228話 吸収体・ウェザー
平原にポツンと佇む私たち。その静寂さは、不安を呼び起こすほど怖く冷たいものだった。
それにみんなの顔は、とても暗い表情をしていてより恐怖を感じてしまう。
「私がリミッター外せば、大丈夫だと思うから心配しないで見ててよ!」
私は明るく振る舞おうとするが、それは全て裏目に出てしまう。
私は気を取り直し、剣を構える。深呼吸をして鼓動を安定させ、吸収体に目を移す。
そんな時だ、魔物の気配を感じたのは。イラついているよな、引き寄せられているような感覚である。
「もしかしてこの気配って、吸収体に寄ってきた魔物?」
そんな問いにも、誰も答えようとはしなかった。それどころか、動く気配も全く感じられない。
不思議に思った私は、みんなの顔を見る。
先ほどまで暗かった表情に加え、鼻から血を流していた。
突然のことで、理解が追いつかない。状況を見るに、この状況は非常に不味い状態だと分かる。
また深呼吸をして、心を落ち着かせ剣を構え直した。
頭の中を瞬時に整理して、剣を強く握る。
「どういうことか分からないけど、私がやらなきゃ行けないことだよね」
トラブルというものは、一回起きれば連鎖的に起きてしまう。
そうして今回も例をもれず、新たな問題が幕を開けたのだ。
「どういうこと?」
私は少しばかり困惑した表情を浮かべる。
突然、吸収体・ウェザーは浮かび上がり、神々しく光輝く。
「ッ……眩しい」
思わず声に出てしまう。光輝くのが終わったと思った瞬間、目の前に魔物たちが現れる。
「我は吸収体・炎」
「我は吸収体・水」
「我は吸収体・氷」
「我は吸収体・風」
「我は吸収体・雷」
それぞれ鎧を身に纏った吸収体たちは、それぞれの名前を左から順に言う。
「これはご丁寧にどうも……それで、あの球体が人型になれるってわけ?」
「左様でございます、剣聖様」
一番左の炎が、リーダーの役割を果たしているのだろう。積極的に話していたし、そんな気がする。
「それで後の案件は、あなたたちがやったってことで良いのよね?」
「えぇ、邪魔でしたから」
炎で剣を防いだ!? 一度大きく下がり、次の一撃の構えを取る。
そんな時だ、炎が指を鳴らした瞬間、四人の鎧が炎に吸収されていく。
体も気配も何もかもが、目の前で変わっていくのを目撃する。
その間、私はただ動けなかった。
「ここからは、吸収体・ウェザーとして相手をしましょう」
「それだったらさっきの要らないよね! 最初からその姿で良かったじゃん!」
「ツッコミを入れるのもわかりますが、あの工程がないと先に進むことが出来ないのです」
うわーなんて非効率的な変化だと思う私。
周りにいた魔物が、一斉に逃げ出すレベルでは強いのだろう。
それに完全に抜けていたはずの魔力が、回復している。
「その魔力ってもしかして、そう言うことではないよね」
「さぁどうでしょう?」
すっとぼけた表情をしているが、内心クソほど笑っているのが目に浮かぶ。
剣を強く握り込み、一歩踏み出した。
「アイス・マウンテン!」
氷の山を進路妨害。私はそのまま破壊しながら、突き進む。
「脳筋プレーですか、私は好きですよ」
一緒くたに魔法を展開していく。流石は厄災と呼ばれるだけの存在だと感心してしまう。
だがその魔力供給源は、仲間たちで違いない。
全員が鼻から血を出したのは無理矢理、魔力を奪われているからであろう。
「イデリアのお陰で調子いいみたいね? あなたに躊躇しなくてよくなって私は嬉しいわ」
「グゥ……! これが剣聖の剣技」
懐に入り一撃を決める。手応え的にはあまりいいものではない。
「剣技って言ってるけど、あなた自身全然食らってないくせに!」
全身を膜のような結界を張り守られている。それは、先ほどの球体の状態の時と同じやつだとすぐに分かった。
ただその膜は、突破するのが困難に近い代物である。
イデリアの魔力が彼を底上げしているのが、より伝わってくる。
「ハリケーン・バレット!」
アイス・マウンテンがダメだと分かったら、次は特殊攻撃に切り替えのようね。
ただそんな魔法で私を足止めすることは出来ない。
「マジか……!? ただの抜刀で我の魔法を打ち消したのか」
ウェザーは笑っていた。心が踊るような感覚、それは私も何度も感じたことのある感覚。
「剣聖舐めたらアカンよ」
高速移動からの、死角からの一撃。それはクリティカルに命中する。
即座に自動的に首服魔法が発動してる。
「それを超える勢いの剣技、喰らってみない?」
「……悪魔かよ」
振り絞って出された声は、少しばかり震えた様子なのが伺える。
彼はもう、勝ち目はないことを悟っていたかもしれない。
「私ってさ、基本的に技なんて使わないんだ。でも今回は特別に出してあげるよ」
「バーニングインフェルノ、聖なる刃、サンダー」
至近距離からの魔法を全て斬り刻み、消滅させる。
「……ッくそがーー!!」
「突き一閃」
剣は、ウェザーの体を簡単に貫いた。次の瞬間、後で倒れる音が聞こえた。
そうして、そのままウェザーは跡形もなく消滅するのだった。
「最後はあっけなかったわね。それに技もだいぶ、力抑えられたしまぁいいかな」
仲間の元に近寄ると、全員気絶していた。
「魔力を吸い取られてたものね。そりゃそうなるよね」
私は苦笑しながら、一箇所に集めて転移した。全員即座に入院が決まったのは、言うまでもない。
数日後全員が目を覚まし、その日のうちに退院をした。
「退院おめでとう!」
「それにしても閉まらねぇよな。まさか、あんなことになるなんて」
「ほんとそうだよ、わたしなんて魔力がほとんどないのに、やる意味あった?」
「二人ともまぁ良いじゃない。美味しいものでも食べて、忘れようよ」
そうして、イデリアとエルザと別れ、私たちは酒場で大いに盛り上がったのであった。




