274話 自責の念
ケルトは、自責の念に駆られた表情をしていた。入ってくるなり、王様に土下座をして詫びを入れた。
「あなたのせいでは無いわよ。アイツら殺し屋は、どんな時でも、実行に移せるように準備していただけなんだから」
「それを見抜けなかった俺に責任がある。そんな軽々しく発言しないでくれ」
怒りを見せるが、それを表情に出すことはなかった。
「軽々しく発言はしてないわよ。それにもとは言えば、私に対する王族の逆恨みが発端だしね」
「何を言う! お前があんなことをしなければ良かったことだろう。こちらの意見を聞いていれば、こんなことをしなくて良かった。ほんと今まで最低最悪の剣聖だ!」
この人……バカなのだろうか。全て自分がやりましたと問い詰めなくても自白したんですけど。
それに気がついたのは、王様以外全員だった。
最初は何が起こったのか皆んな分からなかったが、すぐに我に返る。
「発言失礼します。分かっていたことなんですけど、あなたの指示だったんですね」
「なんのことだ! 管理者は順応だったのに、そちら側の手を持つと言うのか!」
この人まだ気が付かないんだ。早く気が付いた方が、身のためだと思うのは、私だけではない。
実際にイデリア自身、声色は変えていないが、本気でキレている。
私をバカにするような発言。それがトリガーとなったのだろう。
周りにいる私たちにも、悪影響を及ぶかのような魔力が練られている。
イデリアは徐に杖を取り出し、王様に向けた。
「私をバカにするのはどうでもいい。アリアをバカにした発言、死んで詫びろ。火葬の手間が省けるわ、インフェルノ」
繰り出される魔法は、ドス黒く炎とは呼べない色をしていた。
私は仕方なく王様の前に立ち剣を抜く。
「これ以上はダメだよイデリア」
核を突き刺し消滅させる。
「殺すのはダメでしょ、一回深呼吸をするべきだ。それはそうと、剣を振り翳したところで、そんな鈍らな剣では殺せませんよ」
「うるさいうるさいうるさい! 我に敵意を向けたのだ、何をしても我は許されるのだ!」
剣を軽く弾き、首筋に剣を突き立てる。王様は怯み、その場に座り込んでしまう。
「覚悟もないのにやったらダメですよ。罪を増やしてもいいことなんてありませんから」
「……うぅ」
そうしてイデリアが落ち着くまでの間、静かな時が流れた。
その間、玉座の間に入ろうと息子たちが何かしようとしていたが、イデリアの結界の前では無意味に終わる。
「王様、自分の発言そろそろ気が付いた?」
王様は、すぐにハッとなり全て終わったと言わんばかりの顔で、地面に俯いた。
勢いに任せた発言とは怖いものだと私はその時、再確認する。
「確かに師匠も、師匠の師匠もあなたたち王族に従順だったでしょうね。でもね、それでは剣聖としての称号の意味がないのよ」
「そうかもしれんな……剣聖様、この様なご無礼、誠に申し訳ありませんでした。心からお詫び申し上げます」
ケルトは、自分の職務を全うするために王様を捕まえたのだった。
その顔は、涙で前が見えなくなるほどに泣き崩れながらも、そんな彼はとてもカッコよく見えた。
「王様、あなたは確かに悪いことをしたわ。だからこそ、罪を償ってここに戻って来なさい。これは、剣聖命令です」
扉が開いた瞬間、息子たちが襲ってきた時のことを考え、護衛として、フレリア、攻獣、守獣が一緒について行く。
そうして玉座の間は、私たち三人とイデリアだけの四人だけになった。
「さっきから黙ってるけど、もう落ち着いているんでしょ?」
「さっきは止めてくれてありがとう。アリアが居なければ、私はあの人を殺していたわ」
「別に構わないよ。これから王都は忙しいくなるね」
私にとっては他人事だ。だからこそクスッと笑ってしまう。そうしてこのことは、大陸全土にすぐに伝えられたのであった。
王族に対する不満は、全土により根強く力を増す。
王都では、毎日のように抗議活動が城の周りで行われていた。
「みんな暇なのかって思うぐらいには、毎日抗議活動してるねギルマス」
「アリアが居てくれてギルドとしてはありがたい限りだ」
「まぁ、不完全燃焼のお二人さんがクエスト受けてるからね」
今回何も出来なかった二人に加え、ガードもクエストについて行ってしまっていた。
それもあって、王都のクエストは新規のクエスト依頼がない。
「それにしても大変だよねギルマスもイデリアもさ」
「そうだな」
遠い目をしているギルマス。いつも酒場で飲んでいた連中も全員、抗議活動に参加をしていた。
ただ参加しているなら、問題ないのだが事件は起きる。
誰かが冒険者をその気にさせてか、剣技や魔法を放つ冒険者が現れる。
幸いにも、イデリアの結界で特に目立った被害はない。ただ、放った連中は全員、軍に連れて行かれる始末である。
放つものが現れないようにと、魔法界まで駆り出される始末である。
「アリアの呑み相手、お灸を添えたりと忙しい限りだよ」
そんな中、ギルドの外が異様に騒がしかった。つい数分前まで、静かだったはずが今では罵詈雑言の嵐である。
気配的に誰が来たか二人とも分かってしまう。
「アリアにお客さんの様だ」
「そうみたいだね、私は話すことなんてないのにね」
そうしてギルドのドアが開かれる。そうして、こちらにゆっくりと歩いて来た。
「この度は本当に申し訳ありませんでした」
「別に君が謝る必要はないよ。それに謝罪なら直接王様からもらってる」
「これは息子としての責任を果たすためです。どうしてもお詫び申し上げたく存じました」
そうして私はまだ開けてないエールを開ける。そうして彼の前にグラスを差し出しこう告げた。
「安い酒で悪いんだけどさ、三人で飲まない?」
「安い酒で悪かったな」
ギルマスは少しキレていたが、そんなことはどうでもいい。
そうして私たち三人は、仲間が帰ってくるまでの間飲んだのであった。




