257話 燃え上がる一撃
翌日。作戦の結末を新聞で見て、大喜びしたのは言うまでもない。
昨日の王都での騒動は、とても大きく報道された。そのため、殆どの記事は端に追いやられどれも小さく載っている。
その中に、この村の寄付を行ったことは書かれていたがとてつもなく小さい。
「アリア起きてるんだろ。早く始めたいから、準備終えたら来いよ」
フェクトに急かされつつ、私は準備を進めていく。そうして一階に降りると魔法使いの爺さんが尋ねてきていた。
「お爺さんどうしたの、何かあった?」
集まる時間にはまだ早い。顔を観察するに少しばかり、聞きたいことがあると言いたげな顔でこちらを見て、立ち上がる。
テーブルの上には、例の新聞が置かれており二人はこちらを見ようとはしなかった。
「この記事読みました。こんなことをしても大丈夫でしたか? ここに寄付したお金って自腹ですよね」
「別にどうこう言う問題は一つもないはずだよ。私はやりたくてしただけだから」
まだ何か言いたげだが、口をつぐむように足早に出ていく。
「流石にあのパフォーマンスは派手だったんじゃ」
「そういう問題じゃないぞ。とりあえず朝ごはん食べて早く始めよう」
フェクトは少しばかり焦った様子で、出てきたご飯を掻き込んでいく。
焦っているのには、この計画自体バレるのは時間の問題だからである。
例え、どれだけ小さく書いてようが見るひとは見る。それを皮切りに、それは全てに広がっていくからだ。
だからこそ、ここぞとばかりに使うからこそ効果は凄まじい。
「とりあえず一週間程度で、私たちのやれることをやる!」
そうして村の改革が本格的に始まる。それぞれの得意分野に分かれて進めて行った。
鑑定魔法で家の状態を確認し、直しが必要な家から新しく建て替えていく。
幸いにも、この家を作った大工さんが健在だったのがありがたい限りである。
「す、すごいな。あそこまで魔法が扱えたら便利だろうな」
そんな声が聞こえてくる。影分身で何十体も同時に違う動きをさせる。
そうして次々にやらなければならないことを、それぞれが終わらせたのだ。
「周りに木が沢山あって良かったわ。そのおかげでだいぶ楽に作業が出来た」
「結界の方はもう問題ないぜ。ハン爺さんの魔力で運用出来るようにしておいた」
「周辺の魔物もあらかた片付けたけど、やっぱり強い魔物の気配もするニャー」
こんな話を毎晩のように続けていく。そうして明日で目標にしていた一週間が経つ。
村は見違えるようレベルで整備された。一新された建物が一際目立つ。
それに加えて、村の周りを囲う柵を一新することも出来た。
「これで全ての建物は完了出来ました」
「ありがとうございました。最初、あんなひどいことを言ってしまったのに、本当にありがとうございます」
頭を下げたままあげようとしないダン爺さん。それどころか、涙を流し本当に喜んでいるようだ。
「結界の定期的なメンテは必要だが、ハン爺さんが入れば大体のことはどうにかなる」
「ここは必ず守って見せます。自分たちの故郷、無くしたくありませんから」
ハン爺さんは、フェクトと合間合間で攻撃魔法の威力をあげるべく修行していた。
お年寄りとしては、だいぶ上振れた力を出せるようになっているので安心である。
「問題はナズナの方ね。これから私たちも討伐に向かいますから、何かあったらすぐにテレパシー使ってください」
「分かりました。魔物の討伐よろしくお願いします」
そうして、この村の近くに現れたと言われる白虎討伐へと赴いていく。
白虎―その名の通り白い虎である。その強さは簡単に言えば肉食の魔物として力を轟かせている方である。
鋭い爪で肉を抉り取り、大きな口で噛み殺す勢いで襲ってくるのだ。
低種族の魔物は、住処を追われ各地を転々とする。
「今回追うのはデュラハンを倒したっていうやつでしょ。デュラハンですら珍しいのにね」
「それが本当なら、ダークウィッチーズ案件なのかもしれないぞ」
「その可能性はもちろん考えたけど、でも白虎なら倒せるかもだし」
まだ実物を見ていない、だからあまり想像出来なかった。そうしてナズナの気配を追って森に進んでいく。
自然豊かな森。木々の育ち方を見ていたら分かる。この森は、とても良い森だと。
「やっと見つけたニャー! ただで済むと思うニャー」
ナズナの声とともに、感じたことのない気配が頭に浮かび上がってくる。
それに、大きな衝撃音も奥から聞こえてくる。
「フェクト行くわよ!」
私たちは、すぐさま駆け出し音の方に向かう。そうして少し開けた場所に出るや否や、ナズナは戦っている。
「魂の一撃、耐えられるものなら耐えてみろ! 魂撃・正拳」
真正面から殴りかかるナズナ。その威力に負け、白虎は木々を破壊しながら吹き飛ばされていく。
死にそうな声を上げながらも、まだ懸命に立ち上がる姿は敵ながら天晴れと思っている自分が居た。
「ナズナ、デュラハンに相当傷つけられてる。もう長くないのは分かってるだろ。これ以上苦しませず一撃で決めろ!」
フェクトが隣で叫ぶ。確かにフェクトの言う通りである。身体中に最近できたであろう刀傷が膿んでいる。
もう体はボロボロのはずなのに、それでも魔物として最期まで戦おうとしている。
「ナズナ、あなたの一撃を確実に!」
「本来のお前なら強いと思うニャー。そんなボロボロになろうとも立ち上がる姿勢、私は好きニャー。魂撃・魂の極」
その一撃は、私の剣技を感じさせるような一撃。まるで新たな新時代が開くかのようなそんな右ストレート。
そんな一撃に、私の心は燃え上がる。
そうして消滅していく白虎。それを見送り、私たちは村へと戻ってくるのであった。
「討伐完了したニャー。今後もし強い魔物が出た場合はすぐさまギルドに報告するニャー」
私たちは村での改革を終え、逃げるように去っていく。村これ以上の危険が訪れないことを願いながら、私たちは旅に戻っていくのであった。




