244話 タートン
「まとまったわ」
私は、頭に流れ込んできた情報をそのまま伝える。
「魔物はおそらくタートン。巨大な亀よ」
タートン―陸に住む巨大な亀。その強さは、魔物の中でも上位にくる存在。
口からは、砲撃系の魔法攻撃を得意としており、国の結界を消しとばし、一国を滅ぼした逸話が残る。
その上、硬い甲羅で身を守ることも可能なため、倒すには相当の実力がいる。
それこそ、白銀の冒険者が相手をしなければならないとされており、手を出さないのが生き残るための基本と言われるほどである。
他にも攻撃方法が存在しており、近寄らせないために草木を使う魔法が確認されている。
大きなツルをだし、攻撃防御のどれをとっても高い実力を誇るものである。
「それって結構まずくねぇか?」
「まずいわよ。ただでさえ強い魔物で、倒すのも相当な苦労するわよ」
「とりあえずまだ近くにいるかもだし、行くニャー!」
そうして私たちは、箒を飛ばす。そうして足跡を追うこと数時間経った頃だ。
私たちは、タートンに追いついたのである。
「なんていう大きさ」
「それも相まってか、魔力の塊を感じるぞ」
「とりあえず攻撃してる見るニャー」
ナズナは私の静止を聞かず、箒から飛び降りる。攻撃の構えをとった瞬間の出来事だった。
ナズナは無数のツルによって、体の至る所を貫かれたのだ。
「ナズナ!!」
フェクトは、すかさず飛び降りナズナの元に向かう。だがそれを阻むのは、無数のツルである。
目に追うので精一杯な速度で飛び出してくるのだ。
「私がツルの対処をするから!」
そんなことを叫びながら、私は箒を飛ばす。私の方向に飛び出してくるツルを、すかさず斬っていく。
「こんなツルごときで、私を止められると思わないで!」
一撃で斬っていくが、だが増えていくのを感じる。箒では、限界を感じるほどである。
「まさか!?」
私の予想は正しかった。
斬ったツルからまた新たなツルを生成し、そこから狙ってくるのである。
それを可能とする魔力が、なぜか私は羨ましいと思ってしまう。
自分には、さほど関係のない魔力なのになぜこんなことを思ってしまうのだろう。
そんなことを考えている暇なんてないはずなのに、そんなことが頭に過ぎるのだ。
「こんなことをしたところで、私の剣技に狂いはない!」
剣に力を込め、私はツルを一刀両断していく。いつしか私は、技名を叫んでしまっていた。
「一殺一刀・舞吹雪!」
ツルは粉々に斬れていく。
「フェクト! ナズナを連れて地面に戦線離脱して!」
私は、剣の方を見る。剣の声が聞こえてくるようだ。「まだまだやれる」と訴えかけてくる。
それに答えるかのように、私は剣を振るった。無我夢中で振り続けた。
それがどれだけ、ダメージを与えられてなかろうが関係ない。
それは二の次だと思ってしまう私がその場にいたのだから。
「これ以上はさせないわ! 滝登り」
その一撃は、私の勢いを止めるには充分な勢いだった。だが、それで止まるのは三流である。
「私を止めたければ、そんな剣技では無理に決まってるでしょ」
技を放った何者かを私は、弾き飛ばしその勢いでタートンにぶつかるのだった。
何があったのか分からない。それだけの衝撃が私を襲っている。
勢いよく剣を突き立てたはずなのに、私は今宙を舞っていた。
持っていたはずの剣は手にはなく、私はただ無防備な姿である。
「ワタシのタートンに触れるからあなたは死ぬのよ。あの世で、ひたすら後悔の念に呑まれなさい!」
光で誰か見えない。ただ声で女性だということだけが分かる。
そうして私に段々と近づいていてくる。
「これで死になさい!」
「そんな剣技で私は殺せないわよ。なぜって? 私は全然ピンピンしてるからね」
拳を突き出し、彼女の顔面にクリティカルに当たる。そうして箒を取り出し、体制を整えると同時に彼女を捕まるのだった。
その際、タートンは何もしてこなかった。今までの攻撃が嘘に思えてしまうほどに。
「でも油断は出来ないわね」
そんな言葉をつい漏らしてしまうほどには、私はタートンを脅威だと認定しているようだ。
そうして、私は地面にようやく降り立つ。
手に持っていた彼女を地面に落として無理矢理、目を覚させる。
「もう起きたよね。話を聞かせて貰おうか?」
彼女の見た目は、魔法使いに近い系統だと服から推測する。
私よりも年齢が上で、強さを追い求めているような感じがしてくる。
「あの落ちている体制から、なんで私負けるのよ」
悔し涙を見せながら私の前に立つ彼女は、とてもこちらを睨んでくる。
「私の名前はアリア。剣聖として知られているわ」
彼女の顔は、みるみる青ざめていく。
そうして動揺してか、剣を鞘に仕舞おうとした瞬間、地面に落としてしまう。
「剣聖様が私に何かしら? 私は悪いことは何もしてないわよ」
「この状況でよくそんなことが言えたね、逆に感心するよ」
彼女が連れているこの魔物。どう考えても、普通だとは思えない。
何か訳ありなのが推測出来た。
仲間の容態は気になってしまうけど、それは今だけは後回しだ。
ここで逃げられたら、何かダメな気がしている。
「あなたが何者か知らないけど、この状況であなたを見逃すことは出来ないわよ」
「だから私は、何も悪いことをしてないよ」
彼女は、それしか答えないようにしているのか、それ以外話そうとはしない。
それでも私は、話を続ける。
「このタートンは何かしら? どう考えても、アウトよね」
彼女は答えようとはしない。それどころか、タートンに助けをまるで求めているような仕草で魔物を見つめる。
だが、それでもタートンは何もしようとはしない。
ただまっすぐ前を見つめて、動き出そうとしているほどだ。
「あなたこのままだと見捨てられると思うけど?」
「そんなわけないでしょ! タートンは、私をいつも助けてくれるんだから!」
そんな言葉虚しく、残酷にも魔物は歩き出したのであった。




