319話 血飛沫冒険者
翌日。私たちは、朝からギルドの方にやって来ていた。ギルマスからの呼び出しである。
「朝から慌てて何かありました?」
アークエスは、周りを見ながら言う。ギルマスの顔は、焦っていた表情から、安堵した表情へと変わる。
「待ってたぞ。門付近に魔物が集まって来ているんだ」
「それの討伐ですね。すぐに終わらしますね」
そう告げた瞬間、アークエス一人転移で行ってしまった。それの後を追うように、私たちも転移する。
気配感知を作動させると、門の全域に魔物の気配がする。どこか統率が取れたような配置なのが引っかかる。
「統率が取れている、その点に充分注意してね」
そうして私たちは、門を飛び降り一気に飛び出していく。それに気が付いたのか、四足歩行の魔物が飛び出してくる。
「犬っころか。私を止めたいならもっと強い魔物差し向けた方が良いわよ」
魔物に意味のないアドバイスをしつつ、突き進んでいく。それを阻止しようと魔物が次々に来るが無意味であった。
剣を振り翳し、複数同時に絶命に追いあっていく。耳に残る最期の声。
それらを聞いても、私は止まることは無かった。
「それにしてもどうして?」
そんな時だ。国の方から何やら騒がしさを感じてしまう。嫌な予感がする。確証はないが、それをやるには好都合すぎるタイミングである。
「私、国に戻るわ!」
二人は困惑した表情をしていたが、アークエスは腕を大きく突き上げる。
そうして、私は一時戦線を離脱した。
「何事もなければ良いんだけど」
全速力で走る。それは私の思ったことが起きていた。軍の連中、冒険者連中が交戦を始めていた。
オーガが国のなかで暴れ回り、入ってすぐの所は、破損箇所が多く見られた。
オーガは、周りが見えないほどに興奮をしているのが伝わる。
持っている棍棒を振り翳し、建物に当てながら攻撃していく。
軍や他冒険者では、倒すのは確実に無理そうである。
「私を見ろ!」
こちらに視線を向けさせるため、大きな声で叫ぶ。暴れていてたのが、嘘みたいに鎮まる。
こちらを睨みつけ、棍棒で構えをとる。
「良い子だ。私が相手をしてやるからありがたく思ってよ」
オーガは雄叫びを上げる。凄まじい殺気とともに走り出し、こちらに一直線に向かってくる。
棍棒を地面に叩きつけた瞬間、上空に飛び上がり、真っ二つに斬り裂いた。
消滅した瞬間、他にもいたオーガたちは一目散にこちらに向かってくる。
私が圧倒的に危険と判断しての行動だろう。何かを成すために、その犠牲として向かって来ている。
最初から勝ち目がないことぐらい、オーガは分かっている。
それでも、歩みは止めない。
「その行動、それが君たちの答えというのなら否定はしない」
立ち止まっていた体を動かす。瞬間加速でオーガの目の前に現れる。
次の瞬間には、そのオーガの首は宙に舞っていた。そこからは簡単な行動である。
こちらに振り返る瞬間に斬り飛ばす。
立ち止まったからには、それ相応の覚悟を持ってもらわないと私を前にして、立ち止まるなんて自殺行為でしかないのだから。
「あれが剣聖の強さ」
「何やってるか全く分からん」
若い冒険者の二人が、そんなことを言う。おそらく銀の冒険者の成り立てだろう。
それも銅の冒険者として、あまり経験を積んでいない感じなのが、雰囲気から伝わってくる。
それなのに、こんな場所に向かってくるなんて、自分の強さを理解していない、ただのアホである。
「お前たち、そこで突っ立ってないでさっさと避難しろ!」
冒険者の二人は、自分たちに言ったのかと疑問の顔でこちらを見てくる。
「お前たち如きの強さで、オーガに向かってんじゃねぇ! ここで死にたいわけでもないんだろ、軍の連中らも、さっさと動け!」
彼らは逃げるように、この場を去っていく。これでようやく戦いやすくなる。
「剣聖様。あの様な言い方では、反感を買いますわ」
狭い路地から現れたのは、昨日の司書さんだった。図書館で来ていた制服のまま、血まみれのレイピアを持っている。
何とも異色の光景だが、そこは置いておこう。
「ここに魔物が出た原因って分かりますか?」
「分からないわ。でも一つあるとしたら、魔物を呼ぶベルが使われたとかはありません?」
ダークウィッチーズが開発したあれか。確かにそれは考えられるが、だがアイツらは今回まだ遭遇していない。
「なんでそれを思ったんですか?」
「あれアークエスくんから聞いてない? ここは少し前、ダークウィッチーズに襲われたんですよ」
だったらその考えに至るのも当然って言えば当然か。
「もしかしての話なんですけど、コレって可能性あります?」
「それは考えられるわね。そっちの方がまだ可能性としては高い」
そうして原因を探りつつ、オーガの集団を刈りとる。それにしても一つ思ったことがある。
アークエスが言っていたことは本当だったんだと。
「オーガの頭がそんな簡単に破裂するなんて」
「レイピアは突きの一撃が強いのも特徴ですからね」
だがその姿、誰が見ても逃げ惑うレベルである。破裂した瞬間、血飛沫にあたるためそのせいで全身魔物の血で真っ赤である。
「ベトベトして気持ち悪くないんですか?」
司書さんは、自分の姿を見る。
真っ赤な顔から繰り広げられる笑顔は、私が後ろに飛び上がり構えを取るほどの迫力である。
「だって私、血飛沫冒険者なんて巷では呼ばれてたからね」
よくそれで、今は子供たちに怖がられないな!! おそらく親世代とか、その呼び名知ってるのに。
「そんな顔しなくて良いのに。全然こんなこと、冒険者の時は日常茶飯事だったわよ」
「なぜ司書さんだけが生き残ったか、分かった気がします」
司書さんは驚いた様子だ。
「え、何? それってどういうこと!?」
「魔法少女と会った時も、血飛沫を多少なりとも浴びてましたよね。攻撃に当たってしまい、服に体に付いた血と出血で死んだと思われたのでは?」
「確かにそうかも」
そうしてなぜ自分だけが死ななかったのか、その真相がこんな形で顕になるのであった。




