275話 撤回
仲間たちが帰ってくる。その時、私たちは完全にできあがった後だった。
「おーおかえりー、ようやく帰ってきた、おそいよー」
仲間たちは、私の顔を見るなり汚物を見るかのような目で見てくる。
「何やってんだアリア、俺たちがクエスト行ってる間に」
「何って見ればわかるでしょー、飲み会だよーせっかく王子も来てるだしさー」
フェクトは王子の方にも視線を向ける。その目は、なんとも言い難い目で彼を見ていた。
「王子様、何をしているのですか? あなたまで酒に呑まれるなんて状況分かってます?」
彼はその声にビビり、すぐさま酔いを醒ました。次の瞬間、土下座をしたのであった。
「まさかとは思いますけど、お酒を飲むために来たのではありませんよね?」
「お詫びに伺いました。その際、剣聖様からのお誘いがあり、お断りするのも失礼と思い、お供させて頂きました」
こちらをギロッと睨む目、完全にキレている。今にでも魔法を放ちそうであり、恐怖心を抱かせる。
「別に構わないでしょ、王様代理としてエルザが王位を継ぎ、その側近として子供たちは尽力することになってるんだから」
「それはそうですが、まだこのことは未発表案件です。それに大陸全土の民がどう思うか想像できるだろ」
「この話に関しては、私とイデリアとの意見を纏めて決まったことでしょ、今更口出すのはどうなの?」
今にもお互いヒートアップしそうな勢い。頭で分かっていても、言葉が止まらない。
そんな時だった、頭に強い衝撃が走ったのは。
「痛っ! 何するのよナズナ!」
「何か気に触るようなこと言ったか?」
「まず二人とも落ち着くニャー。ここで話した所で、何も解決なんてしないニャー」
「ナズナの言う通りですよ。お二方とも、少しばかり外の空気を吸ってきてはいかがですか?」
ガードに言われるがまま、私たちは半ば強引に外に放出された。
中に入ろうとすぐに振り返るが、勢いよく閉まる扉。ガチャっと鍵が閉まる音が聞こえ、私たちは仕方なく歩くことなる。
「まさか鍵まで掛けられるなんてね。ここまで強引なことしなくてもいいのにね」
「まぁ俺たちにも悪い所があったと言うことだろ。それよりどこ行く?」
どこ行く? そう言われても私には行きたい場所なんてなかった。
何度も長期滞在をして大抵の場所は一度は訪れている。
「特に行きたい場所はないかな」
「そうか。それだったらその辺ぶらぶら歩こう」
そうして私たちは、大規模な抗議デモが行われている大通りを通る。
「あ、あの! 剣聖様ですよね、我々新聞社の者です、今お話よろしいでしょうか?」
「よろしくないわよ。あなたたちに話すことなんてこちらは何もないわよ」
強い口調で言うが、全く怯むことなく話しかけてくる。
「管理者イデリア様が言っていることについて聞きたいのですが、協議して決めたと言っていましたがそれは本当でしょうか?」
「なんのこと? まずねなんでもかんでも、最初から情報を知っている前提で話さないでくれるかしら。ちゃんとどんなことか、言ってから聞きなさいよ!」
男性の記者は少し怯むが、すぐに立て直して話を続けた。
「王としてエルフ族のエルザ様が王位を継ぐということ、現王様が今後戻ってくることについてです」
イデリアが話した? このことを、それはまずもってあり得ないと考えるのが妥当だろう。
なぜならこの発表は時期を見て言うことと決まっていたからだ。
「そんな情報知らないわよ。それに本当にイデリアが言っていたの?」
男は途端に黙り込む。おそらくこれは、ギルド前で私たちの会話を聞いてしまったのだろう。
だからこそその真意を突き止めたいと思ったと考えるのが妥当。
「もう一度聞くわね、誰が言っていたのそんなこと?」
「その辺で止めといてやれ、トラウマを植え付けるのは良くないぞ」
フェクトの言葉で我に返る。そうして逃げるように去っていく彼を見送りつつ、私はテレパシーを発動させたのだった。
(ごめん私のせいだ、情報が漏れてた)
(王位のこと? 私の名前を使っているのは情報が入っているわ、それに対する抗議を今して来た所よ)
(おそらく奴らはその情報を出すけど先に発表しちゃう?)
イデリアは考えたのち、すぐにその準備に取り掛かると言ってテレパシーが切れた。
そうして三十分も経たないうちに、このことは大々的に魔法界、エルフ族のエルザが説明し話題を掻っ攫っていった。
翌日。私たちの家の前には、大勢の新聞記者が出てくるのを待っているのが気配で分かる。
おそらく前王様の一件だろう。私とイデリアの権限で、罪を償い次第王様としても復帰することについてだろう。
「みんなこれについては私が説明行くから、手は出さないでね」
釘を刺すように言い、私は新聞記者に囲まれながら話をすることとなった。
「手短にね。私だって時間はあまりないんだから」
「早速なのですが、どうして復帰させると言ったのかその真意を教えてください」
「戻る義務があると思ったからです」
「それで納得出来ると思ってるのでしょうか? 剣聖の言葉だからといってな条件で信じろなんて言いませんよね!」
的確に突いてくる辺り、ここにいる人たちはベテランなのだろう。
逃げ道を作らせないように質問をしているのを見て、嫌になってしまう。
「信じろなんて言いません。だけどもう一度チャンスをいただけませんか? この大陸が発展するためにも」
「あなたの命を賭けてくれるならどうぞ。そんな覚悟ないでしょ」
重く突き刺さる言葉。周りはそんな言葉に驚きを隠せずにいた。
「答えられないんですか? 昨日はあんなにガン詰しておいて、自分が不利になったら黙り込むんですか!」
「別に構いませんよ。私の命なんてあってないようなものなので」
男は自分が思っていた回答と違ったのか、オドオドしたのち、自分のやらかしたことの重大さを理解したようだ。
「今の言葉は撤回します。だから今のことはなかったことになりませんか?」
「バカなの? 勢いに任せてそんなこと言うじゃねぇよ、それに撤回するつもりないから」
このことは、大陸中をまたもや震撼させてしまうのだった。
言ったかどうか覚えてないので言いますが、死神少女の世界線は、魔神王とイデリアが相打ちで死亡しています。
被害は、新大陸を目指すことでしか生きられない程には、荒れ果てた大陸になっています。




