184話 アリアの技
荒野でぶつかり合う二人の拳。魔法使い、剣聖なんて今は何も関係ない。
ただ二人の親友同士がどちらが勝つか、ひたすら攻撃を繰り出していた。
一切防御なんかせず、思いのまま語り合った。お互いの顔が、とてつもなく輝いていた。
「流石は旅人として、旅を続けてるだけはあるわね」
イデリアは、相当体力を消耗している。私の一撃を、何度も喰らってきた。
その影響もあり、イデリアはもう限界に近かった。
「結界外してるのはいいけど、そんなボロボロ怒られないの?」
「別に構わないわよ」
イデリアの拳は、明らかに軽くなっている。軽く止め、そのままカウンターに移れるほどだ。
殴る蹴るの決まったような攻撃を繰り出しつつ、私の我慢も限界に達していた。
イデリアに言ってしまうのだった。
「魔法使いらしく魔法を使え! 私はあなたとそこまで殴り合いする気はないわよ」
それを聞いた途端、イデリアの魔力が跳ね上がる。この跳ね上がり方、私は知っている。
剣を構え、ただその時を待つ。
「我が力、我が魔力、聖なる輝きを持つ一撃よ、魔力を紡ぎ光を放て! セレスティアル・スターライト」
上空に一片の生成されし星の輝き。その密度、威力、全てが規格外を誇る光魔法の最上位の一つ。
全身が震え上がるような感覚、それをただの組み手で放つとは、ほんと最高だ。
「その思い、答えないとだよね」
イデリアが私を見ているのが分かる。その顔は「さぁ、破壊できるならやって見なさい」と言ってくるようだ。
全身の魔力を足に込め、地面を蹴り上げ一気に上空に飛び上がる。
「本当は技なんて使うつもりなかったんだけどな、私もまだまだね」
剣を構え、魔法だけを見る。ただ破壊することだけを考えろ。それは私しか出来ないこと、だったらやれるわよね、剣聖少女アリア! あの時の自分を超えなさい!
「神龍牙・ソードインパクト!」
放たれた一撃は、この世界が感じたことがない一撃。最上位の一つである魔法が、容易く儚げに散っていくのであった。
……
あのアリアが技を放った!? その衝撃は、計り知れないほどだ。
最上位の魔法の一つ、歴代最強の剣聖が技を放ったのだ。散って当然だ。それにあのアリアの姿、まるで神々の天使を見ているかのよう。
純白の白い翼、神々にも匹敵する圧倒的強者、それほどまでに彼女は美しかった。
……
「アリアその姿似合ってるよ」
「ありがとう! 神々の翼やって見たけど、やって正解だったね」
神々の翼―浮遊魔法の一種。ただ浮遊しているのを分かりやすく表すための具現化の一種。
そんなことをしなくても浮遊は可能だが、やっぱりあった方がかっこいいとかそんな感じで使う人は使う。
そうして私は、地面に降り立った。すぐさまある気配を感じ取る。
それはイデリアも気がついてるようだ。
「テメェら何やってんだ!」
後一歩、木剣を出すのを遅れていたら今頃私は、地面にめり込んでいただろう。
それぐらいの勢いで、フェクトが怒鳴り込んで来たのだ。
「やぁフェクト、それにナズナどうしたんだい?」
「どうしたんだいだと? テメェら何やったのか分かってるだろうな」
完全に把握していたのだろう。それで戦いが終わったのを見計らって、飛んできたのだろう。
それにしても、フェクトはキレまくっている。今すぐにでも、二回戦が始まりそうだ。
「まぁ落ち着きなよ! 大好きなパンがあるよ」
私はどうやら選択肢を間違ったらしい。思いっきり蹴り飛ばされたのだった。
「イデリア! テメェも同罪だぞ、普通に詠唱での光魔法発動してんだ流石にやり過ぎだ!」
「ご、ごめんなさい。ちょっと気分が乗りすぎたっていうかえーと」
イデリアの声を遮るかのように、フェクトが地面に大きなクレーターを作ったのだ。
「まぁフェクト落ち着くニャー。二人とも反省はするだろうし、そこまで怒ることはないと思うニャー」
「ナズナは甘すぎだ、実際アリアは技を使った、その衝撃は、全世界に広がっているだぞ」
フェクトの怒りが治ることはなかった。その日一日、ずっと機嫌が悪かった。
それにその後、対応に追われて遊び行くなんていうことは出来なかった。
そうして、緊急時以外イデリアとの接触は冬まで禁止となるのであったとさ。
「じゃあそろそろ行きますか!」……
「迷惑料としてお金払ったんだろ? またダンジョンにでも行くか」
「わたしダンジョン行きたい! でもあるかどうか分からないけどねー」
そうしてこの国とも、おさらばするのであった。箒に乗り込み、私たちは今日も進んでいく。
……
ダークウィッチーズと並び、勢力の拡大を続ける組織ウェザー、今宵も何やら話し合いをしている様子。
「試験的にダンジョンにて活動をする。炎、雷、氷の三名の結果を踏まえてやることになった」
「そのダンジョン、私が行きましょう。風の厄災を再現しますわ」
「リーランス、魔神の胃袋でお願いするよ」
これまた運命なのか、近い未来で剣聖と一戦交えるとはこの時誰一人思っていなかったであろう。だが私は知っていた。なぜならもう時期死ぬからだ。
だが、それを誰かに伝えることは出来そうにない。魔法界からのスパイともうバレてしまっているし、今にも終わりそうな一時を、ただ眺めるしか出来なかった。
……
魔神の胃袋―それはある最終階層で言われている名称である。そのダンジョンでは、前半の層を魔物の胃袋、中盤の魔族の胃袋と言われている。
それにちなんで、前半は魔物が徘徊するいつものダンジョン。後半は、魔族が徘徊しているからである。
誰一人としてクリアが出来ず、あのアリアの師匠でさえ、最後の層である、ある謎に阻まれクリア出来なかった。
最近では、より凶暴とした魔物や魔族が徘徊してるとして、誰もそこには近づかない。
「私たちは、とりあえずダンジョン目指すわよ」
「「ヘーイ」」
アリアは実際技を使わなくても、突破出来た。
気分が乗ってやらかした。
神龍牙・ソードインパクトは、ロードを参考に編み出した技になります。
ただ、アリアはこれを使うことはほぼこれからない。




