189話 ナズナの新技
ナズナを追いかける形で、ダンジョンに入った私たち。ダンジョンの中は、鉱石のおかげもあり道は見えていた。
中は完全に洞窟の形状をしているダンジョン。
ナズナはもうすでに、ゴブリンの群と戦い始めていた。
「二人とも、ナズナの援護に行くわよ!」
ゴブリンは、久しぶりに現れた冒険者に少し興奮気味である。
それに答えるかのように、私たちは攻撃を繰り出して行くのであった。
「はぁ……結構多かったわね」
「それな、まだ入ってすぐっていうのに、次から次へと湧いてくる感じだったな」
「おそらく長年入っていなかったダンジョンで、魔物のストックが溢れかけていたのでしょう」
「そんなことより、早く続きいこうよ!」
ここに入って二十分足らず。この現時点で、相当数のゴブリンを殺めていた。
それでも、この一層にはまだまだ序の口だと言うしかない。
気配感知に、この一層だけでも数えきれない魔物がいると語りかけて来るようであった。
ここは全部で七階層のダンジョン構成である。一階層から三階層を魔物の胃袋。四階層から六階層を魔族の胃袋。最終階層を、最近付けられた名で魔神の胃袋である。
「ナズナ、そう簡単に進めるのはオススメしないよ」
「わたしたちだったら問題ないよ〜」
「その過信が危ないってことだろ」
ナズナは、少し言いたげな表情をしていたが我慢している様子である。
そうして、私タッチは奥へと足を踏み進めて行く。ダンジョンに入って数時間が経過していた。
「リーランス、そっちの結界を頼む!」
「フェクトもそちら側の結界をお願いします」
二重に張られた結界。そのおかげで、ようやく私たちは休むことが出来た。
まだ一層も攻略出来ていないというのに、この疲労感。相当無理して進んでいるような感覚に私たちは陥っていた。
「アリア、相当進んでいるけどボス部屋はまだか?」
「いやそろそろのはず。マップで見るに相当遠回りして進んできたみたい」
リーランスは何か引っかかることでもあったのか、少し考えごとをしていた。
「何か心配ごとでもある?」
「心配ごとと言うか、私たちここまで誘導されていません?」
リーランスはのことを言ったことを私なりも考えてみた。確かに、そんなことは多々あったと言えるであろう。
それが意図的に仕組まれたもの中のか、それとも偶然になったものかはまだ私には分からない。
「確かに、真っ直ぐ行こうとしたら急に魔物が飛び出てきて何度か、曲がったりなんてことはあったな」
「誘導はほぼ間違いないかもですね」
そんなことを考えながら、私たちは遅めの昼食をとるのであった。
そうして休んだ後、準備を済ませダンジョン探索を始まるのであった。
結界を解いた瞬間、魔物が地面から飛び出してくる。予測出来ておらず、対応が遅れてしまっていた。
「他の出入り口の奴らは、私とフェクトがどうにかします!」
それぞれがそれぞれの役割をこなしつつ、フェクトたちが道を作った場所から抜け出すのであった。
「みんな下がってろ! フレイムキャノン!」
その瞬間、私たちがさっきまでいた場所は完全に跡形もなく消え去った。
私たちは、そうしてこの場所がどういう場所なのか、理解するには充分過ぎる時間であった。
私たちは食材、魔物たちは胃液である。食材を溶かすために群がってきて、私たちを亡き者にするためである。
だからこそ、こういう名前が付けられたのだと理解した。
「みんな、ここからはより厳しくなると思った方がいい」
「おそらく一階層は、数の暴力って感じだな」
私たち全員、ここの知識をほとんど持ち合わせてはいない。だからこそ、無茶苦茶な戦いになるかもしれない。
「こっからは一気に行くわよ! 私について来なさい」
マップを展開し、無理に進んで行くしか道はない。おそらく正解の道へ行こうとすれば妨害があるだろう。
そんなギミックに気づかないなんて、私は本当に馬鹿で愚かである。
自分の頭の悪さに、泣けてしまいそうだ。
そうして私たちは、一気に進んでいくのであった。
「妨害なんかした所で、止まらないわよ!」
グール相手にそんなことを言っても、彼らは理解なんて出来ないだろう。
それでも私は言ってしまうのであった。
「見えてきますわ、ボス部屋!」
気配感知に、うっすらと感じるこの嫌な気配。ボス部屋の前に鎮座している魔物がいる。
「リーランス、信頼をより得たいのなら鎮座する魔物を葬りな」
「私の力見くびれては困ります! サイクロン・バードマン」
ミノタウロスは、大剣振り翳そうとした直後だった。体はガラ空きで、完全にタイミングが良かったと言える。
次の瞬間、ミノタウロスの体は大穴を開け消滅した。その悲鳴は、おそらく一階層に轟くレベルだったと言えるであろう。
「断末魔、相当大きかったね」
「まぁ、元々叫び声上げてたし」
それが断末魔に変わったようなものだと言える。そうして私たちはボス部屋に辿り着くのであった。
「気配感知によると、中に居るのはウンディーネで間違いない。ただ……」
「相当居るな、おそらく入った瞬間蜂の巣だぜ」
「だからフェクトとリーランスは、結界を即座に展開出来るようにね」
「ここはわたしに任せて。新技のお披露目してあげる」
そうして入った瞬間、予想通り一斉に飛んでくる水の光線。結界にとてつもなくヒビが入る。
「次の発射まで時間ねぇぞ!」
「分かってるニャー。魂の一撃喰らうがいいニャー、魂撃・獣拳インパクト」
地面に放たれる衝撃、その瞬間地面に壁に張り付いていたウンディーネは、姿を保てなくなり消滅。
その衝撃は、宙に浮いていても関係なかった。
唯一部屋の中央で宙に浮いていた親玉ですら、衝撃波に耐えきれず消滅するのであった。
「つよ」
思わず口からこぼれ落ちた言葉は、ナズナにとって最高の褒め言葉だった。
そうして、一階層を突破するのであった。




