267話 事件と事件
屋根に飛び上がり、兎が跳ねるかのように飛んでいく。本当は、箒で飛んでいくのが簡単。
だがそれが出来ないぐらいに、上空もパニックになっている惨状が広がっていた。
それだけ、この爆発は想定されていないものだったのだろう。
何が起きたのか分からないが、気配を感じ取るとあの三人が集まっているのは分かる。
それにも強い気配。その正体がなんなのか見当も付かないが、強敵なのは間違いないだろう。
「やっと惨状が見えそう」
上空を確認し、一気に上空に飛び上がる。目の前に広がる光景は目を背けたくなるようなものだった。
大きなクレーターが出来上がり、周囲にも被害の広がりを見せている。
それだけのことが起きたのだと、瞬時に理解出来るほどである。
「あの中心地にいるのって……三人だよね」
嫌な想像をしてしまう。少し遠くに離れていてよく見えないが、倒れているのはフレリアだろう。
私は現状を受け止めつつ、腰に下げていた剣に手を掛けた。
「こっからの仕事は私の両分だ。これ以上の被害は出させない」
一気に下降しフレリアと男の間に飛び込んだ。
男は、ニヤリとこちらに微笑み掛けており、私が来ることぐらい分かっていたのだろう。
トータトンたちは、苦い顔でこちらに視線を向けていた。
「あなたが何者か知らないけど、これ以上は許さないよ」
男の特徴は、いかにもイケてるだろと言わんばかりの顔立ちであり、はだけるほどの筋肉が特徴だと言える。
「これこれはお会いできて光栄です。剣聖アリア」
「私を呼び捨てにするなんて、随分と舐められたものですね、今ここで解体してもいいのですよ」
「そんな顔をなさらないでくださいよ、お可愛い顔が台無しですから」
そんなことを言うが、瞬時に出した大剣で叩きつける辺り内心キレているのだろう。
それだけの力が、剣を通じて伝わってくる。
「不意を突いた一撃にしては弱いですね。片手一本で止められてる時点で、自分の実力分かりますよね」
私は嘲笑うかのように大剣を弾き飛ばす。弾き飛ばした勢いで、上半身はガードすることは出来ない。
「本当に甘いよね」
木剣を取り出し、一撃叩き込む。感触はダメだった。まるで鋼を叩いているかのような感触が手に伝わってくる。
「誰が甘いって? その慢心がお前自身を殺すんだよ」
振り下ろされる一撃を剣で耐えつつ、その場から離れようとするがどうやら無理みたいだ。
地面はいつの間にか沼が出来上がっている。彼が放っていた魔法の影響だろう。
「何発耐えられるんだろうな、お可愛い顔が絶望に変わるのが楽しみだぜ! ショック斬」
何度も放たれる剣技は、確かに私を沼に沈めていた。ただ、その剣技では沼に落とすことが出来たとしても私を殺すことは出来ない。
それが果たして分かっているのだろうか。
意気揚々と剣技を放つのはいいが、それが本当に成功だと思っているのだろうか。
そんなことを考えつつ、私は軽くこづく程度の剣技を放ってみせた。
「剣技ってこういうのを言うんだよ。ソード・インパクト」
かつてロードが放った剣技である。これの威力を受けた際、本当に新たな扉を開いたと思ってしまった。
実際、それはいい意味で証明される。
男は、遥上空に吹き飛び悲鳴が聞こえてくる。
「花火みたいに打ち上がったね。とりあえず助けるか」
沼から普通に魔力を込めて抜け出し、上空へ飛び上がる。落ちてくる彼をキャッチし、地面に降り立つのであった。
「なんであんなまどろっこしいことしたの? 普通にフレリアも沼に落とし込んだ方がまだ勝機はあったのに」
そんなことを言うが、当の本人は気絶していた。それを三人に聞かれた私は、とてつもなく怒られたのは言うまでもない。
「アリア反省してよね! 軽はずみな発言は控えた方が身のためだよ」
「何回も言わなくても分かってるわよ。確かにあんな言い方は悪かったけど、そっちの方がさっさと終わりそうだったから」
「あれは流石に俺でも擁護出来ねぇぞ」
ズリグリもとてつもなく頷いていた。
「ところで何があったか説明して欲しいんだけど。復旧させながらで良いから」
フレリアは、指を鳴らし瞬時に建物を戻してから話を始めた。
「私たちは調査で色々な所を調べてました。ここのことを知って、巻き込まれたって感じです」
「ここはなんかのダミー会社よね?」
「そうです。裏は情報屋の出入りが頻繁に行われていました。それも丁寧に制服まで作ってたみたいですけど」
相当入念だったのが伺える。だが、情報屋が出入りしているだけでは、こんなことは起きないはず。
「アイツはここの番人であり、領主邸の出入りも確認が取れてます」
「そういうこと。領主も絡んだ案件ってことか。それが分かれば良い方だね」
そうして私たちは宿に戻ってきた。もうすぐ午後である。昼食を取るため、みんな一階に降りてきていた。
「フレリア大丈夫だった? 巻き込まれたって聞いたけど」
「特に問題はありません。それよりもこの案件相当厄介かもです」
そんな時だ、また新たな事件が起こったのだ。その知らせを聞いたのは、昼食を取り終わったすぐのことだ。
フレリアの顔は、とてつもなく不安に満ちた顔つきになる。
それを見たイデリアもまた、何かを察している様子だった。
「王族の関係が暗殺されたと情報が入りました」
フレリアの一言は、とてつもなく重たかった。それだけのことが起きたのだと、改めて理解してしまうほどである。
「フレリア、私たちは戻るわよ! バタバタだけど落ち着いたら連絡するわ」
挨拶も交わさず去っていく二人。そんな二人を私たちは、ただ茫然と身送ることしか出来なかった。
「俺たちも向かいます。そっちの方がいいような気がしますから」
「うん分かった。二人とも気をつけるのよ」
母親に言われた感じで私は見送る。
そうして私たちは、何も手が付かずそのまま夜が始まろうとしていくのを、ただ見ることしか出来ないのであった。




