224話 いざこざ
王都の昼下がり。先ほど起こったことには気にもせず、賑わっていた。
人々が笑う姿を見ていると、自然とこちらまで笑ってしまう。
そんな日だった。
だがある場所では違うらしい。ギルドの前を通った時だ。ギルドから男がドアを突き破り飛んできた。
地面に勢いよく体をぶつけ、声にもならないような声で悲痛な声を漏らしている。
その姿には見覚えがあった。いやそれどころか、知り合いである。
「ギルマス何してんの?」
先ほど会った時とは別人のようであり、全身ボロボロだった。
すぐに気を失ったため、イデリアが回復魔法を始める。フェクトの方を見ると、すぐに戦闘態勢に移行している。
「フェクトここは街中だから、暴れることは出来ない。ここは私に任せて!」
私は少しばかり焦ったような声で、フェクトに指示を出す。そうでもしないと、フェクトはおそらく向かってしまう。
そんな時だ。ギルドの中から一人の男が出てくる。
「あの特徴的な耳。エルフ族」
「珍しいよねお嬢さん、怖い思いをさせたなら謹んでお詫び申し上げよう」
私は言い終わる頃には、彼の顔面を殴り飛ばし、ギルドには大きな穴が空き、テーブルを薙ぎ倒していた。
私は歩きならが、必死に怒りを抑えようと努力する。
「テメェ誰に向かって言ってるのか分かってんの? 剣聖を怒らせたんだ、ただでは済まないわよ」
彼自身、ピクリとも動こうとはしなかった。
いや、すでに気絶していたのか、動けないのかどちらか分からなかった。
胸ぐらを掴み、床に叩きつける。
「まさかこんな簡単に伸びてんじゃないわよね。早くその汚らしい声でも出しやがれ」
周りから殺気を感じる。私は彼を放り捨てその場で止まる。
相手側の位置は簡単に分かる。ただ、向こうから手を出してこないのだ、私がこれ以上武力行使をしなくて良いだろう
「またエルザを呼ぶことになったね。エルフ族、お前らのせいでまためんどくさい案件が増えたのよ。その責任から逃げるなよ」
ドスの聞いた声がギルド内に響く。エルフ族からしてみれば、すぐに逃げ出したい感じだと思っていいだろう。
そんなことを思っていると、イデリアの気配が近づいてくる。
「少しやりすぎだから気を付けて。エルフ族さん、魔法界まで来てもらおうか」
ゆっくりとエルフ族たちが出てきた。おそらく、旅をするエルフ族なのだろう。
それぞれ武器を持っている感じ、旅行とかではない。
「こうなるだったらあのおっさん、殺しておけばよかったな」
捨て台詞を吐くかのように、そう言った男のエルフはすぐさま後悔した。
なぜなら、剣聖と管理者を完全に怒らせたからである。
魔法で貫かれ、その瞬間回復され、また攻撃されるのを何度も何度も繰り返されたのだ。
「もう、や……やめ、やめて……くれ」
そんな言葉と悲痛な叫び声が、ギルド内に響くのであった。
いつの間にか、ギルド内に結界が張っており結界の外には漏れなかった。
「二人ともやりすぎだ!」
フェクトから渾身の一撃を頭にそれぞれ喰らって、エルフ族の男は精神崩壊で済んだ。
フェクトはエルフ族の彼を見るなり、大きなため息をついて、こちらを睨んでいる。
「幸い見ていたのは、ここにいる連中だろ? それだったら問題ない」
「問題ないって何をする気?」
明らかにフェクトの魔力が高まっているのを感じる。
何をしでかそうとしているのか、私では全く見当が付かなかった。
だが、横目でイデリアの顔を見ると、何を察しているようだ。
「許可しないわよ、フェクト」
「なんでテメェの許可がいるんだよ。俺の主人はアリアだ!」
「フェクト、何をしようとしているのか分かっているのよね?」
「都合の悪い記憶を消すだけだ、なんら問題ないだろ?」
フェクトは魔神のような不適な笑顔を見せる。その顔は、肌がピリつくほどのプレッシャーを放っていた。
「記憶を消す魔法は、私の前だとしても許さないわよ」
「禁忌の一つっていうわけね、それだったら私も許可出来ないわよ」
フェクトはとても嫌そうな顔で見つめてくる。
「フェクトそれは仕方ないことよ。まぁでも物理で忘れ去れるなら、問題ないわよね?」
「何言ってんのバカなの!? 私が言えた立場ではないけどさ」
「一発殴れば大体記憶吹き飛ぶよ。任せておいて」
フェクトはとてもにこやかな笑顔で、軽くデコピンした。
「なんだったの今の茶番!?」
イデリアの華麗なツッコミが入った。そんな会話をしながら、彼らを連行するのであった。
「ギルマスあなたにも来てもらうわよ。ここは第五にでも任せて、さっさと行くわよ」
魔法界本部は、とてつもなく重たい空気が流れていた。それもそのはずである。
ウェザーのトップ、王都ギルドマスター暴行事件が起きたのだから。
「ギルマス、何があったのよ。あなたは充分強いはずでしょ、負けるなんて思わないだけど?」
「俺が手を出してないことぐらい知ってるだろ。ただいちゃもん付けられただけだよ」
ギルマスの言っていることは本当なのだろう。だからこそ、すぐに話に応じたのだろう。
「そんな大事にしないであげてくれ。アイツらも、少し調子に乗ってただけなんだ」
「そうは言ってももう連絡しちゃったし。それに私たちがあなたのために怒ったのトップ記事だよ」
ギルマスはとてつもなく驚いた顔をして、何度も私の顔を見てくる。
それだけ衝撃が強かったのだろう。
まさかの自分が、ウェザーのトップの案件よりも大々的に記事になったのだ。
そのような顔になっても仕方ないだろう。
「とりあえずそういうことだから。ギルドの方は安心しなさい、第五王子がしてくれてるから」
その瞬間、勢いよく椅子から転げ落ちるのだった。
そうしてそのまま意識を失い、フェクトに迷惑を掛けたのは言うまでもない。
その頃ウェザーの方は、全てを話していたのであった。
……
「あなたが殺せなかったこの命、今度は我々があなたをお救いします」
また王都の近郊で、何かが起ころうとしているのを、アリアはまだ知らない。




