233話 友人
この騒動が落ち着いたのは、それから数時間後のことだった。
剣聖の私、師匠、イデリア、フェクト、ナズナの活躍により、事態は迅速に片がついたのだった。
王都の街中は、今回の被害がどれだけ酷かったのか、それを物語っていた。
多くの人が冷静さを失い、転移もままならない状況の中でのこの事件。
それは大きく報じられた。
「今回の原因って、王族が持ち込んだものらしいじゃん」
そんな噂は瞬く間に広がり、王族に対する不信感が募るばかりである。
今回のことに関して、王族側は何も発表しなかった。した所で無駄だと思ったのだろう。
それだけ、今回のことを重く受け止めているのだと考えている。
それに伴ってか、王族に対する不平不満が新聞を賑わせていた。
「第五王子の件、だいぶ批判されてるね」
「そりゃね、兵士が無駄に怪我したんだ。私だったら、確実に一人で行かせるね」
「アリアそれは流石に……」
フェクトからはドン引きの顔で見られたが、そう言われても仕方ないことをしていた。
「それに問題は、ミニシアの方だ。自分も強くなったからといって、指示を聞かないのは流石にアウトだよ」
「それに関しては、私からも言っておいたけど、多分あの調子じゃ、またやらかすわよ」
家で寛いでいると、門のチャイムがなった。すぐさまガードが対応してくれた。
(シューミンという名前の方が面会希望ですけど?)
(通して)
「承知いたしました」
玄関に移動すると、ちょうどドアが開いた。私の顔を見るなり、とてつもなく早い速度で土下座をぶちかましてきた。
その衝撃は凄まじく。会うたびに思い出しそうなほどである。
「この度は、誠に申し訳ございませんでした。私の不徳の致すところにより、多大なるご迷惑をおかけいたしました」
「顔を上げてシューミン。あなたは悪くないわ、言うことを聞かずに、飛び出したあの子が悪いのよ」
それでもシューミンは顔を上げようとはしなかった。地面に顔を擦り付け、とても申し訳無さそうにしていた。
「シューミン。せっかくだし一緒に歩かない? 外で歩きながら話そうよ」
ようやくシューミンは、顔を上げた。そうして、中々ない組み合わせで、散歩がスタートした。
シューミンは、とても申し訳なそうに後を歩いていた。
「せっかくのクラシカルメイド服が汚れてない? 大丈夫」
「いや特には。それにこれは汚れてもいい格好ですので」
「そんなに固まらなくて良いのに。後ろじゃなく、一緒に歩こう」
そうして傷付いた街中を散策しながら、散歩は続いた。その間、ほとんど会話らしい会話はなかった。
ずっと少しばかり、緊張した面持ちで歩いているのが伝わってくる。
「あ、あの、アリア様。私をあの子以上に強くしては、いただけないでしょうか」
「強さっていうのは、単純の努力と才能によるものだ。君がするべきはそこじゃないかな?」
今のこの子に教えても、それだけでは強くならない。
圧倒的な強さでは、人をいつしか絶望に落としてしまうからだ。
師匠はそれを知っていた。だからこそ、師匠の師匠に何年も挑み、打ち勝った。
その時の努力が、今の師匠を形成していると言えるだろう。
「シューミン。私が旅立つ前日、組み手をするよ。その時にどれぐらい強くなったか見せてもらう」
「わ、分かりました」
そんな会話をしていると、前方から見たことある顔が段々と近づいてくる。
「キャンシーじゃん!? どうしてここに居るの?」
「アリア久しぶり。王都が大変なことになってるって聞いたからさ、どんな様子か戻ってきたんだよ」
周りを見るが、キャンシー一人である。私が不思議に思っていると、察したかのように、口を開いた。
「今、仲間のみんなは他の国で待機してるんだ」
「そうなんだ。まぁ今は確かに、大勢で動くより単独で動いた方が良いかもだね」
キャンシーは私の隣に居た彼女に視線を向ける。
「私は、シューミンと申します。とある人にお仕えしています」
「そうなんだ。てっきり、新しい仲間だと思ってたよ!」
そんな話をしていると、街中が何処となく騒がしいのに気が付いた。
三人ともが、それぞれ腰に下げていた剣に手を掛け、警戒体制に入る。
そんな時だ。私たちが歩いてきた方向から、慌てた様子で走ってくる気配に気が付いた。
「号外だよ号外!! 王様たちが戻ってきたと情報提供」
そんなことを言いながら、新聞を撒きながら少年は駆け抜けて行った。
「あの王様戻って来たんだ。何処に隠れてたんだろ」
「シューミンは知らなかったの?」
「はい。第五王子とは何度も面識はありますが、そのお父様となると全くお見かけしたこともありませんね」
キャンシーは、とても驚いた表情でシューミンを見ていた。
「王族とあったことがあるんですか? 貴族様の関係者とは思ってたけど、言葉が上手く出ないわよ」
「そこまで驚かなくても構いませんよ。普通で結構ですから」
「そうだよキャンシー。せっかくだし、親交深めてみたら。互いに剣士なんだし、気は合うと思うよ」
そう言って私は城の方に、向かった。二人の困惑した顔は気になるが、まぁ大丈夫だろう。
そうして城の近くに行くと、大規模なデモが起きていた。
軍隊はそれの対応に終われ、パンク寸前である。私はそれを逆手にとって侵入に成功する。
「さて、王様に会いに行くかしら」
城内の中に入り込み、そそくさと王宮の間に向かっていく。途中、門番に見つかりそうになりながらも、向かっていた。
そうして扉を開けると、そこには見知った顔が一名と、他にも王子らしき人物が複数。それに玉座には王様が座っていた。
「そんなに驚いた顔をしなくて良いわよ。ちょっと私は話があって来ただけだから」
「剣聖様!? どうやって侵入なされたのですか? それに剣聖様、今は大事な時なんで後退室を」
第五王子はとてもよそよそしい態度で、私の前に現れる。それをお構いく私は踏み出すのであった。




