242話 戦闘
その顔は、とても驚きに満ちており内心笑ってしまいたくなるほどの、インパクトだった。
何度も私の顔を見ては、現実かどうか確認している様子である。
「それで、ここで何をこれ以上やらかす気かな? 剣聖に教えてくれないかな?」
男は、頭の中が真っ白になってしまったのだろう。何も言い出せず、ただ私を見るばかり。
そんな状況でも、悲鳴が相次いで聞こえて来た。
「君に構っている時間は無いみたいなのよ。何も情報を吐かないのなら、あなたの居る価値は、無いに等しいわ」
ボックスから木剣を取り出し、男の腹部に一撃叩き込むのであった。男は何も出来ずに、あっさり落ちていく。
それを回収して、ギルド前に置いて私自身も箒から降り国の状況を見て回る。
各地で暴れている構成員たちを薙ぎ払いながら進んでいく。
「おーい! 剣聖様、こっちも助けてくれ! グッッ……!」
私を呼んだのは、昨日の昼間に出会った市場のイケおじである。看板らしきものを持って交戦しているが、状況は芳しく無いのが伝わってくる。
「おじさんは無理しないで! お店が心配なのは分かるけど、自分の力量を考えないと死ぬわよ」
私は、オブラートに包んだりする余裕がなかった。直感で、伝えたほうがいいと思ったのかもしれない。
そんな中、それを割り込むように話しかけてくる存在にようやく気がついた。
「やっとこっちを見たか。俺のことなんて眼中にないのかと思って内心焦ったわ」
おじさんとは対照的に、チャラそうな男が無粋にも話しかけてくる。睨みつけるが、特に様子の変化は感じられない。
それどころか、まだ話しかけてくる始末である。
「ここであったのも何かの縁だしよ、せっかくだしいいことしない? 快楽の海に溺れさせてあげるよ」
「へぇー快楽の海ね。でもあなたが今から溺れるのは苦痛の海だけどね」
「はぁ!? って、ぐがあぁぁぁぁぁつ!」
死なない程度に痛めつけ、私はその場を後にする。おそらく、彼はもう今まで通りの生活は行えないだろう。
それだけの痛みを、一瞬にして感じさせたのだ。これで少しは会心をしたらいいがと思ってしまう。
「アリア! 状況はどんな感じだ?」
「フェクト! それって返り血だよね? 一気に攻め込んだみたいで、まだ混乱が続いてる」
フェクトが声を掛けてきた時正直に言って、驚いてしまった。
それだけのインパクトを感じてしまったのだ。
服だけではなく、顔面にも血が飛び散っている。それに、拳は血が垂れていた。
「当たり前だろ! とりあえず状況が分かり次第、随時報告ってことで!」
そう言い残し、またどこかに行ってしまうのだった。そうして、私も叫び声が聞こえる方へ走り出す。
「剣聖様! こっちで状況確認するから、思う存分暴れてくれ!」
おじさん連中が、俺たちに任せろと訴えかけてくるようだった。
私は軽く会釈をしたのち、一気にスピードをあげる。
「抵抗する奴らは殺してしまっても構わん! 我々の力を見せつけろ」
「見せつけられなくて残念ね。今の私を止められると思うな!」
強く握りしめられた剣での一撃。それを耐えられるものを中々いない。
彼らは吹き飛び、そのまま動かなくなる。
「我が名はアリア! 剣聖の称号を持つ者として、この場を治めに戻ってきた! これ以上の悪さは私が許さない」
それを聞いていた住民たちは、それぞれ腕を上げ歓声をあげる。
それに伴ってか、ダークウィッチーズの面々は、逃げ出す始末だ。
「剣聖から離れろ! ここで人数を減らす訳には行かないのだ!」ってぎゃあぁぁ!」
部隊指揮官と思われるうるさい人物を叩きのめし、周りに固まっていた一部隊を葬る。
魔法を放つ連中もちらほら見受けられたが、一切受け付けず、撃った魔法は儚く消える。
そんな状況で、放ってくるアホは少なくなっていった。
「そんな弱い魔法、私に通じると思っているの? ほんと可愛らしいわね」
ダークウィッチーズは、ほんの数時間足らずでほぼ壊滅したのだった。
この街にいた冒険者以外にも、魔法界が派遣されたことも大きな要因だったと言えるだろう。
「この戦いは、我々の勝利だ!」
この国の領主の宣言は、各地で歓声を呼んだ。それほどまでに、一致団結とした連中なのだと、私は改めて知るのだった。
「おーい! アリア、お疲れニャー」
ナズナは相当暴れたのだろう。傷を作りながらも、とてつもなく満足した顔なのが伝わってくる。
「この国って、あんなに揉めてたのに、いつの間にか団結してたニャー」
「私もそれ思った。なんか、一皮剥けたっていうか強くなったって印象だね」
「そりゃそうだろ。魔法界の指導も厳しかったみたいだし、それが効いたのかもな」
フェクトは、あれから相当暴れたのだろう。乱雑になった服装の姿でしか、得られない栄養素がそこにはあった。
「フェクト、香水の匂いがするニャー。どんな所で戦ったら、そんな複数の匂いがつくニャー?」
「あーこれか。香水を盗んでるバカが居たから、それを倒した時についたんだな」
そうしてフェクトが不思議そうな顔を浮かべながら、こうなことを言う。
「なんでだか知らないけど、途中から黄色歓声に包まれたりしてたんだよな」
私はこの時、言うべきか言わないべきか迷った。ただ、それを言ったところで無駄と思った私は言わなかった。
掻き上げた髪。偶然出来上がったであろう複数の匂いの香水。イケてる顔が助けてくれたんだ、世の女性は惚れてもおかしくないだろう。
「まぁ良いんじゃないの。それより、今日は一日泊まることになりそうだね」
「だな。流石に俺たちは居た方が良さそうだしな」
そうして、私たちの活躍は大々的に新聞にて報道された。それだけではなく、三人それぞれの特集ページが組まれ、世間の好感度は少しばかり回復したと風の噂で聞いた。
「じゃあ今度こそ、運河目指して行くわよ!」
「おう!」
「了解ニャー!!」
私たちは、静かに旅立ったのである。




