273話 犯人
その後、城内を調べたが特に異変はなくその日は解散となった。
相変わらず軍の兵士は、近寄って来ようともしない。
日付を跨いで数時間。寝静まった頃、また第三の殺人が起きたのだ。
(え、なに。私今、寝てるんだけど……)
(殺陣が起きたから早く来て!)
脳内に響くイデリアの声。ベッドからなんとか起き上がり、みんなを起こしていく。
「じゃあ出発するわよ」
私を含め、みんなの顔はとても不機嫌そのものである。そんな中、転移で城の前に到着する。
窓の隙間から、兵士たちが走っているのが見えた。誰かを追いかけているようにも見える。
「とりあえずあそこまで行きますか」
眠たい目を擦りつつ、一瞬のうちに兵士が見えた三階の廊下まで飛び上がる。
そうして窓から侵入すると、少し遅れた兵士たちが目の前を通る。
「ちょっとあんたたち! 何があったの?」
その言葉を無視する人がほとんどの中、一人だけ腹部を押さえながら走っていた兵士が立ち止まった者が話をしてくれた。
「犯人を追いかけてる途中!? どういうこと、犯人がもう分かったの?」
「詳しくは知りませんが、血が付着した衣服を着用していたらしいと言っていました」
それだけで犯人扱いって、流石にそれはどうなんだと思ってしまう。
だが、今のところ手がかりがそれしかないとなると、躍起になるのも仕方ないだろう
「みんな聞いたよね。みんなは、重要参考人を追って!」
そう言ってみんなが、その場を離れた直後ようやく本題に入る。
「どうして私と戦ったあなたが、ここにいるのかしら?」
兵士急足で追おうとしたのをピタッと止める。止まった直後、こちらを振り返りとても満ちた顔をしていた。
「ようやく俺を見つけたか、剣聖アリア。なんで俺だと思った」
「基本的、兵士たちは私のことが嫌い。だからほとんどの場合、話なんてしてくれない」
それが抜け落ちていたのか、ハッとした顔が印象的である。
「それに何より、あの時の戦いでトラウマが残るレベルの一撃を打ち込んでいる。それがそう簡単に癒えるわけないからね」
おそらく、右腹部に叩き込んだ一撃は大きなアザを作っているだろう。
何よりハリボテの筋肉増量。骨が折れていてもおかしくないレベルである。
「姿が違えど、私を見た時の顔はトラウマを呼び起こされるような顔になってた」
男は何も言い返せない。ずっと黙り込み、何もかも諦めたかのような顔で、こちらを見てくる。
だがそんな顔をしているが、目が死んでいない。完全に、こちらを殺すと訴えかけているかのような目である。
「表情作ってるなら、目もちゃんと表情させなさいよ。何その甘ったれた演技」
「別に問題ねぇ。今からどうせ、殺し合いが始まるんだからよ!」
良い踏み込み。思わずそう思ってしまいそうになるほど、良い踏み込みだった。
放たれる一撃は強力そのもの。あの時とはまるで違う力だけではない一撃が剣から剣に伝わってくる。
「それで良い。お前が殺し屋じゃなければ、数日は面倒を見ていたかもな」
弾きとばし、一回後に下がる。
「経った数日かよ。そこは、一生面倒みますぐらい言ってほしかったな!」
飛び上がって繰り出せる一撃もまた、私の心を唆る。
「なんでそれが最初から出来ないかな。あの時、それを見せてくれていたら失望なんてしなくて済んだのに」
剣聖たる由縁の一撃を彼に感じさせる。悶絶する暇なく、また一撃、また一撃放っていく。
「早く立ってくれないかな? まだまだ殺れるよね、ほら、頑張って」
「悪魔……」
振り絞って出された言葉を聞いて、思わず笑ってしまう。
「そこは剣聖と呼んでほしいな。それにそろそろ聞きたいこともあるし、早く立ってくれない?」
彼の顔はより絶望した顔だが、それをお構いなしに私は言葉を言う。
その甲斐あってか、彼はなんとか立ち上がり私を殺そうと見てくる。
「どうして三人を殺したの?」
「見せしめだよ……殺し屋を道具としか思ってない連中に、我々の恐ろしさを教えてやる」
「そうなんだ。それで、誰が私に賞金を掛けたか知っている?」
「命令したのは王様だろうが、それを頼んだのは側近の奴らだよ」
殺し屋のプライドなど無いのか、ペラペラと情報を喋ってくれる。
「これを知ったからと言って、解除されるとは思うな。どうせすぐに、また新たな賞金が提示されて終わりだ」
「それは良いんだけど、私の賞金をきっかけに無関係な人が死んでいるのが許せなくて。だからあなたは容赦しない」
放たれる一撃は、彼を打ち倒すにはあまりにも威力が高い一撃だっただろう。
城の一部が破損し、城に穴が空いてしまうほどの一撃を、彼に打ち込んだのだった。「
「とりあえずこれで完了。それにしても落ちなくてよかった」
そんなことをしていると、仲間たちが戻ってきた。この光景を見て、察したのだろう。
特に何も言わなかった。
「とりあえず今から、王様を叩き起こしに行くわよ」
そうして、自分は被害者ですと言わんばかりの戯言を並べた王を起こし、玉座に座らせた。
「どうしてこうなったか分かってるよね? あなたの間違った判断で、三人の尊い命が犠牲となったんだから」
「ワシは何も知らん! 側近がやったことを把握なんてしておるか!」
喚き散らす王様に、私の愛剣を抜いた。
「私は別にあなたを殺したとしても、別にどうにでもなるんだよ。お互い、そんなことにはなりたくないでしょ、友好的な話し合いをしましょうよ」
「どこが友好的じゃ! こんなことをしておいてどうなるか分かってるんだろうな!」
全く聞く耳を持たない王に呆れてしまう。そうしているうちに、イデリアたちが入ってきた。
「アリアこれは一体どう言うことなの? アイツが犯人って本当なの?」
「犯人だよ。それに証言を記憶で見たんでしょ、今更確認なんて必要ないと思うけど?」
「それはそうかも知れないけど、とりあえず一旦冷静にこれから話し合いましょう」
そうして軍の奴らも入ってくるのであった。




