215話 花を守りし魔族
翌日もまたその次の日も探す旅は続いた。楽しかった旅もいつしか笑う声はなく、ただひたすら目的の花を探す日々。
あてもない旅に戻れない日々が、私たちの心を少しずつ蝕んで行くのであった。
「なんで頂上付近は、天気が回復してんだよ! クソかよ」
フェクトは、地面の石を蹴り上げ八つ当たりをしてしまう。
それぐらい、不自然なことが続いていた。
「でも魔法の干渉もないから、自然現象としか言えないよ」
「それもそうかもニャー。でも、流石にこれはおかしすぎるニャー」
全員、これは普通のことではないことぐらいとうに分かっていた。
ただ、どのような理由があってこうなっているのか、全く見当がつかないのである。
魔法の干渉は感じない。普通に考えたら、見えない結界を張っていて、その影響で花が咲かない。
そう仕組まれたものかと思っていた。
ただ、そんな証拠もないため、私たちは無駄かもしれない旅をただ続けることしか出来なかった。
「これからどうする? 一度戻るっていうことも考えたほうがいいかも知れないぞ」
「そうかも知れないけど、戻ったところで意味がないと思う
何も手がかりがない今、村に戻った所でやるとしたら休息ぐらいである。
こんな状況で、私たちの心が休まることはないであろう。
「そこで見ているのは誰ニャー!」
ナズナが突然叫んだのだ、それもなんの脈絡もなく。
ただ次の瞬間、頭の中に雑音が入り込んでくるような感覚に襲われる。
ナズナが声を出した方向を見る。ただ、そこは登山道であり誰もいる気配すら感じられなかった。
だが、そう思ったのは間違いだったのだろうか? ナズナは一人走り出し、後を追うかのように動いたのである。
「フェクトは、ナズナの後を追って! 私は気配感知を発動させ上空から追う!」
「了解!!」
すぐさま気配感知をフルに発動させる。一気に気配感知の回路をフルにしたためだろうか、頭が少しばかり痛む。
眉間にしわを寄せながら、それでも発動させたのであった。
ただ、そこには妨害されているかのように何も感じることが出来なかった。
いや、言葉が違う。させてもらえなかった。
顔を上げなくても分かる。誰かが、私の前にいる。それがこれの元凶だと言えるであろう。
「我は花の管理者。お前をここの肥料としよう」
「私の気配感知に何をした? 魔族野郎」
剣と魔法が勢いよく打つかる。
「花の管理者っていう割には炎魔法かよ。失格なんじゃねぇの?」
「それはどうでしょう。あの花がそんな柔なら、私など必要ありませんから」
指を鳴らすとともに、空中に炎の塊が顕になる。そのどれもが、高密度の魔力で練り上げられた代物であった。
魔法に長けた魔族だからこそ、その武器を最大限に活かして戦うタイプだと分かる。
「そんな炎、私の剣の前では意味成さないけどね」
「そうですか。ですが私は、あの花を守るためならこれまで同様魔法を振るうだけですから」
高密度の炎。それは確かに強いのだろう。ただ、私の前に長く出し過ぎた。
「もう斬れてる物をいつまで気が付いていないのかな」
懐に入られた魔族は、とれる行動なんて限られている。ましてや、ほぼ確実な不意打ちである。
魔族の体から大量の血が、地面に飛び散ったのである。
「複合体だよね。分かってたけど、もうちょっと手応えあったほうが嬉しかったな」
……
ある境を超えた瞬間、猛吹雪へと変わっていく。その勢いは、結界がないと進むことがままならないほどである。
そんな道を、ナズナは一心不乱に追いかけて行った。
「完全に見失った」
前にも後にも戻れる状況ではない。ここを動くと、死という文字が頭をチラつかせる。
おそらくこれは、魔法の一種として考えたらいいだろう。
練られたトラップだと分かる。
おそらく、行方不明者、死亡者の多くはこのトラップに引っかかったのだろう。
「上では、アリアは戦闘中。下では、本体とナズナが追いかけっこの最中といった所か」
この猛吹雪である。これは魔法で強めているのが分かる。それが分かった所で、本体を叩かない所で足止めを解消するのは無理である。
「でもなそれは、人間だったらそうするしかないってことだ」
俺は魔神である、この程度意味など成さない。
ナズナの気配だけに集中を向ける。そうすると、この猛吹雪の障壁は怖くなくなるのである。
この一歩は、今まで何人も何十人も踏み出した一歩であろう。
それで生き残った人数は、ほんの一握りであろう。そんな一歩を俺は、踏み出していくのであった。
「待ってろよナズナ! 今行ってやるからな!」
その頃ナズナは、追いかけっこから、戦闘に切り替わった直後のことである。
「やはり魔族だったのニャー。久しぶりのソロ戦ニャー、手加減なんてしないニャー」
心が昂っている。それも今まで感じたことがないほどにである。
それほど、この瞬間を楽しんでいるということなのだろう。
雪道は走りづらいし、寒いしいいことなんてほとんどない。
それでも私は、アリアの仲間でわたしだって強いと再証明させるニャー。
「魂雷衝撃」
「インフェルノ」
手が熱い。熱さで拳を解いてしまいたくなるぐらいには熱い。
それでも、コイツと戦って散った人たちのことを思えば我慢なんて余裕ニャー。
魔族は勢いよく飛んでいく。
「獣拳!」
氷の家!? コイツの魔法、まだ余裕って感じなのが嫌なほど伝わってくる。
おそらくコイツは、今までも同じような戦法で戦ってきたのだろう。
「ふざけるなニャー。私の拳がお前如きの魔法を破れないわけないニャー。獣拳・インパクトドリル」
拳は体を簡単に貫いた。衝撃はすぐさま全身に伝わり消滅。
そうして、全ての魔法が解かれたのであった。
(ありがとう! 花はこれで頂上に咲くでしょう)
そんな声がわたしの中に聞こえてくるような気がするのであった。
「君たちの魂に栄光があらんことを祈ってるニャー」




