236話 翼の生えたオーガ
困惑した状況が続く。オーガ三匹が飛び上がり、いつでも準備が出来ていると言わんばかりの表情でこちらを見てくる。
「そんな見た目してるんだ、これで弱かったら一生の笑い者ね」
箒から飛び上がり、剣を振るう。三匹同時に相手をしつつ、確実に地面に近づけていく。
大きな図体だ、そう簡単に私の動きを捉えることは出来ない。
「はぁぁぁっ!!」
オーガたちは、体勢を立て直すべく翼を大きく上下させる。
「俺たちのこと忘れてたら困るぜ! 双風ボルト!!」
右側にいたオーガが悲痛な叫び声を上げるとともに、バランスを大きく崩し落ちていく。
「魂撃・ショットガン」
左側にいたオーガは、顔が破裂しそのまま消滅していく。
そんな姿をまじかで見せられたのだ。リーダー格である真ん中にいたオーガは、ただじっと私と睨み合っている。
「睨んでくるのは別に構わないけど、それは単なる時間稼ぎかしら?」
金棒を構えるが動こうとはしない。自分がどうなるか分かっているからこそ、慎重に動こうとしているのだろう。
だからと言って、私がそこまでの聖人ではない。むしろ逆である。
「これ以上何もしないなら、こちらから行くわよ」
次の瞬間、確かに剣はオーガを捉えていた。だが実際どうだ、剣が弾かれ、無防備の状態で空中にいる。
けたたましい雄叫びを発しながら、金棒を振りかぶっている姿がそこにはあった。
「まさかのカウンターか、考えたね」
だがそれは決まることはなかった。金棒は、片腕一本で止められた挙句、粉砕される始末である。
「私をこの程度で満足できると思っているのかしら? 私も大概舐められてるわよね、ほんと嫌になるわ」
懐に潜り込みサッと一撃、心臓を貫いたのであった。
「これ以上遺体を傷つけるわけにも行かないし、とりあえずボックスに入れましょうか」
そうして回収を済ませ、地上へと降りていく。
(フレリア今いいかしら?)
(アリア、うちのトップをどうにかしてほしいんだけど。あれ以来、魔法会の本部にも来ないし、ずっと塞ぎ込んでるだけど)
私はその件に関して、完全スルーを決め込んだ。
(なんか、翼が生えたオーガを討伐したんだけど、おそらく新種だよね)
(あーそれね。今ダイナール大陸の各地で発見報告があるのよ。おそらくそれは、人工的に作られた産物だと思ってくれて構わないよ)
人工的に作られた魔物? 中々想像が出来ないが、何らかの組織が関わっていると思っていいだろう。
(おそらく作ってるのは、ダークウィッチーズで間違いないと思う。ただ、それそこまで強くなかったでしょ、だからあまり危険視されてないのよね)
(確かに弱かったと思う。だから話題にならなかったのか、ありがとう!)
そうして地面に降り立つと、二人がすぐさま駆け寄ってきた。
「誰と話してんだ? どうせこの件についてだろうけど」
「フレリアとね話してた。人工魔物だってコイツ」
私は、フェクトが倒した魔物を指を刺しながら言う。フェクトもナズナも納得している様子だ。
でもこのオーガ。弱かった割には、スピードとパワーに関しては、強くなっていた。
あの図体でありながらあの跳び上がる速度は凄かった。あれは私でも興味をそそられる要因の一つだ。
「でも三匹相手にした時、私の剣には全くついて来られてなかった」
「普通に考えてそりゃそうだ。むしろ全員が、金棒を持ち続けられたことの方が驚きだ」
「そうだニャー。アリアの剣技、私たちの拳や足を出すより全然速いニャー。だからいつも防戦のほうが多くなるニャー」
二人からそう言われ、私は納得した。そうして、先ほどまでオーガがいた場所を散策することになった。
踏み荒らされた後が広がっており、ずっとまっすぐ歩き続けていたのが分かる。
その道は、私たちが箒で飛んでいた方向である。
「ねぇ、このままこの道を突き進む方向でいいかしら?」
「問題ないぞ!」
「わたしも!」
箒に乗り込み進んでいく。山を越え、それはまだ続いていた。
どこまで続いているのか、誰にも分からない。
ただ、今だけはこの道を進むことがいいのだろうと、心の中で言い聞かせる。
何かある。そう思ってしまっていたからだった。
「このオーガたち、ずっと歩いてんだな。箒で三日間進んでるけど、まだ遠そうだぜ」
「そうね。でも、この辺りは村も国もない。何かしらあるはずなのよ」
「わたしはアリアを信じるよー」
それに箒で三日ということは、数倍の時間を掛けてあの場所まで来ていた。
報告事例は上がってきているということを考えると、あの魔物たちはいつ作られたのか大体想像がつく。
それもキメラのように改造された魔物だからこそ、より注目を集めていたはずだ。
ただ、その報告はあまり上がってこない理由があった。
それは、弱かったから。それより、新聞を賑わせた事例で潰されたから。
大体これに分類されるだろう。
特にウェザー関連の話で、ここ最近はずっと盛り上がっていたことを考えると、アイツらからしてみれば最悪だっただろう。
だがもうすでに、ウェザーの一件は終わっている。今度こそ有名になると思ったら、また事件によって潰された。
「これ、少々面倒なことに足を突っ込んだかも」
「そりゃそうだろ。絶対この案件、また新聞を賑わせる記事が書かれるぞ」
「まぁいいんじゃない! だって、ここでアイツら潰せたら後の旅が楽じゃん」
ナズナの言っていることは正しい。私たちの旅は、良くも悪くもこういった関係で、何かしら絡んでいた。
「とりあえず当面は、これを追うってことでよろしく!」
「「了解!!」」
その頃、王都にある魔法界本部では、イデリアが久々に出社してきた。
虚ろの目、猫背、髪はボサボサ、少し痩せた体。そんな感じだったため、私を除いて話し掛けようとすらしなかった。
「おはようございます! 仕事は沢山溜めてますので、本日中によろしくお願いします」
イデリアからは、返事すら返ってこなかった。ただふらつきながら、ただ自室へと向かっていく。
「剣聖様からの報告もついでにしておきますね。翼の生えたオーガを確認したようです」
体は少しばかり反応を見せるあたり、気にしているのがバレバレである。
「あと、体には気を付けてねと言ってましたよ」
そんな嘘をついて私は、本部を後にするのだった。
イデリアって結構単純なんですよね。




