320話 指示を出す者
司書さんと共に、オーガ退治に勤しむ。この原因を探るにもまず、この状況をどうにかしなければならない。
「まだ三人とも戻ってこないね」
「あちらも相当数居るのですよね、それならまだ無理かと」
だが国の外で戦っているのは、フェクト、ナズナ、アークエスの三人である。
その三人が揃って、時間が掛かることは考えにくい。何か起きているのだろうか?
……
アリアが心配している頃、フェクトたちは魔物退治に勤しんでいた。
拳を繰り出し魔物を倒す。足を繰り出し魔物を倒す。それを何度も続けても、終わる気配は一向に感じられなかった。
それどころか、より数を増している様に感じる。
「お前らそこ退け! 一気に魔法でこじ開ける」
魔力を右手に集中させ魔弾を飛ばす。早い一撃を繰り出し爆発させた。
その勢いで撃った部分に隙間が出来る。それを補う様に、近くに居たものからそこを埋めるように動き始めていた。
「指令を出しているやつを倒さない限りダメってやつか。ナズナ、覚醒して良いから一気に掻き乱せ」
「フェクトに言われるまでもないニャー」
ナズナは覚醒させる。それと同時に、魔物たちは後ろへ下がり始めていた。
あの魔物をここまで指示通りにさせている時点で、指令を出している奴がどれだけ厄介な奴か想像出来る。
「離れたって無駄ニャー、わたしの前からは逃げられないニャー」
ナズナの勢いを止められるはずもなく、魔物が蹂躙されていく。
その場は、魔物たちからしてみれば地獄絵図と化していた。
「俺たちはその間に、指示を出しているやつを探すぞ」
「……は、ハイ!」
アークエスの返事は、無理に出している声であった。それもそのはずだ、俺たちについてくるため相当無茶な戦い方で戦っていた。
重量武器は、その一撃は一番のダメージを叩き出せるほどには強い。
それをかれこれ一時間近く、全力で振り翳していたら疲労が見えてくるのも当然である。
それだけ体力が削れていながら、その目はまだ諦めた感じではなかった。
「俺に任せて下さい! 俺はこの国で、白銀の冒険者として名を馳せているアークエスなんで!」
「それなら全力を出せ。早く倒さないと、ナズナに先を越されるぞ」
「はい!!」
とてもn大きな声だ。目つきが変わり、斧を構え直す。
それを感じ取ったのか、魔物たちは一歩、また一歩と後ろへ下がる。
だがそんなことをした所で、無意味なことぐらい分かっている。
だからこそ、後ろに下がるのを止めこちらに向かってくる魔物もちらほら居た。
「両断・乱れ打ち」
飛ぶ斬撃。それをとてつもない早さで放っている。一瞬にして、飛び込んで来た魔物を消滅させていく。
それに感化されるようにして、ナズナもよりヒートアップさせて行く。
それにより魔物もだいぶ捌け始めている。
「これで探しやすくなる。俺みたく、どこかで観察している可能性も高いよな」
気配感知を発動するが、特に目立ったやつは居ない。気配がゴリゴリと削られていくのを感じるだけだ。
でもここまで気配が削られていても、この魔物たちの戦い方はまるで変わっていない。
まるで最初の命令を実行するために、動いているかのような動きである。
それがすでにバレているため、それ相応の対策を取れば特に問題はない。
「最初の命令はおそらく、穴が空いたら塞ぐ。おそらくこれで合っているだろう」
だがなぜそんな命令を出した? 向かってくる魔物を殴り飛ばしながら考える。
それに気になったことは他にもある。それは、おそらく命令にはない行動を取り始めているのが多いことである。
後ろに下がりながら穴を埋める様に動いていたのが、数人は常に、こちらへ向かってきている。
それによりおそらく、指示の効力が段々と弱くなり始めているのを感じる。
それによって考えられる要因は、倒された可能性だ。ただ、それならとっくに解けても良いはずである。
だが現実は違う。まだ解けておらず、まだどこかに居るはずである。
「フェクトそっちに行った!!」
大きな声で叫ばれる。アークエスの方を見ると、確かにローブを身に纏った魔物がこちに走っていた。
息を切らしながらも全力で逃げてきている。自分がやられたら全て終わりと分かっているような走りである。
「こっちに来たのが運の尽きだったな。俺の前に来たことあの世で悔やむんだな!」
右の拳に力を込める。そうして、一気に魔物に向けて拳を突き出したのだ。
その勢いは凄まじく、ウィッチは派手に地面に打ち付けられた。
「まさかウィッチが首謀者? 相当大それたことをしたんだな。でもこれで終わりだ!」
黒炎がウィッチに襲いかかる。次の瞬間、そうしてこの勝負が終わりを迎えたのである。
大元が亡くなった以上、彼らにここを襲う意味はない。そのため、全力で逃げ出していく。
「ナズナ戻って来い。これ以上無駄な殺生は控えろ」
ナズナの顔は、不満そうにしていたがすぐさま戻ってくるのである。
アークエスは、その場に倒れ込んでしまう。完全に体力の限界を迎えたのが分かる。
それだけのことを彼はやってのけた。
「どんだけの魔物を葬ったんだ? そこらじゅうに血の跡があるぞ」
「分かりません。無我夢中で倒してたので、全く考えてませんでした」
手を貸してようやく起き上がれるレベルである。武器をボックスにしまい、肩を借りて歩き始めた。
「ナズナは先に行ってくれ。アリアたちも魔物と戦闘しているみたいだ」
「了解ニャー」
そうしてナズナは、すぐさま豆粒になるぐらい早いスピードで、その場を後にした。
……
その頃アリアは、オーガとの戦闘を繰り広げていた。国の中心部を目指し進行していくオーガを倒す。そんなことを続けていた。
「ようやく終わったみたいだね。これで少しは原因を探ることが出来る」
私は心の中でも安堵する。ようやくやらなきゃ行けないことが出来そうだ。
そんな時だった。女性の甲高い悲鳴が聞こえたのは。




