207話 ドラゴンと国外追放
私も後を追うように、その場を離れた。住人たちは、困惑を隠せていない様子なのが伺える。
それもそうだ。今回、言ってみればここの領主が全て悪いのだ。
そんなことを考えていると、二人と合流し話が始まるのを静かに待つ。
そんな時だ、ドラゴンは領主に目もくれず私の方を見てくる。
私は顔とかに何か付いているかと、焦ったがそれは杞憂で終わった。
(この度は本当に迷惑を掛けてしまった。申し訳ない)
彼の声が脳内に響いている。それもとても悲しそうな声である。
ついさっきまで楽しそうな声が嘘のようである。
「私は好き勝手暴れただけだよ。だから謝らないで」
(その心遣い感謝します。それはそうと、聞こえているのだろ、領主よ)
領主の体がビクッとする。途端に震え出しているのが見て分かる。
「聞こえております。今回の件につきましては、誠に申し訳ございませんでした」
領主は、地面に頭を付け本気で謝っている。ただ、それ一つで許されるのなら、軍隊なんていらないだろう。
これは、彼らの問題である。この件に関して、私は何も言うことはない。
(お主は、この国民を危険に晒したのです。それを他人に助けてもらっておきながら、いまだにこの国を治めようとするのですか)
「とんでもないことです。今すぐ退任手続きをいたしますので、それだけの猶予をお与えください」
ドラゴンの体内から、高密度の魔力反応を感じる。この流れはどう考えても一つだろう。
そうなってしまったら、先ほどの被害とは比べもにもならないほどの、被害を出すことになる。
そうなれば、理不尽な暴力による死が、住民たちに襲いかかる。
それだけは、避けなればならない。
口を出すつもりなど、微塵もなかったが仕方ない。この状況を見ていて、何もしませんでしたはやっては行けない行動である。
「ドラゴン、あなたの言い分は分かるわ。ただその魔力は、辞めてくれないかな」
彼は、本気で私を睨んでくる。流石は、魔族を入れても上位に入るほどの存在である。迫力が段違いだ。
(この件に関して介入はしないだろう、普通に考えてよ)
「あなたのブレスで、どれだけの人が死ぬと思う。あなたを思ってくれている人もいるのよ」
今にもこちらに向かって発射しそうな勢いである。幸い、私の後ろは平原が続いているだけである。
だからそこまでの大きな被害にはならない。
(剣聖、お主には関係のないことだ、これ以上口を挟むなら、どうなっても知らんぞ)
「え、何脅し? テメェみたいな雑種が適当ほざくなトカゲ野郎」
次の瞬間、ブレス放出。ただそれは、剣聖の前では無に等しい。
手を叩いたという行動の影響である。
「あなたに剣を向けるほど私は、弱くないの。これ以上のことがお望みなら、考えてもいいけど?」
(……)
彼は、何も話そうとうはしなかった。ただジッと睨みつける以外、出来なかったのである。
領主は、一連の行動を見て腰が引けて完全に立てなくなっている。
二人の方を向くと、二人とも少しばかり頭を抱えていた。
「ほんと後先考えずに行動したらダメでしょ! 少しは反省するんだよ」
ナズナに怒られる始末。私は苦笑してその場をやり過ごした。
頭が落ち着いたころ、私はドラゴンの方に歩み寄っていく。
そうして私は、誠心誠意謝ったのである。
「先ほどは、私自身、怒りに任せて行動してしまった。あなたを傷つけるようなことも言った。本当にごめんなさい!」
ドラゴンは少しの間、動こうともしなかった。
(ワレも謝罪させてほしい。あなたに言われるまで、民のことを頭から抜けていた。あのままだったら、国を巻き込んでいた。本当に済まない)
この場は、お開きになったのであった。この日から数日たった朝、宿で寝ていると窓の隙間から聞こえてくる声で目が覚めた。
その声は、清々しいほどにうるさかった。それだけ、この国であの一件以来の大きな出来事があったのだろう。
「号外、号外ってうるさいのよほんと」
そんなことに対し小言を言いつつ、顔を洗いに行った。
準備を済ませ、一回に降りると号外の話で持ちきりになっており、とても騒がしかった。
「号外の内容何か知ってる?」
「領主が今回のことの経緯を全て新聞に載せたんだよ。それに伴って、国外追放処分を自分から名乗り出したらしい」
領主は、ある意味加害者とも呼べる立場である。だからこそ、自ら判断したのだろう。
周りから聞こえてくることを要約するとこうである。
元々この国には、隣国にお金を借りていた。それは日に日に膨れ上がり、どうすることも出来ず考えついたのが、今回の出来事だったらしい。
国民を巻き込んで、隣国の支配下になること。
ドラゴンが攻め込めんで来た場合、殺すのも大丈夫なこと。
そんなことを長い文章で掲載したらしい。
それに伴い、この国では今相当荒れている。領主が国外に逃げた所で、これまでの借金はどうにもならない。
領主家族だけでどうにか出来る問題ではないのだから、そうなるのも当たり前である。
「イデリア、これは大変なことに巻き込まれたわね」
「そうだろうな。とりあえずこの国は、ダイナール王のご子息で俺たちとも面識がある第五王子が統治するらしいぞ」
第五王子か、まためんどくさいこと起きそうで嫌だな。そんなことを思いながら外に出ると、今一番会いたくない人に待ち構えられていた。
「そんな嫌そうな顔をなさらないでください。剣聖様」
「王子が私に何のよう? くだらないことだったら容赦しないわよ」
「これは手厳しい。剣聖様には、今回も迷惑を掛けてしまったお詫びに、迷惑料を渡しに来たのですが、どうやら要らないようですね」
第五王子は、これみよがしにお金が入った袋を見せてくる。
そうして馬車に戻って行こうとする。
「ちょっと待ちなさい。お金は受け取るわよ、それ以外の面倒ごとはしないけど」
「本当に勘のいい人ですね。まぁそれもそうですね、今回もありがとうございました」
そうしてお金を渡し、その場を去るのであった。




