347話 物理耐性
秋の寒さが街の中にもやって来る昼下がり。私たちは今、清掃クエストを行なっていた。
魔法を一瞬のこの作業、だがそれをしてしまうと低賃金が更に減ってしまう減点方式。
そのため、魔法を使わずと言うのは、想像以上に過酷であった。
私とフェクトは、嫌な顔をしてしまう場面もあった。だが、ナズナはとても楽しそうに清掃に取り組んでいる。
体を動かせて、心が躍っているのかもしれない。そんなことを思いながら私は草を抜く。
「それにしても腰が痛くなる作業だよな」
フェクトは腰をトントンと叩きながら話しかけてきた。その顔は、少しばかり痛みで引き攣った感じである。
私もそれに頷きながら、腰を伸ばす。この態勢は体がキツく『働いている』という実感がもろにあった。
ナズナの方は、一切文句を言わず決められた作業をこなしている。
私は思わず感心して、手が止まってしまっていた。
「アリア、わたしばかり見てないで手を動かすニャー」
私は、ナズナに注意され視線を地面に落とす。
そうして作業を続けること一時間足らず。私たちは、頼まれていた区画の掃除を終わらせたのであった。
ギルドでお金を受け取り、座っているとギルマスから一枚の号外紙が手渡されたのだ。
「そりゃそうだよね」
その書かれていた内容に、私は苦笑した。
『剣聖少女! まさかの清掃クエスト!?』
驚きの光景と綴られたその紙面は、瞬く間に国中に広がったのだ。
それで私たちはピンと来たことがあった。ここに戻って来る際、人々からの不可解な視線である。
私を剣聖と知った上で、驚きの表情を浮かべる人は多い。ただ、今日のは完全にそれとは別物だったのだ。
不思議だと思っていたが、そこまで気にすることではないだろうと放置していた。
「これが原因だったのね」
そんな中、ナズナが私たちに声を掛けて来た。
「明日も清掃クエストをやるよね! まだ何も手掛かりが見つかってないし!」
やりたい! と全面に押し出されているのを感じる。私とフェクトは顔を見合わせ、なんとも言えない表情を浮かべる。
それを見かねてか、ギルマスが間に入って来る。
「ナズナさんよ、逆にここまで知れ渡っていたら、出て来るものも出てこない可能性がある」
ギルマスとしては、これ以上剣聖の称号を持つ私を、変に注目をさせたくないのだろう。
だがそれで引き下がるナズナだったら、こんなことにはならなかったはずだ。
「いやニャー! 明日もやる」
私とフェクトは顔を見合わせ「ですよねー」と言いたい気持ちをグッと堪える。
一歩も引かないことを考えると、ここで私たちが折れた方がいいだろう。
この言い争いで冒険者同士が、ヒソヒソと何かを話すほどには目立ち始めていた。
「そしたら明日もやろっか! 明日は国中のゴミを拾い集めようね」
ナズナはとびきりの笑顔で力強く頷く。ギルマスからは、少々睨まれたが気にしないことにした。
「本当は今すぐでもエールを飲みたいけど、先にお風呂を済ませて来よう!」
ナズナは私の手を引き、それを追いかける形でフェクトもギルドを後にする。
そうして私たちは、その後黄金に輝くエールを飲んだのは言うまでもない。
翌日。私たちは、朝から国のあちこちに散らばり朝早くからゴミ拾いに従事していた。
まだ朝日が登り出して間もない。大通りだが、人はまばらでまだ賑わいはない。
まだ人々の顔は、眠たさが残っている。『仕事だから』そんな理由で無理に起きているだけに過ぎない感じだった。
そんな人々の行き交う大通りを眺めつつ、私はゴミを拾う。
大通りということもあって、清掃は行きとどいているが、やはり夜中の内に汚れは生まれてしまう。
そんなことをしつつ、私は本来の目的であるミミックを探すことにも本腰を入れた。
「朝早くからやってるんだ。アリアは、まだ寝てるのかと思ってたよ」
後ろから声が聞こえる。振り向くとそこに居たのは、イデリアである。
イデリアは、少しばかり驚いた表情でこちらを見ていた。
それだけ、私がこんなことをしているのが珍しいのだろう。
「そりゃクエストだからね。そっちこそ、お連れを連れずにどこに行ってるわけ?」
フレリアの姿はなく、イデリア一人というのが気になってしかたなかった。
それにイデリアの顔は、なんだか疲れているようにも見える。
「朝の散歩よ。今さっきまで支部で仕事をしてたから」
「もしかして夜通し?」
イデリアは首を縦に振る。眠たそうな目をこすりながら、イデリアは朝の大通りを歩いて行った。
少しばかりふらつきながら進んでいる姿に、私は心配と思うが今は一人の時間の方が良いだろう。
今は一人で動いた方が、気が休まると思ったからだった。
「さて、休憩はここまでにして私も仕事の続きやろうかな」
イデリアと話してた最中、私は完全に仕事を放棄していた。
休憩時間ではないのに、そんなことをしてしまったと思うが、これは悪いことではないと思う。
そうして私は、仕事を再開させるのであった。
……
「まさかこんな朝っぱらからミミックかよ!」
ゴミ捨て場にゴミを持ち込んだ瞬間、急に襲って来たのだ。
完全に、ここで獲物が来るのを待っている感じであった。
「そりゃここだと、自分から赴かないでも攻撃できるからお前からしてみれば好都合そのものだしな」
ここは閑静の住宅街。まだ朝日が昇っている頃だ。
ここで派手に魔法を当てるのはやめておいたほうが良いだろう。
「お前がどんなタイプか知らんけど、俺の攻撃を耐えられると思うなよ」
渾身の一撃を瞬時にぶつけた。次の瞬間、拳はぐちゃぐちゃに折れまがり、右手は使えなくなった。
声はなんとか出さなかったが、あまりの痛みで顔が歪む。
「まさかの魔法戦をご希望ってか?」
左手に魔力を込める。それに反応してか、宝箱の頭をパカっと開き魔弾を発射される。
その攻撃を受け切った後には、姿はどこにもなかったのであった。
本編を補う補足コーナー
防御タイプは、ナズナが戦っていたと思いますがあれはあくまでも防御タイプ。
今回と前回出たのは、防御タイプがそれぞれより特化したものだと思ってくれて構いません。




