195話 彼女たちの最期
老婆はここに来て、初めて笑みを見せた。
「気が付いていたのですか。やはり剣聖の称号を持つお方は違いますね」
「あなたたちは、禁忌の魔法をやったのですね」
「禁忌の一つ融合魔法です、それにしてもよく知っていましたね」
禁忌の魔法―魔法界、エルフ族が定めた行ってはならない魔法のことをさす。
その中の一つに、融合魔法というものが存在する。簡単に説明するなら、亡くなった魂を生きている人間に入れ込むことである。
本来亡くなれば、魂も肉体も滅びる定め。新たな転生へと行くというのが流れとされている。
融合魔法は、肉体が滅びても関係なく魂をこの世界に残すための方法の一種である。
「師匠から習いました」
「いい師匠をお持ちのようで。それで本当の目的は?」
「本当の目的? そんなもの存在しませんよ。ただ私たちは、あなた方と旅がしたいのです」
老婆の魔力が少しばかり強さを増している。全身がピリピリと痛むかのような感覚である。
そればかりか、気が立っているのも分かる。
「私たちが誰だか知ってわざわざ入ってきたのではないのか?」
「知りませんよ、そんなことは興味ないし」
私は即答した。そんな回答をしたためか、老婆からは睨まれ、フェクトは吹き出す始末である。
「ねぇおばさん、早くお出かけしようよーいつまでもここに居てもつまんない」
ナズナの一言によって、一気に歯車が周り出すのかのように、一気に話が動いたのだった。
「勝手にここに降り立っておいて何を言う! あんたたちが来なければ、今頃夢の中に行ってたわ」
強い口調で言うが、後に居たナズナの方を向くと、あまり興味なさそうな顔で老婆を見ていた。
「えーだって、あなたたちって何か悪いことを犯してるんでしょう? 家の中に居たって外に居たって私たちの敵じゃないし」
「ナズナ! 少しは自重しなさい」
老婆の中で何かが切れたのだろう。一気に魔力量が増大する。
「私はせっかくのチャンスだし、一緒に旅をしたかっただけなんだけどな」
名を馳せていた時代のある魔法使い二人。それは愛しあっていたからこそより強くなれたのだろう。
最愛のパートナーが亡くなり、禁忌の魔法をしてしまった老婆。
それは、魔法使いとしてはあってはならない決断である。それでもまた、最愛のパートナーである彼女に会えるならと踏み込んでしまったのだろう。
「それを維持するために、どれだけの人や魔物や動物の魂を食べたのかな」
「うるさい! あなたに何が分かる、最愛の彼女を失った私の悲しみ、あなたなんかに理解されたくない」
魔力の肥大が止まらない。このままではこの家も耐え切れない。
「このままだと、家が持たないけどいいの?」
「お前たちを食らった後に直せばいいことよ」
杖から放出される魔弾。自分で思い出があったであろう家を完全にぶち壊していた。
「完全に理性を失ったみたいね。もう彼女ではない魂にあそこまで入れ込むなんてね」
放たれる魔弾を斬り刻み、彼女の懐に飛び込んだ。剣を大きく振り上げ、老婆に傷を付けた。
傷は、相当深い箇所に直撃したはずだ。
それをもろともせず、蹴り上げられ宙に舞う。
「させるか! 一鉄突き」
フェクトの拳と老婆の魔弾が激突しているのが、見ていなくても分かる。
あそこで飛び上がらずに、魔法攻撃をしてきたのはなんとも昔ながらの魔法使いだと言えるだろう。
「魂撃獣拳!」
ナズナの技名が、森に響き渡る。音で判断するに、フェクトが囮りとなって繰り出された攻撃だろう。
木々がへし折られながら老婆が飛んでいっているのが見えた。
「ぐぅあぁー」
先ほどの老婆とは思えないような叫び声もまた森を響き渡っているのであった。
魔法を発動し、安定を整える。
深呼吸をしつつ、周りの状況をより正確に確認。
「フェクト、ナズナは私が失敗した時ことを踏まえて何もしないで!」
聞こえているかどうかは、運次第と言える。だが私は仲間を信じている。
だからこそ、私は上空から一気に老婆の元へ体を急降下させた。
「剣聖の一撃、とくと体に刻みなさい!」
突き出した剣は、木々ににもたれ掛かっていた老婆にクリティカルに突き刺さる。
悲痛な叫び声が、私の耳に入ってくる。
「あなたが禁忌の魔法を犯してまで一緒に居たかった存在はもういないのよ」
そんな言葉は、老婆には届かないだろう。
それでも、私は言い放ったのだ。私自身、悪魔や死神なんいぇ呼ばれようが気にはしない。
そんなことを言う連中には、言わせておけばいい。
「浄化」
老婆に触れ、私は唱えたのだ。それをするためだけにとても傷つけてしまった。それは私がまだ弱いという証拠だろう。
すぐに魔法を発動すれば良かったものを、自分の欲に私は負けたのだ。自分に弱点があるとすれば、欲だろう。それで足を掬われてしまう。
それが分かっているのに、本当にバカである。そんなことを考えている間に、老婆に取り憑いていた彼女だった者は消えた。
(牽制様、本当にありがとうございます)
(私は当然のことをやったまでだよ。これで二人揃ってようやく逝けるね)
(はい。私が死んでからの彼女を見るのは辛かった)
(じゃああとは頼んだよ)
そうして私たちは、この戦いに終止符を打ったのであった。
「二人とも家を元に戻すわよ」
ある山道に、ポツンと一軒家がありました。もうそこには誰も住んではいないがその家は、暖かな時間が流れている家だったのです。
家の横にはお墓が二人分ありました。名前はフリース、ルースという女性の名前が。
フリースとルース、昔、名前を轟かした女性の魔法使いの名前。
フリースの死後、ルースが何を思って過ごしていたのかは今となっては知る人は、ある三人の冒険者。
フリースとルース、彼女たちは互いを愛し、認め合った仲であったとされている。
反感の強かった、あの時代を生き抜いてきた世代の同性結婚だといえるだろう。
彼女たちがどんな人物であろうと、今の時代の希望だと言える。
(フリース、あなたとまた一緒になれることを信じているわ)
(えぇその時はよろしくね、ルース)
私たちは、箒に乗り込み進むのであった。




