232話 イデリア視点
アリアが激坂で戦っている頃、一方その頃イデリアは同じく戦闘真っ只中であった。
「聖なる刃」
杖から一気に放出させ、薙ぎ払っていく。カマイタチは、それを必死に抵抗しているのが伺えた。
街の中ということもあって、非常にやりづらい。それが焦りとなり、状況がかなり悪くなってきていた。
結界は機能しているのに、一向に弱まる気配がない。
「ご報告します! 別の場所でもカマイタチが大量発生! 民間人にも被害が報告されています!」
「誰か対処に行っていないの!」
「それが、対処にあたっていた冒険者のパーティーが全員死亡とのことです」
その知らせは、私にとってもとても嫌な気分になる知らせだった。
「こっちの対処変われる? あなたなら大丈夫だから!」
私は了承も聞かずに、飛び出して行ってしまった。より焦り、視界がどんどん狭くなる。
暗い場所に、取り残されてしまう気分だ。
「イデリア! どこ行ってやがる、さっきの報告聞いたのか、それならこっちに任せておけ!」
「ライトベルト、それだったらお任せするわ。あなたに声を掛けられたことで、視界がクリアになってきたかも!」
少し会話をしたからだろうか? 体が軽く、遠くまで見渡せる気がしていた。
箒に乗り込み、すぐに飛び上がる。色々な声が混ざっているのを感じる。
その中で重要度の高い順に瞬時に仕分けていく。
「管理者様! 王宮内にカマイタチが発生したと報告がありました。今は軍隊も数が少ないため」
「分かったわ! 君、仲間を何名か呼んでここら一帯のカマイタチの殲滅を命じます」
「了解致しました!」
そうして私は王宮の方に、箒を飛ばした。城が見えてくる。外にもカマイタチが集まってきていた。
「どうしてこんなにも!?」
今は考察する時間じゃない! そう考え直し、頬をビンタする。
ヒリヒリと痛む。そのおかげで、随分と落ち着けていると思う。
「そこに居るのはイデリアかしら?」
「え、フェクト、どうして女性に化ているの?」
「師匠の指示だ。最近剣で戦ってないだろうから、少しは使えってよ」
「そこは任せたわよ! 城内にも出てきたようだから」
そうして城内を目指して走っていると、後ろから聞こえてくるカマイタチの声はとても悲痛な叫び声を上げていた。
「派手にやってるわね」
思わず口に出してしまうほどの衝撃を感じとったのだった。
城内に入ると、至る所でカマイタチが歩いている。
それを押し留めようと、兵士が攻撃をするがあまり高い効果はなかった。
兵士たちは、私を見るなり安心した表情でこちらを見てくる。
「何そんな顔をしているの! あなたたちは自殺志願者かしら? 魔物と対峙している状況で、気を抜いてはダメよ!」
私は、思ってしまったことをぶちまけてしまった。
それも仕方ない、この状況であんな顔をしたんだ。誰だって言いたくなる。
「イデリア! こっちの対処を頼めるか」
「第五王子、あなたって人は本当にバカなんですか? そりゃ上がこんな状況でこれなら、そりゃあんな顔をするわね」
第五王子は、とても困惑した顔でこちらを凝視してきたが、そんなことにはお構いなく私は魔法を撃ち放った。
「カマイタチ、これ以上やり続けるなら容赦しないわよ」
ここの廊下は、王宮の間に続く。それもどうやってこんな場所にポップしたのか見当が付かない。
「兵士たち退きなさい! 私の魔法で死にたくなければね」
氷の魔法で一気に凍らしていく。そんなことをされたら、動けるカマイタチは格段に居なくなる。
それにしても、ここには十数匹のカマイタチがいた。それなのに王子は、普通にこの道から来ていた。
あんなわがままを通すために、何人かの兵士が犠牲になったのかもと思うと、複雑な気持ちになる。
「動ける兵士さんたちは、負傷兵の手当を急ぎなさい! あんなバカのために体を張った人もいるのでしょう。この戦いが終わったら、私の所に来るように伝えて」
「承知致しました!」
その言葉が聞けただけ、今はこのことを考えるのは辞めよう。
そうして王宮の間に走っていく。
「あんたたち、そこ退きなさい! アイス・バード」
扉をぶち壊し侵入していく。王宮の間は多くの人数が集まっていた。
皆、私を見るなり口々に安堵の言葉を漏らしていく。それだけ怖かったことも伝わってくる。
「ここは私たちがどうにかするので任せてください」
「イデリア、やっぱり気が付いてた。ミニシアが剣を振り回してたから、気絶させて第五王子に渡してきた」
「後でキレられても庇わないわよ」
「そこは大丈夫。シューミンと一緒にやったから」
……
私は満面の笑みを浮かべながら言った。イデリアは終始呆れていたけど、それはそれで構わない。
今はこの状況の現状を打破しない限り意味がない。
「ねぇ王様ってさ、今どこで何をしてるの?」
「そりゃ、あの一番奥に座って……影武者!?」
イデリアも嫌なことを思ってしまったのだろう。そうではないと信じたいが、難しい顔で悩んでいた。
「これがもし本当なら、失脚どころじゃ済まないわよ」
「そうだね。でもさ、ここらで一度痛い目見ておかないと、アイツらは変わらないわよ」
私は、そんなことを言いながら歩き出した。影武者は、動こうとせず、ただジッと私が来るのを待っていた。
「あのさ、王様どこに言ったか分かるかな? 話したいことがあるんだけどさ」
「い、いえ、わ、私は知りません。この服を着て座ってろと言われただけなので」
おそらくもうすでに国外に一時避難したのだろう。ここが無くなっても問題無さそうだ。
イデリアがこちらに視線を送ってくる。私が何をやらかすか、分かっているのだろう。
だからこそ、それを止めようとしてくる。
「ダメだよ、ここはきっちり落とし前付けさせないとさ」
「それはそうかもしれないけど、あなたがやろうとしていることは確実に犯罪でしょ」
「まぁそうだけど」
ここで私がなんらかの動きを見せれば、一気に状況が悪くなる。
私は大人しくするのを決めた。
アリアがやろうとしたこと。
この城を更地に変える。
次回、カマイタチ騒動終わり




