209話 村人のうざさ加減
6章開始となります!
ダイナール大陸に冬がやってきました。猛威を振るう寒さは、私たちを意図も容易く蝕んで行くのであった。
「洞穴が無かったら、これ俺たちやばかっただろ! これ今からでも王都とかに転移した方がいいだろう」
「それも一理あるかもしれないけど、もう始まったんだし、ゆっくり旅しようよ!」
「そうだニャー」
ナズナは援護射撃に回ってくれているが、それはおそらく意味のないものである。
「とりあえず数日以内に、村には辿り着くから。そこで改めて作戦を考えよう」
そんな話をしていると、寒さを防ぎたいのだろう。結界の外で攻撃をする音が響いてくる。
音は、結界を引っ掻いている。鋭利な爪でギィと音を立てている。
ただ音的に、段々弱まっているのが感じ取れた。それだけではない。
他の魔物たちも洞穴を囲むようにして、集まってきているのが分かる。
「冬の魔物はより凶暴となるから、気を付けて対処するようにね」
とりあえず私は、注意喚起を言うがナズナは聞いている様子は無かった。
なぜなら、話し終える頃には、結界の外に飛び出していたのだ。
凄まじい音をさせ、一瞬にして魔物を葬っていく。
「魂撃・キック」
外に出なくても分かる。完全に、ナズナの実験台にされる魔物たちで溢れかえっていた。
「フェクトは休んでて。私がとりあえず行ってくるから」
このままでは、この天然要塞である洞穴が崩落してしまう危険性がある。
それはなんとしてでも避けたい。ここを失えば今から暗くなっていくのに、また仮拠点を探す羽目になる。
「ナズナ、暴れ過ぎたらダメだよ」
「なんでニャー、せっかくの魔物、ここらで運動したいニャー」
「それは良いんだけど、限度ってものがあるのよ」
そんな話をしながら、十体ほど首を跳ね飛ばしていく。それを見ていたナズナの顔は膨れ上がっていた。
「アリアが戦いたいだけじゃないの!? せっかくの魔物取らないでよ」
「いや違うから!」
すかさず突っ込んでしまう。単に、目の前に居たからつい体が動いたっていうか、そんな感じである。
「そんなことより早く戻るわよ。料理、ほったらかしで来てるんだから」
「それを早く言うニャー」
洞穴と外の結界による境界線を跨いだ瞬間、良い香りが洞穴に充満していた。
「スープ出来上がってるぞ、早く食べようぜ」
「休んでて言ったのに、料理やってもらってごめん。すぐに準備するから、待ってていいよ」
すぐさま料理を皿に移し、パンを用意して晩御飯がスタートしたのであった。
「村には数日で着くけど、それを皮切りに王都に戻るべきだと思う」
「もうちょっと、装備を整えたいって感じはするよね」
「せっかくの冬の大冒険だよ、楽しもうよう!」
「死んだら元も子もないだろ! 普通に考えてあの家で大人しくしておこうぜって話だろ」
二人は、完全に歪みあっている。ため息をこぼしたくなるのをグッと堪え、ある提案をしてみることにした。
「今後、今から向かう村や国でのクエストで、冬特有のクエスト受けたら終了ってことにしない?」
「俺は賛成だ! そっちの方が断然いい」
フェクトは即決である。対してナズナは、不満そうにはしているが、この状況を自分なり答えを見つけ出そうとしているのだろう。
そんな顔をしながら唸っていた。
「わたしもそれでいいと思う。やっぱり旅は続けていきたいしね」
「そう。そしたらその考えで、お願いしますー」
そうして、私たちは村へ辿り着いたのは、あれから一週間が経った頃だった。
「やっとついた」
思わずこぼれ落ちる言葉。この一週間、雪で動けなくなったり、遭難しかけたり、二日間ほとんど眠ることなく戦い続けたりと、色々なことがあった。
そのせいか、誰もクエストを受ける気力は残っていない。ただ、村人からしてみれば絶好のチャンス到来である。
宿に大勢の村人たちが押し寄せ、ひっきりなしにクエスト用紙を見せてくる始末。
「ちょっと待って、ちょっと休ませて、流石にもう眠たいからさ」
「だったら受けてくれるんですか! 受けてくれるまで帰りませんから!」
とてつもなくうざい。
自分たちが協力したら出来そうな内容ですら、私たちを頼ろうとしてくる始末である。
それに何より、それが当たり前だと思っていることが本当に腹立たしかった。
正直、今すぐ剣を取り出して血祭りにしようとした妄想は、一回や二回ではない。
それぐらいうざいのである。
「コラー! 辞めなさい、何をやっているのですか! 全く懲りないのね」
「申し訳ありません、剣聖様。うちの年寄り連中が、ご迷惑を掛けたことでしょう。後で、全員ぶん殴っておきますから、心配せずに寝ててください」
この人、やべー奴の類のやつじゃん。
めっちゃにこやかな笑顔を見せながら、可愛い声をしてるのに、言ってることただただやべーやつじゃん。
「なんじゃ、ご褒美をくれるのか?」
こっちのジジイ連中もやべーやつでした。
「今すぐとんずらしたい」
「心の声漏れてますわ、あ! すみません、申し遅れました、エスと申します」
「一つ聞きたいことがあって、あなたは何をされている方なんですか」
村特有の何にかをしている人だろう。可愛らしく暖かそうな格好、どう考えてもギルド職員とかではないだろう。
「あ、私ですか? 村の自警団をやってます!」
「村の自警団ですか……だったら早く取り締まりお願いしますね」
そう言い残し、私は逃げるように二階へ続く階段を駆け上っていくのであった。
駆け上がると、丁度部屋から出て来る二人に遭遇する。とても眠たそうに、目を擦っている。
「二人ともどうしたの?」
「いや、うるさくてよ」
「そうだニャー、文句言いに行こうと思ってる所ニャー」
相当ストレスが溜まっていたのだろう。完全にイラついた表情に変わっていっている。それに段々と、眠たさだけでは感情が隠れていない様子である。
「まぁ二人とも、今自警団の人が対処してるから寝なさい。じゃおやすみ!」
私は若干逃げる様子で、部屋に戻るのであった。




