30話 解決と出発
戻った時には、領主の顔は顔面蒼白でミニシアもどうしていいかわからない顔している。
ただ、一人だけはニコニコとしている男がいたのだ。
「何この地獄絵図?」
そんな言葉を言いたくなるレベルだ。
「やぁ、待っていましたよおかえりなさいませ、剣聖少女様」
これが俗に言う、王子様スマイルだろうと思うほどの笑顔で対応してくれる。
見た目は、金色の髪をしており清潔感のある男。
「そんなことより、領主様変更ってどう言うこと?」
一番に気になる疑問はそこだ。
どんなことをして、変更処置なんて取られるんだと疑問に思って当然だ。
「私共が送らせていただいた支援金の一部をご自身のものとしてしまったと申し上げたら良いのでしょうか?」
支援金、自分の妻となる国を豊かにするために渡されるお金か。
それをおそらく数年は、続けていたであろう。
それを王族自ら来るなんて、どれだけやったんだアイツ?
「お金としては年間ダイヤダイナール一枚かな」
私の顔は、そのわけがわからない単語に戸惑いを見せたのだ。その顔を見たマメシアは、すぐさま脳内に語りかけてきたのだ。
(ダイヤダイナールとは、国のために使われる特別なお金でございます、それ一枚でダイナール十枚分です)
「どうやって気がついたんだ? 使者でも送り込んでいたの?」
第五王子は、目を見開いた後とても楽しそうに笑っている。私には、何がおかしいのかわからなかった。
「その通りです、三年前から使者を送り込んでおりました」
それには、王子と私以外の二人は驚いていた。
「私たちの発表があった時からずっとってことですよね」
「その通りだよ、お金は五年前から送ってんだけどね」
おそらく、ミニシアは全く知らなかったと言ってもいいであろう。
ミニシアは、貴族ご令嬢とはいってもまだ五年前にもなるとまだまだ成長なんて出来てない。そしてミニシア自身、こういった勉強はまだまだ始めたばかりであろう。
そして何より、ミニシアはこういった話に全く興味がなかったと断言できる。
「それで処分はどうするの? 死刑とかではなさそうだけど」
「もちろんお金を返してもらうよ、返せなかった分は奴隷として三人に働いてもらう」
それまで黙っていた元領主の男が口を開いた。
「待ってください! お金はなんとしてでも返しますので、どうか娘だけはお願いします、何も知らなかっただお願いだ」
「それで、国民が許すとお思いですか?」
先ほどまで笑っていた顔が一変する。まるでゴミを見るかの目で男を上から眺めている。
その光景は、ミニシアに見せないように私は目を隠している。
「一体どうされたのですか? 剣聖少女様、見せてください!」
「ちょっと待ってて、すぐ終わるから」
そうして泣き崩れる男は、すぐさま捕らえられその場を後にした。
そして、ミニシアの父親やシューミンを含むメイドたちが集まってきたのだ。
「剣聖様、この後お時間ありますでしょうか?」
「手短に済ましてくれるならね」
そういって、ミニシアの父親と屋敷に向かわれたのであった。
そして影も見えなくなった頃、ミニシアは力尽きたかのように、地面に座り込んだのだ。
「だ、大丈夫?」
「お嬢様!!」
「あ、大丈夫です、少し緊張の糸が切れただけですから」
先ほどまで、いろいろなことがあったのだ。それが体に疲労感を与えても仕方ないことだ。
それほどまでに、体は弱りきっていた。
「お嬢様、こちらにお座りください」
そしてすぐさま、ジャスミンティーの準備に取り掛かっていた。
「マメシア、よく頑張ったね」
マメシアに声をかける。どんなことでもいい、今は彼女に寄り添ってあげられるような言葉が必要なのだ。
私が来るまで、その間一人孤独だった。それを耐えたミニシアを褒めるのは、当たり前なことだ。
「ありがとうございます、アリア様」
そうしてお茶会を楽しんでいると、老けた男がこっちに向かってくる。
「じゃあ行ってくるよ、二人は引き続き楽しんでね」
老けた男についていく。老けている割には、軽やかに動いている。
今までの苦労でそうなっているのだろうか? それとも年相応に老けてはいるものの、運動能力が落ちていないとかそんな感じであろう。
「お連れしました」
マメシアの住む屋敷の外で待っているのは、やはり第五王子である。
わざわざ外で話す内容なのか、それとも屋敷には入れないのか。
「ありがとう、二人だけにさせてくれ」
「仰せの通りに」
第五王子は、少し黙ったままだったが何かを決めたかのように喋り出したのだ。
「本当は、元領主の断罪と同じタイミングで婚約破棄をしようと考えていました」
「思い直したってわけか?」
「その通りです、ここ数日剣聖様との出会いで変わっているとお聞きになりましてね」
確かにミニシアは、変わった。私との出会いでだいぶ穏やかになり、最近では運動をまでしているのだ。
「剣聖様との出会いで、彼女が変わったのを見て少し興味が湧いたのです」
「それなら何よりだ、私にそんなことを言うために二人だけになったのか?」
おそらく話は別にもある。剣聖は、その気になれば王都だろうと一声で潰せる。
それを抑制したいと思うのが普通だ。実際、師匠もこの手の話は多かったと言ってた。
「もしよろしければ、わが軍の総指揮となってはいただけないでしょうか?」
「断る」
「ですよね、それが聞ければいいのでありがとうございました」
案外すんなりと引き下がるんだなと、少しがっかりした。もっと、強くくるもんだと思っていたのに拍子抜けもいいところだ。
「剣聖様、また気が変わりましたらいつでもお声がけください」
「もう話ねぇなら帰るぞ。王子様よ、マメシアを泣かしたら私は許さないからな」
「承知しました」
そんな言葉に効力を持たないのは、わかっている。ただ言っておくことに意味があるのだ。
「あ、忘れてました。イデリア様に勝つことができました、ありがとうございます」
意味不明のことを言っていたが、別にどうでもいい。
そして私は、この国を離れることに決めたのだ。
「それでは私はこれで、何かあったらいつでも相談に乗るわ」
「本当に行ってしまわれるのですね、良い旅を」
「これを持っていってください」
袋の中身は、お菓子やらお茶などが入っていた。そして非常食になりそうな、干し肉なんかも入っていてありがたかった。
「ありがとうね、楽しかった」
別れを告げ出発しようとしたその時だった。一人の青年が声をかけてきたのだ。
「剣聖様! 本当に助けていただきありがとうございました、このご恩は一生忘れません」
「おばちゃんを大切にな」
そして、昼間を過ぎた頃剣聖少女アリアは旅を再開するのであった。
クエストの処理は終えて出発しています。
アルグスは、アリアと知り合いというのが決め手となりミニシアの専属護衛兵として昇格を果たした。




