348話 ミミック討伐
フェクトがばつが悪そうな顔をしながら合流した。
私は、不思議に思い尋ねてみるが、はぐらかしてまともに答えてはくれない。
それにフェクトの体をよく見ると、戦闘の痕が見受けられた。
「もしかしてミミックと戦闘して逃げられた?」
図星だった。そっぽ向きながら、コクリと頷いた。
悔しそうな表情のフェクトの表情は、何故だか私も悔しいと思ってしまう。
そんな時、ナズナが慌てた様子で戻ってきた。
「大変ニャー! ミミックがギルド前で暴れてるみたいニャー」
気配を探ると確かに、ミミックと思しき気配が戦闘を繰り広げている。
気が付いた時には、フェクトはひと足さきに向かっていた。
「ナズナ、手を出さないであげてね。もしかしたらフェクトのリベンジマッチになるかもだから」
ナズナの方を向くと、不思議そうな顔で聞いてたが察したのか、私たちもその跡を追う。
ギルドの前に着くと、グーベルさんが戦っている最中だった。
「残像剣」
だがそんな剣技は、ミミックの体に通用しなかった。それどころか、剣がポッキリと折れてしまう。
驚いた表情を見せた瞬間、一瞬の油断で至近距離からの魔弾に命中する。
「――ぐがぁぁっ!」
追撃を放とうした瞬間、魔弾とともにフェクトが横から介入したのだった。
「爺さんもう良いだろ? 充分戦ったはずだ、アレは俺の獲物だ」
全身から放出される魔力のオーラ。その場に居た誰よりも、優っていると証明するかのようだった。
「さっきのように逃げられると思うな。俺の魔力で消し炭にしてやるよ」
両手を前に突き出し、魔弾を発射させる。
それを応戦するかのように、魔弾をぶつけ合うがフェクトの方が優っている。
次第に魔弾は、ミミックの体にぶつかり魔弾を放つことすら出来なくなってしまう。
「そんな一点集中型、見破ればこっちのもんなんだよ! これで終わりだ。インフェルノ」
その言葉通り、ミミックは爆散する。
リベンジを果たしたフェクトは、清々しい顔をしていた。
「爺さん大丈夫か? ポーション掛けてやるからギルドで休んでろ」
「すまないな……お主らには助けてもらってばかりじゃ」
そうして私たちはクエストを中断させ、ミミックを探すことに対して、本腰を入れることになった。
だがそこから数日が経ったが、手掛かりは何一つとして出てこない。
焦りと疲労が、思考を鈍くする。それでも探すことを諦めることはしなかった。
そんな私たちの行動を嘲笑うかのように、ミミックの被害は日にひに増えて行く。
「どうしてなんだ! なんで……俺たちの前には現れない!」
ギルドの机を怒りのまま叩き机は粉砕する。フェクトはここ数日、寝ずに捜索にあたっていた。
その影響もあるのだろう。気性も荒く、私たちでも手を焼くほどに荒れていた。
「フェクト落ち着きなさい。こんな所で暴れたって、何の解決にもならないわよ」
イデリアがエールを飲みつつ、そんなことを言う。
だが、そんな言葉で怒りが収まるのなら、こんなことにはならなかったのも事実。
「イデリア! お前らは最初からいるくせに一匹も遭遇してないだろ!」
フレリアはナニカ反論しようとするが、イデリアがそれを静止させる。
「その通りね。そこは充分わかってるつもりよ、でもここで暴れたって何の解決にも至らないって言ってるのよ」
イデリアの高密度の魔力がオーラとしてその場に溢れ出す。
思わず息を呑んでしまうほどに強い魔力。
それに対抗するかのように、フェクトも魔力を放出させる。
「あんたらわかってると思うけど、こんな所で喧嘩を始めた瞬間、ぶった斬るわよ」
殺気じみたプレッシャーを前にして、二人は少しばかり落ち着きを取り戻すのであった。
そんな時、ギルドの扉が勢いよく開く。
「皆さん助けて下さい! ミミックが複数体、現れました!」
ギルマスは死に物狂いで走って来たのだろう。息を切らし、頭を下げる。
そうしてもう一度、言葉を発したのだ。
「どうかお願いします!」
「ゆっくり休んでて、私に任せてちょうだい!」
私はにこやかな笑顔を交えて言う。そうして気配を探り、その場所に転移を果たす。
そこにはすでに冒険者が集まっているが、巧みに避けられその上、器用に妨害攻撃で冒険者に間合いを入らせないようにしている。
「これまた厄介なやつだね」
「その割には、楽しそうな顔をしているわよ」
顔をぺちぺちと触り、確かに口角が上がっている。
「ほんとだね! フェクトもイデリアも手を出さないでね。
さっきのなければ、戦わして上げてたのに残念だね」
そう言い残し、三階建の建物から飛び降り登場する。その場にいた全員の視線を独占する。
剣を取り出し、強く握りしめる。そうして、私は口を開いた。
「さぁ、ここからは剣聖の時間だよ。怪我したくなかったら、私の後ろに離れるんだね」
ミミックは地面を叩き地割れを起こす。だがそんなことをした所で、飛び上がれば何の心配もない。
「剣聖の剣技、死ぬまで楽しんで行ってよね」
間一髪で避けていくミミック。だが、それが何度も続くほど甘い世界ではない。
先ほどの遊びもあって体力は半分ちょっと。避けられて数発が限界だろう。
「顔が宝箱だから何となくしかわからないけど、もしかして辛そうな顔してる?」
私は続けて言う。
「ここに残ってるミミックは君で最後なんだろう? 攻撃をしては、すぐに逃げていたのはそれが原因だろ」
話題を逸せるかの如く、宝箱から魔弾を放出させるが、私の前では無意味である。
それで逃げられるのは、初手の一発目だけだ。
「ここで華々しく散りな。それが君にはお似合いだよ」
回避タイプとは思えない正面突破……私はとてつもなく晴れやかな気分で剣を奮ったのだった。
「その心意気……私はとても好きだよ」
そうしてミミックとの長い攻防戦は、これにて決着を果たすのであった。
その後、ミミックはどこの国でも出なくなったのはこれのすぐ後のことである。




