199話 笑顔
ギルド内は、色々な感情が混ざったような感覚に陥っているかのようだ。
私たちが来て十分足らず。色々なことが起こった。その影響を凄く感じてしまった。
ギルマスは、少しばかり冷静さを取り戻し、すぐさま私から離れた。
「先ほどは申し訳ありませんでした。頭に血が登ってしまい、手が出てしまいました」
ギルマスはとても反省した様子なのが伺える。ナズナはそんな姿を見てもまだ、納得していないのが分かる。
とてつもなく殺気を放っている。
ナズナを宥めつつ、私はギルマスに歩み寄った。
「あのお金には、私の魔力を練り込ませているのです」
私が、困っているからと言って大金をぽんと渡すわけがありません。
せっかく稼いだお金を、見ず知らずの少女にそう易々とばら撒いたりはしないのです。
「どんな風にお金を使うのか知りたかったためですか?」
「そうですよ、あの子は虐待を受けていましたから」
そう思ったのは簡単である。推定年齢七才前後にしては、とてつもなく軽かったのです。
それにあの逃げる姿、どう見てもあれは自己防衛の賜物だと言っていい。
「その疑いがあります。ただ、あの少女には私たちでも手が出せないのです」
やはり訳あり少女というわけか。おそらくあの子には親がいないと推察出来る。
少女を拾ったのは、ギルドでも手を焼いているほどのギャング、もしくは賞金首。
「その案件は私にお任せください。私が始めた物語ですので」
そう言って私はナズナを連れてギルドを後にした。その際もナズナは、ギルマスをずっと睨んでいたままである。
そうしてギルドを出ると、けたたましい轟音が国の外でなった。
「随分とフェクトは暴れてるんだね、ナズナもそっち行っておいで」
「ストレス発散してくる!」
そう言って、すぐに後ろ姿が見えなくなってしまった。ナズナを見送り、私はお金のにつけた魔力の気配を感知させた。
ここから近い場所に反応が止まっていた。気配感知とマップを組み合わせ見てみると、とある家の中である。
「強気だね。それだけ自分の力を信じているということか」
通りを歩くこと数分。通りの道から外れ、細い裏路地に入っていく。
壁には落書きなんかは当たり前。そんなのを見ながら、ある家に辿り着く。
一見どこにでもありそうな家だが、家の中から殺気が漏れ出している。
操り騒動の一件とかもあって、気が立っているのだろう。
私は門を開け、扉の前に立った。普通に仲間の一人が帰ってきたかのような面持ちで、玄関の扉を開けた。
「あ? 誰だテメェ」
私の右ストレートが火を吹いた。男は壁を突き破り気絶して倒れた。
「大人しくしててほしいな。この家を血の池にしたいのなら別だけど」
そう言い終わる頃には、騒ぎを聞きつけた手下どもが、狭い廊下に集まってくる。
完全にやる気のようだ。
「剣聖様と戦えるんだ、全力で来なさい」
迫り来る手下たちに、木剣が猛威を振るう。
奥にある部屋に吹き飛ばされたり、二階に続く階段が血でベトベトになったりした。
そんな状況になって、ようやく二階から親玉が姿を見せた。それもなんとも、三流犯罪者のような状況である。
「えー、そこは一人で出てきてほしかったな」
ナイフを少女に突きつけ、私が止まるだろうと思っているのが見え見えである。
「うるさい! 一歩でも動いてみろ、ミーティアがどうなっても良いのか!」
「ねぇどこ見て言ってんの?」
親玉が見つめている頃には、私は彼の後に居た。それに親玉が抱えているのは、ミーティアではない。
ただの魔法人形である。
「はぁ? え、どうなってんだ!」
次の瞬間、親玉は足を滑らせ転落。ただ、自分の手下に感謝した方が良いであろう。
横たわった彼らのおかげで、彼に外傷はない。
「お金、あなたが持ってるんでしょう。あれは私がこの子に渡したの。どんな理由があってもそれはこの子のお金だ」
「何言ってやがる! このお金は、ミーティアの養育費だ! 俺たちが善意で行動すると思ってるのか!」
これはダメだ、そう確信する。ミーティアを残し、階段を降りていく。
親玉は、ナイフを振り回しながら、意味わからないことを叫んでいる。
「お金を返してくれるのなら、命までは取らない」
「そんなこと、信じられるわけねぇだろ!」
男は今にも振り返って逃げそうな勢いである。ただこの親玉にそんなする度胸は、残っていないだろう。
「犯罪行為して、お前は賞金首になったんだ。それぐらい覚悟の上だろ」
「俺は、ただストレス発散していただけなんだ! それなのに、いつしか賞金が付けられていた」
それを自業自得と言うのだろう。ただ親玉はそんなことを理解出来るはずもない。
ただのストレス発散が今では、今では立派な犯罪者である。
「ったく早く渡せばいいものを」
「っヒィ、やめてくれころさないで」
背後に飛んで手刀。周りが見えなくなっている親玉にとってはとてつもなく怖かったのだろう。
恐怖に満ちた顔が、より色濃く頭に残っている。
彼のズボンのポケットからお金を取り出し、回収する。
「ミーティア、ギルドに行くわよ。あなたの行動がこれ以上間違わないためにも行くんだから」
ミーティアは、こくりと頷いて私の後についてきた。私は、犯罪者を肩に乗せギルドの方に戻ってきた。
ギルドを開けると、心配していたのだろうギルマスの顔が相当こわばっていた。
私たちを見るなり、その表情は穏やかそのものとなった。
「本当にありがとうございました、剣聖様にはなんてお礼を言ったらいいか」
「別に構わないわよ、それよりこれからのことを話し合いなさい」
ミーティアはそうしてギルドの受付嬢に連れられながら、奥の部屋に入っていくのであった。
その際、ミーティアが立ち止まりこちらに振り返る。
「剣聖のおねーちゃん、助けてくれてありがとう! 私頑張るから」
その時の笑顔は、ギルドにいた全員を昇天させるかのような笑顔だったのでした。




