323話 毒素を持つ魔物
燦々と降り注ぐ暑い日差し。それを浴びながらも旅は続く。
箒を想いのままに動かし、今日も進んでいた。
どこかで休息を取りたいと思っているのだが、周りに広がるのは、自然のまま伸びていて、草花生い茂った草原地帯。
上空から見えるのは、草花が風で揺れている光景ばかり。休める場所なんて、ここにはなかった。
だがここで諦めるわけにも行かないのだ。私の後ろには、ナズナがいる。
ナズナは、いつも通り寝ているように思えても、だいぶ体力を消耗しているのが気配で分かる。
それは、ずっと結界を張っているフェクトも同じである。降り注ぐ日差しは、結界を貫いてくるレベル。
いくら冷たい冷気を流していても、体力を奪うのは結局同じことである。
ここ数時間、二人は一切口を開こうとしなかった。無駄な体力を消耗したくないのか、ずっと無口で少し機嫌が悪そうにも見えた。
「マップで確認するか」
マップを展開させ、どこか休める所がないか探す。そうして見つけたのは湖だった。
「ここからそこまで離れてはないわね」
止まっていた箒を動かし前に進ませる。それの後を追うかのように、フェクトの箒も動き始めた。
向かっている最中、草木の中から突然上空に魔族が飛び出してくる。
私たちが飛んでいた所よりも高く飛び上がり、私たちの真上に彼は居た。
「この暑さで油断してたな。俺様の気配を感じないなんて、ここで殺してくれって懇願しているようだぜ!」
ダブルスレッジハンマーが結界にぶち当たる。次の瞬間、手が目を覆いたくなるような折れ方をしていた。
「魔族ごときが何のようだ?」
フェクトの逆鱗に触れた。その証拠にものすごい殺気がこちらにまで飛んで来ている。
殺気を見せただけで、魔族ですら殺しそうなレベルである。
ただでさえ機嫌が最高潮に悪いと言うのに、それさえ感じ取れない、何とも言い難い魔族で呆れてしまう。
完全に萎縮しているのが気配で分かる。ただ、それで終わりなら魔族とは呼べないだろう。
「俺様に殺気だと!? お前ごときなんかに負けるか!」
思わず感心してしまう自分が居た。だがフェクトには、全くそんな言葉届いていない。
それどころか、実力行使しなければならないことに落胆を見せていた。
こちらに視線を送り「殺ってくれ」と言われているような気がしてならない。
だが相手が希望しているのは私ではない。それが分からないフェクトではないだろう。
あとで何かしら文句を言われるだろうが気にしない。
「あなたのお客さんよ。さっさと行きなさいよ」
「主人様、こういう時は言ってくれてもいいんですよ」
「こんな時だけ呼ばないで。ずっと結界を殴っているわよ」
最初の一撃で骨が折れたというのに、流石の回復力はいつ見ても惚れ惚れするものだ。
私にもそれがあれば良いのになぁと思うこともあるが、それはほぼ人間でないので、やめておこうと心の中で完結させる。
「いつまでも殴ってんじゃねぇよ! 魔武式・一鉄突き」
腹部殴って上半身破裂させた。相当怒り籠っているのが伝わってくるほどだった。
「そんなカリカリしないでよ。せっかく良い場所に連れて行っているだから」
「元はと言えば、アリアがあの魔族倒してくれていたら揉めないよな」
「でも相手は君をご指名だったし、それに私なんて眼中にもなかったわよ」
フェクトはそれから黙った。私は人間である、それだけで殺す対象から退くことがある。
それをフェクトには覚えていてほしいものだ。
「とりあえずあと数時間で着くから、それまでには機嫌を直しててね」
そうしてたどり着いた湖は、とても綺麗とは言えなかった。
「汚染されてる?」
「魔物が居る。それも毒素をばら撒く系の水辺に生息する魔物だ」
次の瞬間、湖の中から光線のような速さの水が放射された。
「結界にヒビ入ってる! 結構離れているはずなのに、狙ってくるなんて良い度胸してるわね」
「しかも狙ってきた場所、さっきの俺様系魔族の殴ってた所だ」
結界の脆くなっている部分を確実に狙ってきている辺り、強いという説得力を増していた。
「高密度の魔力反応! もう一回来るぞ!」
「ここは私に任せて!」
箒から飛び出し、結界の外に出る。先ほど同様の攻撃がこちらに向かってきていた。
「私を止めたいなら、その数百倍は強い威力じゃないと私は止まらないわよ!」
神速の速度を誇る私の抜刀技術。それの前では、無意味である。
「まだ強くなるのよ」
フェクトの冷めた声が聞こえた。私にはまだ限界はない。
「一気に湖に飛ぶ! 足場借りるわよ」
結界に足をつかせ、一気に蹴り出し湖に飛び出す。
それを阻止しようと、湖の至る所から先ほど同様な攻撃が飛んでくる。
「何十匹も住んでるってわけ? そんな多いことってあるんだ」
呑気に感想を述べつつ、剣を振るう。こちらに飛んでくる全て、斬撃で相殺する。
「痺れを切らしたのみたいね」
何匹か飛び出し、噛みついてこようとする。だがそれは、私から見れば、最大の悪手と言えるだろう。
「油断するな! 毒素のブレスが来るぞ」
上空からフェクトの声が、微かに聞こえる。次の瞬間、噛み付くように見せかけ、ブレスが放出される。
「インフェルノ!」
毒素とぶつかり、凄まじい爆発を起こす。それと同時に私にも多大なるダメージが体を襲う。
「グゥうッ!」
「アリアしっかりするニャー!」
ナズナがガッチリと捕まえ威力を殺す。ポーションを掛けられ、痛みは引いていく。
「フェクトも無茶なことをするニャー。とりあえずここから一気に畳み掛けるニャー」
そう言った瞬間、フェクトの魔法が魔物に炸裂する。
「インフェルノ・ビット!」
威力は弱まるが、確実にダメージを稼ぐ。その証拠に、魔物の悲鳴が静かだった湖に響き渡る。
「私たちも行くわよ! フェクトに刈り取られる前に、私たちが決着をつける!」
「当たり前ニャー!!」
木々を飛び越え、一気に飛び出す。
「獣拳・インパクト!」
「一撃一閃・インパクト!」
湖の中心から放たれる技は、多大なるダメージを魔物に浴びせたのであった。




