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剣聖少女 〜あてもない旅がしたいと願った少女の冒険譚、剣聖にもなれたので箒に乗って路銀稼ぎや旅を楽しみたいと思います〜  作者: 両天海道
1部-7章 魔神王と五種の守獣たち

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263話 成長


「おい、本質忘れてるだろ」


 フェクトが、ため息混じりの声でそんなことを言う。そうして私自身抜け落ちていた記憶を取り戻す。


「あ、本当じゃん。完全に途中から忘れてた」


 振り返ると全員、呆れた表情でこちらを見てくる。その目はとても冷たく、私の体に突き刺さるような視線である。


「ちょっと待ってて! 彼を無理矢理にでも起こしてくるから」


 私は慌てて彼に駆け寄る。とても起こせる状況ではなかったが、ポーションを掛けた。

 一本、また一本掛けるが全く効果を感じられない。


「ちょっと魔法使える人いないの!? ちょっと手伝ってくださいお願いします」


 誰も使えるものがいない。それに気がついたのは、言ったすぐである。


「建物は俺がどうにかする。他は、アリアの尻拭いしてやってくれそ」


 フェクトはそう言って、建物の周りに結界を張る。そうしてフェクトは自分の世界に入ってしまう。

 他のみんなは、ポーションを掛けたりしてくれているがなんら校歌はない。

 それほどまでに、先ほどの戦闘は相当な負担が掛かっていたのだろう。


「スベンさんを取り返させ!」


 そんな声が聞こえてくる。おそらく他のところに居た殺し屋とかだろう。

 ものすごい形相で、こちらに向かってきているのが気配で伝わってくる。


「荒事は私の領分。今度は手加減ちゃんとするから任せて!

ってそんな不安そうな顔で見ないでよ〜」


 先ほどのことがあってか、最初までの信頼なんてなかった。

 私は、木剣を強く握りその時を待つ。そうして現れた瞬間、その威厳を取り戻すかのように私は剣を振るう。

 殺し屋たちの悲痛な叫び声が街に広がる。そうして片付いた時には、彼は目覚めていたのだった。


「……とんだ最悪な目覚まし音だぜ。ここは地獄かよ」


 スベンがゆっくりと起き上がりながらそんなことを言う。先ほどみたいに、暴れることもなく落ち着いている様子なのが伺える。


「あ、起きた! あそこの解除してほしいんだけど」


 スベンは嫌そうな顔をしながらも、文句も言わずすぐに解除する。

 試行錯誤していたフェクトは、膝から崩れ落ち何か叫びたがっているようにも思えた。


「フミ、お前は殺し屋だろ? でももうお前の席はないと思った方がいいぞ」

「分かっています……それぐらいのこと」


 フミは後悔している様子なのは誰が見たって分かる。でも、この結果をすでに受け入れている以上、何も変わることはない。

 フミは一歩踏み出し、スベンの元に駆け寄る。

 後悔した顔からキリッと変わり、スベンに勝負を申し込んだ。


「掟の試験、お願い出来ますよね。私の師匠」

「真面目なお前ならそう言うよな。勝負は明日だ、俺はもう満身創痍なんでな」


 フミは一礼した。覚悟を持って挑むという、熱く儚い気持ちがヒシヒシと伝わってくるのであった。

 そうして翌日。国の周りを囲む平原でその勝負が始まったのだったのである。


「師匠、一撃で終わったらすみません」

「それまでだったってことだろ」


 二人の武器は同じナイフだ。彼女の憧れを尊重しているのが伝わってくる。

 ナイフ同士が火花を散らす。最初に攻撃したのはスベンである。

 私にやったように、後ろから首を刈り取るあの一撃。


 その一撃を弾かれたスベンは、とてつもなく嬉しそうな顔をしている。

 教え子という特別な関係性。そのことを知っているか知らないかで、この戦いは意味が違う。

 私はそんなことを思う。


「たった一撃弾いただけでいい気になるなよ。お前の真骨頂を見せてみろ」


 言われるがまま、ナイフが光に照らされる。


「殺し屋が聖なる刃っておかしいですけど、私の聖なる刃(ライトニング)、あの時を超える一撃を打ち込んで見せます!」


 ナイフから放たれる魔法。それを丁寧過ぎるほどに、一つ一つ斬っていく。

 それだけじゃない。成長を確認するかのようにだ。


「もっとで出来るはずだよな。俺を楽しませて見ろ、俺がいつも言っていることだろ」

「こんなものではありませんから!」


 深く入り込み、一気に掛け出して決める一撃。案の定彼は、後へ下がってしまう。

 今の私をもっと見てくれ……そう訴えかけてくるような一撃。

 それが師匠によって嬉しいことだと、彼女は知っている。

 より深く、より精度良く決めていく一撃。それは彼を押すには、充分過ぎるほどに成長していた。


「私と戦う時も、あれぐらい本気だったら楽しかっただろうな」

「アリアはいつでも楽しんでるニャー」

「そうかもだけど、まだ私さあの子と本気で戦ってないんだよ」


 自分の中で沸き立つ闘志。メラメラと燃え上がる気持ちには嘘は付けない。

 でも今はそれを、押し留めるのが私の試練だ。


「どうした? もう無理とか言わないよな」


 さっきのが嘘かのように、いつの間にかに逆転されていた。

 地面に叩きつけられ、うめき声をあげるフミ。そんな彼女の目は、まだ死んではいない。


「ここで諦めるわけないでしょう。ここは死の勝負、私を甘く見ていると終わるのは師匠ですよ」


 単調な飛び上がり。そこから繰り出させる一撃は、甘いものだが確かな効果はあった。

 首を咄嗟に避けたためか、足が少し宙に飛び上がっている。


「私の全てを捧げる。これで死んでください、師匠」


 振り翳したナイフを元に戻すように動作させる。ただ一点違うのは深さ。

 そうして振り戻されたナイフは首筋に当たる。

 次の瞬間、血を流しながら地面に倒れ込むスベン。殺し屋の掟試合は、こうして幕を閉じたのだった。


「フェクト」

「もうやってるよ、助かる見込みはねぇからな」


 斬られた箇所は、黒いオーラが包み込み惹きつけられてしまうような存在感を放っている。


「何をしているの? これは私の戦い、あなたたちには関係ないでしょ!」

「関係はないよ。これはただのフェクトを成長させるための実験場だよ」


 冷たい言葉を投げかける。そんなことを言われた所で、彼女は何も変わらない。

 フェクトの準備が出来たようだ。


「すまねぇが死なせないぜ。魔神の回復を味わってみな」

 

 

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