335話 傷有りウルフ
寂れた印象を感じさせる村。それが私たちが感じた第一印象である。
それは第三者の私たちが見ても感じるほどに、貧困の村人たちがほとんどである分かった。
私たちは、村の中に入る。村人たちは、遠くから見るだけで近づいてこようとはしなかった。
フェクトの顔を見ると、村の現状に言いたいことが沢山あるのだろう。
それを感じさせるほどの表情を浮かべていた。
「私たちは冒険者です。私たちがいる間、何かお役に立てればと思います」
村人の顔は「勝手にしろ」と言いたげな表情で見たのち、いつもの日常を再開する。
フェクトは結界を壊し、新たな結界に張り替える。今までの結界は、ギリギリの状況だったのだとすぐに分かる。
フェクトが、軽く小突いた程度で完全に割れた。
「結界は経年劣化だろうな。この辺りは魔物も少ないから。その他にも長年の手入れがなかったからだろう」
確かに結界はいつかは割れて無くなる。
ただ、この状況を考えると、私たちが来なければここにはいつ廃村になってもおかしくなかっただろう。
だがこんな状況になっても、村人たちは動こうともしていなかった。まるで、諦めムードを受け入れているようだ。
そうしてとりあえず私たちは、村唯一の宿屋に泊まる。久しぶりのベッドで、村の状況を忘れて少しテンションが上がる。
だが、そんな時だ。結界の外に魔物の気配を感じたのは。
すぐさま飛び起きた私は、部屋を出る。その際、二人とも感じ取ったようで同じように飛び出していた。
二人の顔を見合わせ、すぐに階段を駆け降りていく。そうして、宿屋を出てすぐに結界の外に向かう。
そんな姿を見て、村人たちは「何の騒ぎだ!」と言いたげな表情をしている。
そんな中、村人の甲高い悲鳴が辺り一帯に広がる。その声を聞いてか、村人の顔は段々と青ざめていく。
「みなさん落ち着いてください! 私たちが対処しますので、家の中で待機をお願いします!」
大きな声で呼びかけるが、そんな悲鳴を聞いたあとでは、動きも鈍い。
まだ若い村人たちが、高齢者を連れて宿屋の方に連れて行く様子が見えた。
「二人とも一気に倒すわよ!」
そうして結界の外に出る。それに気が付いたのかウルフがこちらに走ってくる。
完全に敵意を持ってこちらに向かってきていた。私は剣を取り出し、向かってくる一匹を一撃で絶命させる。
二人もそれぞれ、戦っているようで魔物の悲鳴が聞こえていた。
「よそ見していて余裕だと思ったか。私はその程度の不意打ちでは全く効果ないわよ!」
背後から勢いよく向かってくる二匹を、余裕な笑みを溢しながらぶった斬る。
その光景を見ていたこの群れのボスと思われるウルフは、状況を察して逃げる指示を出していた。
片目は、鋭利な爪で引っ掛れ閉じ切っているが、片目だけでも鋭い眼光でこちらを見ていた。
「何? 仲間は逃がして私と戦いたいの?」
私は言葉など通じないと分かっていながらも、口に出してしまう。
右前足を前に出し、威嚇態勢に入る。いかつい咆哮を上げこちらへ飛びかかってくる。
だが先ほどまでの連中と違い、とてつもなく早い。それに、何より撹乱が惚れ惚れしてしまうほどだ。
スピードの緩急を一歩ずつ入れ替え、剣を振るタイミングを狂わせるのが上手だ。
「それでも剣を振らなきゃ攻撃は始まらないけどね!」
奴の策略にハマるかのように、それはものの見事に空中に避けられ鋭利な爪が私を襲う。
「ぐぅっ……やるわね。でもすぐに離れなかったお前はバカだよ」
渾身の右ストレートが、顔面にクリティカルに当たる。奴は勢いよく飛ばされ、近くの木に体を強く打ち付けていた。
「私に一撃与えたんだよ。これで終わりなわけないわよね」
悪魔のような声が奴に届く。こちらに精一杯の睨みを見せるが、やはり先ほどの一撃が効いたらしい。
今にでも倒れそうな状態で、かろうじて立っているかのような状態だ。
「早く来なさいよ。私に一撃与えたんだから早く向かってらっしゃい」
最後の力を振り絞るかの如く、先ほどよりも、ただ速いだけの突進で向かってくる。
「もうそんな知性は無いって言うんだね。君は私をそこまで楽しませてはくれなかったね」
そんなこと言ったのを撤回しよう。突進と見せかけた攻撃は、私の死角となる真下から一気に頭を突き上げてくる。
「何それオモロ!」
だが、それは瞬間的に後ろに引っ張られ攻撃は決まらなかった。
そうして私は、首を斬り飛ばしたのである。宙に舞うウルフの首。
地面に落ちる頃には、消滅していた。
「わざわざ助けてくれなくても良かったのに。フェクト」
「これ以上、剣聖としての失態を重ねられたら村人たちだって、不安がるだろ」
フェクトの言葉には確かにと納得してしまった。そうして、ポーションを飲んで傷を癒す。
村に戻ると、先ほどの女性が真っ先に声を掛けてきた。
「この村を救って頂きありがとうございました」
「冒険者として当然なことをしたまでですよ」
その夜、村は大宴会となった。村人たちは無事なことに対し、祝い酒を楽しんでいた。
来た時は、まるで別人のように人が変わっていた。そんな光景を見ながら、私たちはエールを飲んでいた。
「それにしても、アリアが攻撃を受けるなんてな。その狼、よっぽど強かったんだな」
「わたしも思ったニャー。ふとアリア見たら、体怪我してて驚いたんだからね」
心配を掛けたと謝る私。その言葉を聞いて、二人ともだいぶ落ち着いた。
でもこの村の近くには、まだ倒さなければならない者が居るはずだと、思うとまだ油断は出来ない。
あのウルフにあそこまで怪我をさせたのは、おそらく大型の四足魔物で間違いないだろう。
それに今回の騒動で、非常食を失ったと分かると、すぐさまここにやってくると思って良いだろう。
「とりあえずあと二日ぐらいはゆっくりしてから、旅を再開させよう」
そうしてその日はそのまま、宿に戻って眠るのだった。




