269話 攻獣
アリアたちが結界の外にいる頃、結界の内側では戦いが起こっていたのです。
激しさを増す戦い、周囲に倒れている構成員たち。事態は深刻な状況陥っていた。
「イデリア! コイツは俺たちの領分だ。お前たちはここから退却しろ」
「何バカなことを言っているの! それに抜け出せたとしても私は残るつもりよ」
本当は誰もが分かっていた。ここから抜け出せないこと、救援が呼べないこと。
それでもなお、希望に縋ってしまう。
「どう言うことだ、なぜお前が居るんだよ! 攻獣さんよ」
「俺はただ、アリア様に害をなすもを裏から攻め落とす」
この状況で不利になるのは、どう考えてもアリア様の方だ。それを本当に分かっていると言うなら、こんなことをしないはず。
「俺はただ、あの女が情報を渡したから始末しただけだ。それにアイツは末端だから、もっと上を殺さないとな」
凄まじい狂気。その圧はまるで歪んだ愛。それを真正面で受けているみたいで、気持ちが悪かった。
「ズリグリ、守りの中でもお前は特段攻めに強い。俺にお前の拳を浴びせて止めてみろよ」
「ズリグリ乗らなくていい。乗った所で、どうなるか分かってるだろ」
だがそれを止められるものなら、こんな忠告なんてしない。ズリグリは、一直線に駆け出したのだった。
「後悔させてあげるよ。私だって強いだから!」
全力の一撃は軽くあしらわれ腕を掴まれる。そのまま体を引き寄せられ、腹部にヒザ蹴りをモロに喰らった。
「――がぁぁっ!!」
そのままもう一撃、嘲笑うかのような右ストレートがズリグリを襲うのだった。
そのまま吹き飛び、起き上がることはない。完全に気絶しており、ヤツからしたらただ準備体操にもならないだろう。
「どこが強いんだよ。アリア様に顔面崩壊させられておいてよく言うぜ」
「アイツなりの努力をバカにするな。お前は俺たちは怒らせたんだ」
イデリアの魔法はいつ見ても凄まじいものだ。放たれる一撃は、まさに至高の一撃。
惚れ惚れする程の一撃だと言えるだろう。
「お前は確かコイツか」
瞬時に移動し、見せつけるかのように持ち上げる。最初に皆を守るために、飛び込んだのが原因で敗れたフレリア。
その勇姿には、大変感動したと心にも思っていないことを言っていたのを思い出す。
「その子から手を離しなさい。あなたが軽々しく触れていいものではない」
「ケチくさいこと言うんだね。別に殺すつもりはないんだからいいだろ。そんなことより気が付いてないだろ」
俺たちは疑問に思う。何に気が付いていないのか、全く見当が付かない。
確かに結界にはイデリアとアイツの施しが掛けられている。そのせいだろうか、でもそれだけでは何も関係ないはずだ。
「結界の外には、我らの主人がいる。中の情報を伝えないように、俺の施しもより効いてるみたいだな」
「気配が感知出来ないのもお前のせいか」
「そうだよ。当たり前じゃん、あの方は必ず分かれば、入って来ちゃうからね」
少しの時間稼ぎ。それで俺らを負傷させることが目的なのだろう。
それでも、アリア様は必ず気が付いてくれる。
「それまでに倒してしんぜよう。それが、我らの務めでもあるからな」
「やる気になってくれて結構。こっからギアを上げさせてもらう」
凄まじい一撃が、盾から全身に伝わってくる。それを腹部に押し当て、一気に放出する。
「ハザード・インパクト!」
少し後に下がる程度で、まるで効いていないかのような、顔でこちらを見てくる。
「俺の硬い肉体にそれが通じると思ってのか。お前だって知ってるだろ、俺も防御の魔物だってことをな」
「知ってるも何もタートンだろが。ただ攻撃も強いっていうだけの」
木剣を体に突き立てるが、上手く行かない。硬い肉体に阻まれている。
「聖なる刃・ビット」
「危ねえ……手に突き刺さったが、本当にいかれ具合のやべー魔法だな」
「あんなに放出したのに、たった一撃って何避けてんの」
「お前もイカれてんのかよ」
……
その頃、アリアたちはいまだに屋根の方で観察を続けていた。
「なんかさ、結界の外の人たち騒がしくない?」
「俺もそれ思った。なんかトラブルが発生だと思っていいだろうな」
即座に立ち上がり、私たちは結界の真上に飛んだ。
「フェクト、これ壊してくれる? 多分、中では殺し合いが始まってる」
「勘か? 勘だろうと信じるけどな」
「それならお願い」
私は二人を抱き抱えたまま、フェクトを見送る。そうして放たれる一撃は、凄まじいものだった。
一瞬にして崩れ去る結界。その瞬間、包み込むかのような殺気の気配が私を包み込む。
「小童が。二人を頼む」
そうして私は落ちていく。そこで目にしたのは、倒れていく私を慕ってくれている二人だった。
「来てくれると信じてた」
ボロボロな姿になりながらも、イデリアの目は輝いていた。
そうして私は、ヤツに木剣を向ける。
「テメェが誰か知らないけど、これ以上は許さないわよ」
「まじかで見るとやっぱり違う、溢れ出す強者のオーラ。やはりあなたは我々の主人だ」
「誰が主人になるかよ。そういうのはフェクトだけで充分なんだよ」
勢いよく踏み出す一歩目。地面を蹴り上げるような感覚で、一気に間合いを詰める。
「手を出したんだ、それなりの覚悟は出来てるよね!」
振り翳した一撃は、片腕一本を折るだけで精一杯だったみたいだ。
まだ私は弱い。
「この程度で私の前に現れるな、私の邪魔をするな」
瞬時に飛び出していく一撃、確実に当て撃ち滅ぼす。
悶えている顔が見えるばかりで、何も打ってこないコイツには心底ガッカリしている自分がいた。
「どうした、この程度で終わりとか言わないよね! 君がどんな魔物かは知らないけど、人間の姿をしているのなら何かしらの理由があるはずだ。それを語ってみたまえ!」
ようやく剣が止まる。折れたはずの片腕は元通り戻っているが、魔物なのであまり気にしない。
「俺の一撃、その顔面に叩き込む!」
「おい辞めろ! そんなことしたらお前の命ねぇぞ!」
トータトンがそんなことを叫んでいたが、彼は止まらない。
その一撃は、過去五番目の痛さだったといえる。
一位 ロード
二位 イデリア
三位 フェクト
四位 ナズナ
アリアに喰らわせた一撃ランキングです。ロードは、別世界のアリアを肉塊にしてますからね。
当たり前の結果です。
犯人は、彼ではない。




