332話 最悪な終わり方
ガンバートさんは、完全に魔物となった。剣を構え、彼を見る。
いつ何時攻めて来そうな雰囲気を醸し出しているが、彼はそう簡単に動かないという自信があった。
この私を見て、下手に動けば死が直感で分かっている。
お互いに一歩も動かずただジッとお見合い状態が続く。だがそれは、長くは続かなかった。
痺れを切らし、彼は剣を抜きこちらへ走り込んできた。
「魔術師の君が剣術戦に持ち込むなんてバカなんじゃない?」
大ぶりに剣を振るうが、そんなのは初心者でも簡単に避けられる。基本的な動作が出来ている。魔術師としては中々の逸材だと言っても良いだろう。
その理由は、魔術師は基本的に魔法での攻撃しかしてこないからだ。剣に形状変化させ、戦う人も居るがそこまで重きを置かない。
近距離戦を魔術師が行うのはむしろデメリットだと言える。そんなはずなのに、彼の動きはどう見ても基礎練をしているのを物語っていた。
「それなら私も剣聖として君の思いに答えよう」
避けるのを止め剣で攻撃を受け止める。実際に受けてみて分かる。
これは、剣の訓練をしている力強さ。
先ほど剣を避けていた間、振りかぶった一撃が避けられた瞬間、途中で切り替え横一閃に切り替えていた。
なぜ剣の腕前もあるのか、聞きたいと思うがもうそれは望み薄ぐらい、私にだって分かってる。
でも、元に戻るなら話をしてみたいものだ。
「良い攻撃じゃん。勢いもあるし剣の才能があると思うよ」
そんなことを言っても、彼には伝わらない。鎧で顔を覆い全く表情は見えない。
それに黒い翼が生えた瞬間、目から黒い液体のような流れていた。
段々と激しさを増していくのを感じる。鋭く、隙をついて攻撃するかのような戦法は、私を楽しませてくれた。
私の心の中では、楽しい気持ちでいっぱいになる。それが全身に伝わり、彼の思いに応えるかのように打ち合っていた。
「でもね君は一番大事なものが抜け落ちてる。それは、決定打だよ」
今まで攻撃を受けてきて、彼が剣の才能があると分かった。
だからこそ私が楽しんでいた。
ただ、いい攻撃が打てたとしても、決定打がなければ勝てる戦いも勝てなくなる。
そんな彼の攻撃は、ほしい一撃を持っていなかった。
「決定打っていうのはねこういうことを言うのよ」
剣を鞘に戻し構えを取る。飛び込んできた所を、最速抜刀で跳ね飛ばす。
彼は体勢を崩し、そのまま地面に倒れ込む。その際、剣を手から離してしまい無防備になる。
「ソード・インパクト」
手加減はしているが気絶するかもしれない。そう思ったが、それでも私は剣技を放ったのだった。
鎧は砕け散り、地面がクレーターのように大きくへこむ。魔物に変貌を遂げた彼もこれには堪らず、悲痛な叫び声を上げた。
「これが決定打。体に直線叩き込んだんだから分かるでしょ?」
彼からの返事はない。痛みが全身に広がったのか、地面でのたうち回っている。でも思ったことがある。それだけのダメージを与えていても戻る気配はない。
それどころか、少しずつではあるが痛みが引いて来ているのが分かる。
「もう立ち上がれるの? さっきまであんなに痛そうにしてたのに」
思わず聞いてしまう。一定時間を過ぎた辺りから、彼はゆっくりと立ち上がり始めた。
血反吐を吐いている中、それでも立ち上がり次は杖を取り出し始めた。
「剣がダメなら魔法? それもいいけど、私的には剣の方が強いと思うけどね」
そんなことには気にも留めず、魔弾を繰り出してくる。先ほどのエルザ戦の時に感じた魔力とは、比べものにならないほどだ。
「これも魔物になったから? それとも魔力覚生だろうか」
属性の魔弾を放出しているが、よっぽどエルザに遊ばれたのが頭に来たのが伝わってくる。
その証拠に、やけに小さい魔弾がちらほらあっそれを剣が振り切ったタイミングで当たる。
「痛いわね。でもそれでも決定打が足りてないわね」
こんなわけも分からない魔物をどう対応したらいいのか、正直頭を抱えてしまいそうだ。
仕舞いには翼を広げ飛び上がり、魔弾の雨を降らせてくる。
「それでもまだまだ弱いわよ! 強さも攻め方も全部が中途半端でストレスが溜まりそう」
飛び上がり木剣に持ち替え、剣聖たる由縁の一撃を叩き込むのだった。
そうして彼は今度こそ、倒れたのであった。
「やっぱり消滅はしない」
だが次の瞬間だった。どこからともなく魔法が飛んでくる。
「危ない!!」
フェクトが危機一髪、結界を発動させたことにより当たることはなかった。
だが地面に倒れ込んだ彼の腹部には、魔法の一撃が刺さっている。
「あれってライトニング?」
そうしてライトニングは役割を終えたかのように、消えていく。
「息の根は止めさせてもらったよ、剣聖様。彼には実験台になってもらいましたが、やはりまだ弱かった。調整が必要なようですね」
声が聞こえる方に振り返ると、そこに立っていたのはダークウィッチーズの野郎だった。
彼も私の顔を見てにこやかな笑顔を浮かべる。
「今ここで貴様を斬る!」
「そんな怖い顔をなさらないで下さい。お可愛い顔が台無しですよ」
トントータ、ポイズンの拳を片手ずつで受け切っている。話している最中に一撃を浴びせようとしたのだろう、それを完璧に止められてしまっていた。
「俺たちの一撃を受け止めるなんて」
「まだ終わってなんていないわよ。ポイズン」
拳から手に毒を当てる。次の瞬間、皮膚がデロデロに溶け出しているが顔色一つ変えず、涼しい顔をしていた。
私以外、強張った表情をする。だが流石にウザくなったのか、両手を離し魔弾を二人にぶち当てた。
「手が簡単に治ってる!?」
手を離した瞬間、魔弾を撃つ時に回復までやり終えたのだろう。
なんという早技だと思ってしまう。そんな奴が、敵側に居るのは大層厄介である。
「今後ともこのようなことは続きます。お楽しみあれ」
そう言った瞬間、彼は消えた。そうしてこの国での騒動は、被疑者死亡で幕を閉じたのであった。
そうして私はこの半年で色々なことを経験したと、改めて思うのであった。




