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剣聖少女 〜あてもない旅がしたいと願った少女の冒険譚、剣聖にもなれたので箒に乗って路銀稼ぎや旅を楽しみたいと思います〜  作者: 両天海道
1部-6章 冬の旅路と15歳と学校

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245話 重たい女


 無慈悲にも歩き出すタートン。

 それを見た彼女の顔は、決してこれからの人生で忘れることが出来ない顔の一つだと確信する。

 泣き叫ぶ彼女の声は、タートンには届かない。

 ただ真っ直ぐと前を向いて歩く姿は、新たな門出を迎えたような面持ちだと私は感じていた。

 それなのに、私は歩みを止めるように声を掛けた。


(なんですか? あなたのお仲間なら、完全に急所を全て外してありますけど)


 突然の脳内に語りかけてくる声。なんとも言えないおっさん感のある声だ。


「今のあんたの声?」


 私は恐る恐る声を掛ける。タートンは、歩みを止め、こちらを振り返る。


(そうですけど、何か問題あります?)


 色々ツッコミたいことがあるが、私はグッと堪え話を続けようとする矢先、先に声を掛けたのは彼女だった。


「タートン、なんで私の声は無視したの。一緒に旅してきた仲でしょ! 私といる時は、話しかけても返してくれなかったし」

(あ、自分。重たい女は好みじゃ無いっす。すんません、あと勝手に付いてきただけでしょ)


 まさかの回答に私は、笑いを堪えるのに必死だった。

 その際、彼女の顔はオーガの形相でタートンを睨みつけていた。


「何それ? 私のことを蔑ろにするなんて、許せない」

(その程度の攻撃、自分には脅威でもありませんからいくらでもどうぞ)


 彼女の憎しみがマシマシと感じられる一撃は、軽くあしらわれ、傷一つ付かなかった。


「クソが、クソが、クソが。絶対に殺してやる」


 完全に彼女の逆恨み状態である。それを横目に私はタートンに話しかける。


「あなたは何が目的で、この場所に居るの?」

(運河を目指してます。あなたはどうして私を追ってきたのですか? それに自分を殺すことぐらい余裕ですよね)

「そりゃ突然、あんな足跡を見つけたら追うでしょう。それに、目的地は同じみたいだからまだ殺さないわよ」


 タートンは何も答えなかった。ただ真っ直ぐとまた、歩みを進めていくのだった。

 そうしてようやく私は、二人の元に駆け寄る。

 ナズナはすっかりピンピンしており、いつでも再戦の意思があるように感じる。

 それにフェクトからも闘志が漲っているのを、私は感じ取る。


「二人とも、分かってると思うけどまだ攻撃はしたらダメだよ」

「分かってるけど、あれはいいのかよ」


 指を指す方向には、未だに攻撃を続ける彼女の姿がある。そんな中、ナズナが話しかけてきた。


「アリアほらこれ落ちてたよ」

「剣。手から離れた時は驚いたな。あんな力があるだと思ったら、武者ぶるいぐらいはしちゃうよね」


 そんな話をしていたら割り込むように、タートンが話に割り込んでくる。


(アリアよ、君も運河を目指すなら自分とゆったりと目指すのはどうだろうか?)

(彼女を落ち着かせてほしいって言うのが本音だろ、どうせさ)


 タートンは、こちらを向くのを辞めて真っ直ぐと前を見つめ直す。

 その間も、彼女は攻撃を放ち続けている。


「そろそろうざいから、辞めて」


 私は剣を弾き、彼女の動きを止める。そうして、地面に下ろしたがその際も、こっちを睨んでくるが特に何もしてこない。

 というか、体力の限界を迎えているのだろう。

 息が絶え絶えになりながらも、こちらに目線を未だに向けている。


「とりあえずタートンの甲羅に座りな。このままこんな状態を続けても、貴方にはなんの得もないわよ」


 弾いた剣を改めて目線をやる。刃こぼれをした剣を、強く握り締めている。


「うるさい、うるさい、うるさい! あんたに私の気持ちなんて分からない癖に、優しくしないでよ!」

「優しくなんかはしないわよ。私はただ、アイツに頼まれたから止めただけだよ」


 私の口調は、誰がどう見ても優しい口調だったと言えるほどだ。

 それでも彼女は、変わる気はないのだろう。


「私はただ、タートンと一緒に旅したかっただけなの。でも私は不必要な存在なんだよ。どこに行っても変わらないなら、私がこの世にいる意味なんてないじゃん」


 私が我に返った時、それはもう起きた後だった。彼女を平手打ちしたのだろう。

 手がジンジンと痛む。地面に倒れ込む彼女を見て私は言ってしまったのだ。


「あっそ。私たちが貴方の代わりに、タートンと旅をしておくわ。地面にめり込んだ姿がお似合いよ」


 そうして、私たちはタートンの甲羅に乗り込む。

 その際、彼女はジッと遠くを見つめ、その姿が見えなくなるまで、動く気配はなかった。


「それじゃあ運河を目指して行くわよ!」

(あんな言い方をして良かったのか? あれでは、立ち直ることも無理だろう)

「何言ってんの? まず貴方がどうにかしろって言ったから私は、私になりに行動をしたまでよ」

(それはそうなんだが、もう少し言い方があったのではないか?)

「それだったら戻って甲羅に乗せればいい。それだけだよ」


 だが、タートンはそうすることなかった。ただ真っ直ぐに歩き続けていく。

 そんな生活を続けて、一週間ほど経った頃だろうか? 私たちは目的の地のある森まで辿り着くのであった。


「あの森の中に、運河があるってわけね」

(そうだよ、それに魔物の気配がする。ここで一掃する方が得だと思うけど)


 私はそれを許可することはなかった。理由は簡単である。強い力で攻撃をすれば、生態系は一気に崩れるから。

 それにその強い力は、今ここで使うほどのことではないからだ。


「そんなことよりここから君はどうするのさ? 自然破壊をしながら進むって訳ではないだろう?」

(そんなことをする気はないよ。ただこのままでは自分はどうしようと思ってな)


 だからこそ、あの強い力を使い進もうとしたのかと、私はようやく理解した。

 そんな時だった。運河の方から飛び出してくるナニカに目を奪われる。

 それだけ強そうな見た目のナニカが、大きな水飛沫を上げなら上空へと上がっていく。


「あれって巨大なクラーケンじゃないか?」


 何本も生えている触手。体には至る所に傷をつけ、それが勲章のように輝いている。

 それだけで強そうに見える。


「あれは私が攻撃する。あれは楽しそうだ」

 

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