜ。戦ってスッキリした方が良いと思うぞ」
そう言ってフェクトは地上に降り立つ。
降り立つと同時に、私を挑発するかのように殺気じみた目で私を見てくる。
私もそれに応えるかのように、地上に降り立ち木剣を取り出した。
「よーい、はじめニャー!!」
木剣と拳が勢いよくぶつかる。互いに一歩も引かず、その場から動かない。
「また腕を上げたんじゃない?」
「それはそっちも同じだろ」
互いに、それぞれの成長が嬉しいのか笑みがこぼれ落ちる。
一度互いに離れ、大きく後ろに飛んだ。
そこからは、両者一歩も動かない状態が続く。互いにどう攻めたら良いのか、模索していく。
両者ともども一切の隙がなく、動くことができない。
「ほんと、私の使い魔は強いわね」
「褒めた所で、何も状況は変わらねぇぞ」
フェクトの言う通りである。フェクトは、私が話している間、一切の隙を見せなかった。
それに自分が話している最中もそうだ。なんとも攻め難いと思ってしまう。
だが、それをぶち壊すのが剣聖アリアである。
「それだったら、攻め落とすのみ!」
衝撃だけでクレーターが出来上がるほどの威力で、ぶつかり合う二人。
私は微かに笑っていた。なぜなら、圧倒的な強さでフェクトが防戦一方な展開になっていたからだ。
「これが剣聖の連撃。こっちがまともに攻撃出来ないなんてな」
反撃を試みるも、私にそれは見えている。あのミスを犯さなければ、フェクトは今頃攻撃もできていただろう。
こんな防戦ばかりで、逃げることすらできない状況にはならなかったはずだ。
「魔武式・魔拳」
「ぐぅう……無理やりこじ開けた!?」
いつの間にか、空中戦へと突入していた勝負。
「こっからは俺の反撃だ!」
空中戦ということもあり、木剣を使う私より有利な状況へと変わっていく。劣勢だった所から、形勢を変えるとはなんとも心が踊る展開である。
おそらく、防戦を強いられていた時からこれを考えていたのだろう。地上で戦った時から、だんだんと上空へ舞台を変え、気が付いたら空中戦。
見事のまでに私は、罠にハマったようだ。
「こっからは俺の反撃? 空中戦だからっていい気にならないでよね」
私は気合いを入れるかのように、剣を構え直すのであった。




