248話 散歩と顔面崩壊
「何がどうしてあーなった?」
思わずこぼれ落ちる言葉。彼女は、大粒の涙を流しながらずっと話している始末。
私が帰ってことにさえ、全く持って気付いていない様子なのが伺える。
「ようやく話をする気になったと思えば、今まで付き合った男の話を幾度となく別れた話を聞かされたんぞ」
「それは御愁傷様」
おそらく彼女は、これ以上何も話さないだろう。ひたすら自分の不幸話を垂れ流し続けている。
それを全て吐き出したとしても、今回のことは何も解決しない。
ただの八つ当たりや復讐でやったにせよ、この子はもう消えない罪を重ねってしまっているのだ。
ここで見逃したところで、彼女の未来が変わるとは思えない。
「不幸話を垂れ流すのは良いけどさ、このままだとあなた牢屋行きよ」
「そんなことぐらい分かってやったわよ! どうせ終わった人生、あなたに関係ないでしょ!」
泣くのか怒るのかどっちかにしてほしいという気持ちをグッと堪えつつ、私は目線を合わせる。
「何よ、今更何もしないわよ! 村に連れていくなりするんでしょ、それなら早くしてよ!」
「とりあえず今は、あなたを捕まえて牢屋にぶちこむことはしないわよ。それよりさ、少し歩かない?」
キョトンとした顔で彼女は見てくる。それによって、涙も止まりようやく落ち着きを取り戻せてたようだった。
「どうするの? 私の気が変わらないうちに答えた方が良いわよ」
「行きます」
彼女は、自分の力で立ち上がり頬をパチパチと音を鳴らす。
そうして首をブルっと震えさせ、どこかスッキリした表情である。
「そっちの顔の方が良いわよ。じゃあ出発しようか!」
「ハイ」
森の中に入り歩くこと十分少々。その間、会話はなくずっと森の囀りが耳に入ってくる。
運河は少し離れているためか、音は聞こえない。そんな中、私たちは歩いていた。
そうして、沈黙に耐えきれなくなったのか、彼女が突然止まり、話しかけてくる。
「ど、どうして私が犯人だって分かったんですか?」
「そりゃ気配だけど、その他で言うならそんな気がしたって感じかな」
私は少し笑いながら答える。そちらの方が、話しやすいと思ったのだ。
「そうですか。でもあなたたちなら、私を殺すことぐらい簡単だったはずですけど、どうして助けたんですか?」
「そこは助けるわよ。だって、話は聞きたかったしね」
私はあることを聞いてみることにした。それは、私たちが戦ったあの盾持ちの冒険者である。
彼女は、私たちよりも早く森の中に入っていたはずだ。もしかしたら、見ている可能性があると思ったのだ。
だが、私が期待した返答は帰ってくることはなかった。
「まず私は冒険者でもありませんし、何よりそんな方が居たら助けを求めていたはずですから」
「そうだよね……変なこと聞いたわごめんなさい」
「謝らなくても……それよりその冒険者さん、強いのであれば、多少なりとも話題になるはずですけど?」
言われ見れば確かにそうだ。それに何より珍しい、盾持ちタイプの冒険者だ。
縦持ちというだけで珍しいのに、話題が一切ないのは確かにおかしい。
「新人でも、盾持ちならニュースになるよね」
「確かになると思います。大陸全土のニュース記事を毎日見てましたけど、それらしい記事は見た記憶がありません」
「ありがとう。魔法界のツテにも当たってみるわ」
そんな中、事件は唐突に起きたのだ。突然、視界が見えなくなり次の瞬間、二人揃って吹っ飛んだのだ。
木々に何度も体をぶつけ、全身が痛い。
視界が戻った時には、彼女は頭から血を流し倒れている。気配で生きているのは分かるが、相当な怪我なのは確かである。
「何が起こったのかはさておき、それよりも今は彼女を優先しないと」
ポーションを取り出し全身に何度も掛けていく。傷は消えるが、一向に目を覚ます気配がない。
「あれれ、もう立ち上がれるんだ? 私、相当強く殴り飛ばしたはずなんだけどなー」
異様に発達した筋肉の両腕。それはおそらく魔法の影響だろう。
それに加えて、足腰も相当な筋肉が付いているのが分かる。
「あなたは誰? 私を殴り飛ばしたんだ、覚悟は出来てるよね」
「私は、ズリグリって言うんだ。凶暴な私を止められるかしら?」
気付いた時には、しゃがみ込み懐に入り込んでいた。
「お腹狙って来るなんてね」
「手を離せよ! このゴリラ女」
次の瞬間、彼女は顔は原型を保っていなかった。その後は一方的だっただろう。
完全にこちらのペースで、彼女は何も出来なかった。
それでも何かを隠していると、直感がそう訴えて来るので、それに従った。
ただ作業をこなすかのように、彼女を殴り飛ばす。
「あんた……剣聖じゃ……ないの?」
「剣聖は合ってるよ。ただ、相手を選ぶことだね。何がしたかったのか知らないけど、私に手を出したんだ。今度こそ、覚悟出来てるわよね」
「流石にそれ以上は、見逃せねぇな自分はよ!」
彼女との間に入ってくるのは、例の存在である。少し慌てた様子なのが伺える。
「何? 彼女はあなたの仲間?」
「仲間ではねぇけど、知り合いではある。流石にこれ以上はやめてほしい」
彼は、敵に頭を下げたのだ。ただひたすらにずっと下げ続ける勢いで。
「先に手を出したのはそっちだよ、だからその仕返しをしたまでだよ」
「それでも限度ってものがあるんじゃないですか? 先輩」
頭を上げ、手に握られている剣を強く握り締めながら言うことだろうか?
そんなことを考えても仕方ないことぐらい、冷静さを取り戻した私にだって分かっている。
ただ、彼女がやったことはどう考えも犯罪行為だ。
「冒険者なら御法度ぐらい知ってるわよね」
「ハイ。それを破った俺が言えた口ではないですが……」
「確かに今回は私もやり過ぎた。このポーションで許してほしい」
私はポーションをボックスから取り出した。それは、一本ダイナールが何枚もいる代物である。
それを私は渡したのだ。
「やっぱ剣聖様って、お金持ってんですね」
ポーションを受け取った手はとてつもなく震えていたのであった。




