185話 操りし者
国を経ってはや数週間が経過した。その間、ダンジョンを見つけては攻略していく日々を送っていた。
「昨日のダンジョン、あそこはイマイチだったよね」
「魔物も中途半端な強さだし、全然物足りねぇな」
「わたしもそれ思ってたー! まぁ今までがイレギュラーだったかもだけど」
これに関しては、ナズナの言う通りかもしれない。今まで色々なダンジョンに挑戦してきた私たち。
乗っ取られていたり、魔族がいたりと普通ではあまり考えられないような経験してきた。
そんな中、今回のダンジョン巡りである。物足りなさを感じてもそれは仕方ないことだ。
「早く魔神の胃袋行きたいな」
フェクトがボソッと言う。今私たちが目指しているダンジョン名称の一つである。
そこに辿り着く頃には、すっかりと秋色季節となっている頃だろう。
そんなことを思いつつ、また私たちは箒に乗り旅を始めるのだった。
休憩していた地点から、少し時間が経った頃だ。いい感じに、疲労感を感じているとフェクトの声で地面の方を見た。
「あそこに魔物と人間がいるぞ!」
今にも襲われそうな感じで、魔物と睨み合っているのが上空からでも窺える。
私たちは、顔を見合わせるなり箒を急降下させ地面に降り立った。
降りた場所は、人間と魔物の間である。魔物は、大きく後ろに下がりより威嚇してくる。
「あなたも下がって! ここは私が対処するから」
私は少しキツめな口調で、彼女に言い放った。
剣を取り出し、彼女が前に出てこないように左手で下がるように指示を出す。
「フェクト、ナズナは両端のキメラの対処をお願い」
「「了解!」」
中央にいるキメラ。両端にいるキメラより数段大きく、右眼が引っ掻き傷で閉じてしまっているキメラに照準を合わせる。
「いつでもかかって来い! 返り討ちにしてあげるよ」
三匹のキメラは、少しずつ足を後に下げてきている。そのまま逃げるかと思ったその時だ。
私の後ろから聞こえてくる声に反応してか、キメラが動いたのだった。
「魔物よ、この場から立ち去りなさい。ここは汝らの来るところではありません。私の声に従わず、殺されるならそれもまた運命ですが」
キメラたちは、全速力で逃げていった。後に振り返ってからは、一度もこちらを見ることなく去っていった。
「今のって従わせたの? 場合によっては、ここで処罰もあり得るんだけど」
フェクトとナズナは、彼女の後ろ側に飛び臨戦体勢を強めてしまっている。
私も彼女から離れているあたり、本能的に飛び上がってしまっていたのだろう。
「あら、そんなに敵意を剥き出しになさらなくても良いですのに」
「念の為だよ、万が一のことがあってもダメだからね」
彼女は、不適な笑みを浮かべつつ、魔力に変化が生じていた、
それに伴い、二人の警戒心が一気に跳ね上がるのを感じ取る。
彼女が敵意を向いた瞬間、飛び上がって危害を加えて仕舞うだろう。
「二人とも少しは冷静になって! 彼女の思惑にハマったら意味ないよ」
そんな言葉を投げかけるが、それがどこまで聞いているのかは分からない。
ただ、少しだけでも落ち着いてくれたらありがたいと思っている自分がいる。
「思惑って何かしら? 勝手に妄想で話を進めないでくれる。剣聖様」
私のことを知っていてもおかしくないとは思う。ただ、あまりバレたことがないのは確かである。
おそらく最近の新聞で、私の顔を見ていたのだろう。
だから知っていると思っても問題ない。
「それで、質問には答えて貰えるかしら?」
「魔言のより密度が高く、より精度の高い魔法だよ」
ほぼアウトだ。あの状況、キメラを葬っていた方がよっぽど良かったやつだ。
こんな草原に、彼女一人。
私はどのような行動を取ればいい?
「私は村に帰る所だったよね、だから失礼するよ」
「ちょっと待てよ!」
「あなたが相手しなければならないのは、こっちだと思うけど」
次の瞬間、二人が私に飛びかかってきた。完全にアウトのやつだ。
テレパシーで命令しているのが確定となったのだ。それは完全に処罰を受ける対象である。
私から逃げるために、それをわざわざ使うなんてどういう意味があったのはまだ分からない。
今はただ、仲間たちを正気に戻さないと。
「じゃあね、私が生きていたらまた会いましょう」
「それってどう言う意味?」
名前も分からない彼女が転移し、どこかの村へ行ってしまった。
「それよりも今はこっちだ、本当に簡単に操られてじゃないわよ」
二人とも、獣のような唸り声をあげこちらを睨んでいる。
「剣聖の力、その体にきっちり刻むのね!」
その勝負は、アリアによる蹂躙であった。二人が一瞬で気絶してまうほどには、勝負が早かったのだった。
そうして、無理矢理二人を起こしその場に正座させる。
「二人とも言うことがあるんじゃない?」
「「この度はご迷惑をお掛けし申し訳ありませんでした!!」」
二人は地面にめり込むような形で、土下座を披露するのであった。
「村を目指すわよ、彼女を追うわ」
あの発言、どうにも引っかかる。自分の死期を感じ取っているようなものだ。
そういった文言は、大抵普通言わない。なのに彼女は言った、胸騒ぎが収まる気配は感じられない。
「二人とも箒に早く乗って! ぐずぐずしているなら置いていくわよ」
すぐさまマップを開き、辺り周辺を調べる。箒という乗り物があるとはいえ、そう遠くには行かないはずだ。
そうして村を見つけ、その方角へと進路を変更するのであった。
……
どこにでもある小さな村。そこではある準備が行われていた。
「ラーシャ、早くこっちへ来い! 本当に手間をかけさせやがって」
「引っ張らないでも行くわよ、魔法が使えない器具なんてしなくても、転移は使ったんだし逃げないわよ」
「お前の魔言封じじゃ! この馬鹿者が」
杖で頭を殴られる。痛い、痛いと思うが誰も助けになんかは来ない。
私を魔女だなんだの言いやがって。たかかが、魔法が人より使えるぐらいで怯えあがって。
「クソだな、お前らも私もね! ほんと腐ってるよ」
処刑する前から、ボコボコにしてほんとバカみたい。私の来世は、どうなるのか楽しみだな。




