300話 再トライ
夏の暑さがだんだんと強まりだす今日この頃、私たちは再度山脈にトライしていた。
濃い霧に覆われ、前はよく見えない。ただ、前と違って結界の安心感が段違いである。
それはイデリアが居るからだ。イデリアは、呼吸するかのように、強度の強い結界を展開させる。それは、フェクトですら、羨む程であった。
フェクトの方を見ると、悔しそうな顔をしながらも、尊敬の目をイデリアに向けていた。
ゴツゴツとした山道を獅子王とナズナは、まるで競争するかのように、進んでいく。
それを叶えるために、イデリアは別で結界を生成までしてくれた。
おそらく、ナズナのことを思ってやってくれたのだろう。親代わりとしてずっと育ててくれた獅子王。
久々の再会。時間を大切にさせたかったのだと理解するのに時間は掛からなかった。
少し前を歩くイデリアの隣へ行く。
「改めて今回は手伝ってくれてありがとうね」
「親友の頼みを無下にはしないわよ」
クスッと笑い、落ち着きのある返事が返ってきた。そんな中、前の方から二人が戦っているような声が聞こえてくる。
二人と目を合わせ、直後に走り出した。
気配感知は特に何も怪しいものを感じさせなかった。急に飛び出してきたのか、そんなことが頭の中をぐるぐると回る。
剣に手を掛け、いつでも引き抜けるように準備する。
「二人ともな何かあったの?」
そこには、ゴブリンが二人を取り囲み襲っていた。
飛びかかり攻撃を加えようとする者、少し遅れて一気に詰め寄る者、まるで計画的に動いているように見えた。
「あのゴブリンが、あんなに計画的に動いているなんて!?」
「見入ってる場合じゃないでしょ! 私が魔法で援護するから二人は乱入よろしく」
イデリアに背中をポンッと叩かれ我に返る。一気に下り坂を駆け下り、ゴブリンを斬り裂いた。
横目でフェクトを見ると、双剣捌きも見違えるほどに上達している。
一振りで確実に仕留めるように動いている。それに、一対一の状況を作りより強くなっていた。
「良い動きするじゃん!! 同じ剣使いとして誇らしい限りだよ!」
「私がどれだけアリアの剣を見てきたと思ってるのよ! これぐらい出来て当然だよ!」
ゴブリンは襲撃に遭うと思っていたのか、少しパニックに陥っている。
そのお陰か、二人も攻撃に加わり始めた。
「わたしたちだってそっちのコンビネーションには負けないニャー」
飛びかかって来ていたゴブリンの腹部に、渾身の一撃が決まる。
消滅した瞬間、もう一匹のゴブリンが剣を突き出した所を、獅子王が顔面を叩きつける。
「この程度で後れを取るわけにはいかんなぁ」
「四人ともその場から離脱! 聖なる刃・ビット」
そうしてゴブリンを殲滅した。辺りを見渡すが、特に誰も居ない。
木々の間から他にも飛び出してくるかと思ったが、どうやら違うらしい。
憶測にしか過ぎないが、おそらくこれは完全に妨害行動と思って良いだろう。
私たちが、今回の目的であるドラゴン退治に関連している。
「アリア何してるの? おいて行っちゃうわよ」
そう言われて前を見ると、もう歩き出していた。すぐさま走り、皆んなの元に行く。
イデリアは不思議そうな表情でこちらを見るが、フェクトは『いつもあれか』と言わんばかりの表情をしていた。
それから歩くこと数時間。私たちが白骨化した遺体を見つけた場所まで戻ってきた。
立ち止まり、イデリアと獅子王はそれぞれ手を合わせる。
「こんな場所で何年も二人だけだったなんて」
「だが、一人ではなかったことが唯一の救いでしょう。こんな所で一人は寂し過ぎますからね」
獅子王はそう言って、また歩き出す。その背中は、もっと早く対処していればと、言わんばかりの背中である。
「気持ち切り替えていきましょ。それに感傷なんて放ったている暇なんてなさそうだし」
周りには魔物が集まって来ている。あの時と同じように。
「切り替えにはちょうど良さそう。その生贄になってくれるのね、ありがとう」
足に力を入れ、地面を蹴り出すように走り出す。魔物は、ガーゴイル。
空に逃げた所で長くはない命。
「この私から逃げられると思うな」
首を刈り取る。
「一体目」
威嚇攻撃!? なんて無意味なことを……私を止めるなら攻撃あるのみ!!
「二体目」
複数の槍が飛んでくる。威嚇野郎を囮にして確実に攻撃を当てる作戦だったか。でも私にはその程度無意味である。
跳ね上がり一気に詰め寄る。
「避けて仕舞えば造作もない。五体目」
すぐに地面を見るがどうやらもう出番はない。獅子王とナズナのコンビによって、残りのガーゴイルは消滅していた。
「一分も経たないうちに全滅したな。これ、戦力差あり過ぎでしょ」
「あり過ぎに越したことはないと思うけど。最近事務仕事ばかりしてたから良い気分転換になってるし」
「それはそうかもしれないけどね、このメンバーでドラゴン退治とか、新聞社に何書かれるか分かったもんじゃないわね」
フェクトとイデリアが何か話している。表情を見るに、フェクトは若干呆れてる。対してイデリアは真顔である。
「二人ともなんの話してたの?」
「このパーティメンツ、流石にやばいなって話だよ」
私は興味がない内容だったので、軽く返事をする。自ら聞いておいて、こんな塩対応我ながら反省する点だと思う。
そうして、その後私たちは夜まで何事もなく過ごしていく。
まるで昨日の朝までの出来事が嘘だったかのように。
「明らかに早いペースで、わたしたちが辿った道を進んでるニャー」
「そりゃね、魔法界のトップが居たらそうなるのも無理はないわよ」
「私がまだまだ発展途上で悪かったわね」
おー怖いね。フェクトが明らかな殺意を向けてこちらを睨んできていた。
思わず剣に手を掛けそうになるほどのプレッシャーを添えるなんて、私も嬉しい限りだ。
「おい、私の殺意を何喜んでだ? 逆にどう対応すればいいか分からんからやめてよ」
「えーなんでよ!? 私の使い魔なんだし、それぐらい対処してよーフェクト!」
そんな会話をしていると、咳払いが前から聞こえてくる。
「イチャコラしてる間に入るのは若干気が引けるけど、どうやらお目当ての魔物と遭遇したみたいよ」




