254話 守獣
夕焼けに照らせながら、両者睨み合いが続く。その雰囲気に圧倒されてか、観戦していた冒険者たちは帰っていく。
その他にも、地面に倒れ込む構成員たちはその場から動けずにいる。
「イデリア、今回はアリアの方が正しい。帰りましょう」
フレリアはそう言うが、イデリアは聞く耳を持たなかった。
一切目を逸らさず、フレリアにすら殺気を向ける始末である。
「これ以上居ても無駄だからさ、私たち行くわ」
そうして振り返り、仲間たちの元に駆け寄るとボソッとした声で聞こえた。
「逃げるんか」
私は振り返り、にこやかな笑みを浮かべながらイデリアを見る。
赤焼けの夕焼けに照らされ、メラメラと燃えさかるような殺気はそれは美しいの一言である。
「戦略的撤退って言ってほしいわね。どうしても出席してほしいのなら、師匠に頼めばいいじゃない」
あの人は、そう言った役回り引き受けてくれるだろう。実際、私が戦っている間、お父さんと笑いならが喋ってたみたいだし。
そんなことを思うが、イデリアの目は納得なんてしていなかった。
「やぁ皆さんこんばんは。自分トータトンと申します」
当然現れた存在は、病衣に身を包み現れたのだ。その手には、トレードマークの盾と剣を携えている。
「あなた誰かしら? 私たちの話なの、邪魔だけはしないでくれる?」
「ナズナさんに負けたくせに、よく言いますね」
放たれる魔法は、超高速の魔弾である。それを最も容易く守ってしまうのだから、この子も相当強い。
「ライトベルトさんに骨を折られましたけど、あなたはその程度なのですか?」
めっちゃ煽るやん君。思わず口から出そうになるが、グッと堪える。
それどころか、私と戦っている時よりイキイキしてて楽しそうだ。
「あなたの攻撃は無意味ですね。守獣の盾の前ではね」
「その盾ってそういう名前してるんだ。オーダーメイド?」
「これ自作したんですよ、剣聖様。自分タートンが好きで、あの甲羅をモチーフにしたっす!」
目を輝かせ、その盾を大事そうに見せてくれる。イデリアの方を横目で見ると、どこか思い当たる節があったのだろうか? 何かを考えているような顔をしている。
「トータトン、これ以上は離れておいた良い。何かを感じとったようだしね」
「へぇ? ボハッッ……痛ったー」
イデリアの渾身たる一撃が、トータトンの顔面に命中する。トータトンは吹き飛び、地面に激突。
イデリアは拳を構え直し、トータトンの方に歩み寄る。
「これ以上アリアに近づくな。魔物風情が調子に乗るな」
すごい圧だが気になることを言っている。ただ、それはさっきの言葉で私自身も気が付いていた。
それに、他三人の殺気すら感じる程である。
「二人とも分かってると思うけど、手を出したら首本気で斬るからね」
「分かってるよ、悪かった」
フェクトはすぐに殺気を辞め、心を落ち着かせるかのように、深呼吸をする。
そうしてトータトンは真実の姿を現したのだった。その姿は、私たちと旅したあの大きな亀の姿である。
(アリア、騙してて悪かったね。君たちの強さをどうしても観たくて人間の姿に変わってたんだ)
「それは別に構わないわよ。それよりこの状況、どう終わらせる気?」
(頑張ってみるよ)
そうして姿をまた人間の姿にして、話し始める。
「自分たち五種の守獣は、剣聖様を守る存在として代々密かに紡がれた存在のことは知っているのでしょ、管理者」
「文献で読んだことがある程度だけど、実在していたとはね」
ちなみにだが、私はそんなこと初めて聞く話である。
「だが本当だったら、魔神王復活に対し倒すための手助けをするはずだった」
「だがそれをしなくてもよくなった。その理由は、アリアが強すぎたからでしょ」
「その通り。でもだからといって、この仕事を投げ出すことはない。剣聖様を脅かす存在が現れた時、対応するのも役目だから」
バチバチと音を立てるかのように、睨み合う二人。そんな中割って中に入ったのは、フレリアの存在だった。
「話はわかりました。ただ、アリアたちは相当な強さです。わざわざ横槍を入れなくても良いのでは?」
「めんどくさい処理を自分たちが引き受けるのが通りなので別に」
「だから今回、入院先から抜け出して来たということですか?」
「そうですよ。管理者は、今回も相当迷惑を掛けている。だから横槍を入れたまでです」
そうして辺りはすっかり夜になり、周りをみると二人はテントの準備をしている。
私もそれに混ざる形で、私がいない所で私の話を勝手に進める連中と別れたのだ。
「おーい! いつまで話してんの? 早くしないとご飯冷めちゃうよ」
ご飯が出来上がる時間まで、ひたすら話し合いというなの歪み合いが続けられていたのであった。
ご飯中は全員がそれぞれの世界に入り、楽しんでいる様子だったが、事件が起きたのはその後のことだった。
「まだやる気?」
思わず私が口を挟んでしまいたくなるほど早く、ご飯を食べ終わった直後に始まったのだった。
思わず三人揃って、鉄拳制裁を化してしまうほどだ。
「とりあえずこれ以上話し合うの禁止! いいね分かったわね」
「じゃあ殺し合いってことですか?」
「なんでそうなるのよ。守獣に関しては、私を守りたいんでしょ。勝手に守ってもらっても良いわよ。邪魔だと思ったら暗殺するけど」
トータトンはブルっと震えるが、すぐにそれに対し了承する。
イデリアは納得行かない様子だったが、これは仕方ないことでなんとか納得してもらう。
その際も相当不機嫌だったが、疲れが溜まっていたのだろう。すぐに眠ってしまった。
「とりあえず明日から私たちは元いた場所に戻るから」
「分かりました。遅くなってしまいましたが、本当に討伐ありがとうございました」
フレリアは長いこと頭を下げ、感謝の涙まで流すのだった。
その涙を見て、私は今回イデリアを救ったんだなと改めて理解し、実感が沸くのであった。




