16話 取り調べと酔っぱらい
彼女は、水を頭からかけられ目を覚ました。最初は、何事かと驚いている様子だったが、状況をすぐに理解したのか落ち着いていた。
魔法界支部の部屋の一つ。取り調べ室に私と彼女が机を間に挟んで、睨み合っている。
「剣聖様であってますよね」
「あぁ、名前は?」
私は、マメシアから渡された取り調べマニュアル表というのを見ながら、先ほど捕まえた女と話始めた。
見た目は、私と同じ十二歳から十三歳に見えるが、おそらくこの子は死線を潜り抜けて身につけた強さを持っている。
「あなたに名乗るほどのものではないわ。それより、また戦わない?」
「それもいいが、それより答えてくれ」
「答えないわよ――がああああっ!! 手が、うでっー」
手を物理的に動きにくくするためにつけられていた、手錠が魔法の影響で一気に強く縛り上げているのであろう。
なんとか、座って耐えているが今にも泣き出しそうになっている。
「早く言ったほうが、楽だと思うけど?」
私だって、とっとと解放されたいのだ。
「本当に名乗る名前なんてないんだ! ――があああ」
「マメシア、やりすぎだよ」
そう言って、ようやく治ったのか名無し女は、息が絶え絶えになりながらこっちを睨みつけている。
「あとはマメシアがやりなよ、多分本当に名前がないよ」
そう言うと、ようやく出入り口の扉が開いた。
「剣聖少女様、私こういうことがさ向かないんですよ」
これが始まる前同様な愚痴を言いながら、入ってきた。
「あなたがやってくださいね、私観光があるんで」
名無し女は、途端に青ざめた表情になっていく。
舌打ちをして剣を抜いた。次の瞬間、壁を打ち抜き同じく黒いローブを着た男が入ってくる。
「やぁ皆さんご機嫌よう。私は、ダークウィッチーズ所属の戦闘員です。彼女を返していただきましょう」
ダークウィッチーズ? 瞬時には思い出せなかったが、師匠から聞いたことがある。魔法界を脅かそうとする魔法使い連合。
構成員全員が、魔法使いという超エリート連中であり全員が相当な強さを持っている。
「私はね、旅がしたかっただけなのわかる? よそでやれよ、私を巻き込むじゃねぇー」
木剣で、思いっきり薙ぎ払ったのだ。案の定、男は、建物の三階から地面に落ちたのだ。
「いきなり何するんですか! サイクロン」
地面に落ちた戦闘員は、受け身をとって杖を地面に降りてきたアリアに魔法を放ったのだ。
剣を軽く横に振って、サイクロンとやらを斬り伏せた。
「弱い」
戦闘員は、完全に逃げる気力も立ち向かう気力も全てを失ってしまっていった。
「一振りを入れられる前に確保して!」
「了解!!」
そういって、戦闘員は確保された。後から聞いた話だが、女の方は、殺されると思い顔が青ざめていたと証言したらしい。
私は、ひとまず宿をとるために、その場を離れるのであった。
宿を取り終えた私は、街の散策に出掛けていた。犯人が捕まったことにより街は、少しずつ活気を戻そうとしているのを感じ取る。
「そこのお嬢さん、うちの果物が安いよ」
出店の店主に呼び止められた。種類も豊富で、みずみずしい果物が沢山カゴに入れられているのだ。
そこで、馴染みのある果物を見つけ、思わず声が出てしまう。
「あ! これってプレの実ですよね、美味しいですよね」
「お嬢さんはお目が高い! こちらは今朝、採れた国の特産品だ、百ダンカ銅貨二枚なんだが?」
百ダンカ辺り銅貨二枚か。これは、だいぶお値打ち品だ。
故郷なんか旬でも最低、銅貨四枚で取引されていたからだ。
「じゃあ三ダンカで」
「お嬢さんは可愛いから、二ダンカ追加しておくよ」
私は、とびっきりの笑顔でお礼を言った。おっちゃんは、顔を赤らめていた。
プレの実の皮を剥きながら、口に放り込む。
これがたまらなく甘いのだ。美味しすぎて、ほっぺが落ちそうなレベルだ。
「やっぱ、プレの実は美味しいよな、一人で独占して食べられるの嬉しいすぎる」
周りの人々が私の顔を何度みをしていることに全く気づかず、進んでいく。
その時のことを、またもすっぱ抜かれるまで全く気が付かなかったのだ。
『剣聖少女、とびきりの笑顔でプレの実を食べる!!』
そうして、街を散策していると、太陽が茜色に変わっていくのを空を眺めてわかったのだ。
「あ、そうだよね、今日色々あって散策全然できなかった」
あんなのに巻き込まれた自分が悪いのだぞ、と心の中で言い聞かせ、食事ができるところを探したのだ。
農園風景が、辺りで広がっている。街からだいぶ離れたところまで来てしまっているのだ。
「道ゆくままに歩いてて、気がついたらこんなところまで来てた」
ぼーっと歩いていた自分が悪いのだが、周りの景色は綺麗そのものだ。
自分を怒る気にもなれなかった。
来たみちを戻っていく。夕暮れが美しく、あの時まではよく父親に連れられてこういった道を歩いたものだ。
毎日、飽きもせずいろんなところに行って、泥だけになって遊んだ日々。
あの時の無邪気さは、ないかもしれない。それでも、この気持ちだけは忘れないように噛み締めて歩いていくのであった。
アリアが、街に戻る頃には辺りはすっかり真っ暗になっていた。
「さて何を食べよう」
この国に来てから、プレの実しか食べていない。何か、ガツンと食べたいと考えるが、土地勘がないため全くわからなかった。
これだったら、マメシアに聞いておくんだったと後悔しつつお店を探す。
「違う国に来て、食事で失敗したくないんだよな」
心の声がダダ漏れになりつつ、街中を歩いていく。辺りは街頭のおかげで明るいが、時間は刻一刻と進んでいく。
そうして、ようやくここだと思えるお店を見つけた時には、心の声がダダ漏れになってから、約二十分以上はたった後だったのだ。
「すみません、一人なんですけど」
扉を開け、目の前の光景に一瞬顔が引きつる。
「あ、剣聖少女様じゃありませんか〜、一緒に食べましょうよ」
わざわざ、アルコール分解魔法があって酔わないようになっているのに、それを発動させずにダル絡みしてくるマメシアに遭遇するのであった。
「やっぱ聞かなくてよかったかも」
マメシアの強引な誘いもあり、ご飯を食べることになったのであった。
百グラムをこの世界では。百ダンカと言います。
100g=100ダンカ




