177話 グリフォンと剣聖
森の奥深くへとやってきた。森の中は、とても静かでグリフォンがいるとは思えない状況だった。
「グリフォンに未だ動きなし」
そう言ってみたものの、おそらく私たちはとっくに気づかれていると思っていいだろう。
それでも動く気配はない。この状況で考えられるのんは、主に二つ。
一つ目は、怪我がひどく動けない状況。
二つ目は、私たちを待ち構えている状況である。
おそらくこの状況で正解の選択肢は、後者であろう。グリフォンは、強い存在である。
そんな存在が、怪我で動けないなんて考えづらい。
私は、三人を抜き去りその答えを知るべく三人を置いて行った。
「見えた、堂々と待ち構えてる」
実際に見て分かる。彼は怪我していても関係ない。本来の強さを保っている。
気配が弱かったのは、おそらくここに冒険者を呼び寄せるため。
ほとんどの人が感じたことのない気配。そんな気配が森にあるならば、冒険者は我先にと行くであろう。
それが分かっていたからこそ、こうして目の前にいる。
「お主強いな」
私の足は止まった。辺りをキョロキョロと見渡すが、私たち以外には誰もいない。
声を出したのは、目の前にいるグリフォン。そう確信するのに時間は掛からなかった。
「人語喋れるのか、頭のいい魔物みたいなものだしな」
「お主と戦うなら、この姿では少々不便だな」
突然目の前が光に包まれる。そうして目を開けると、予想出来てはいたが、なんとも言えない表情で彼を見つめていた。
「お主どうかねこの姿? 逞しい体だろ」
目の前には、グリフォンが人型となった姿が目の前にあった。
見た感じ、二十代男性、上半身裸の逞しい肉体。そして背中には、立派な鷹の羽が二本揃っている。
斬ったら高く売れそうである。
「今邪な考えをしていなかったか! 羽はすぐに消滅するぞ」
なんだーがっかりだ。そんな思いは、露骨に顔に出した。
「やっぱり羽を見てたのか、そんなことよりこの肉体を見ろ!」
「どうでもいいから、そろそろ殺ろうよ」
その言葉を言い放った瞬間、魔法が放たれたのだ。先ほどまで立っていた場所に、雷が落ちてくる。
運よく避けられたがアイツ、なんの躊躇もなく放ってきやがった。
それが開戦の合図となったのだ。
「ウィンドランチャー」
ウィンドランチャー―高出力の風魔法を高出力の発射によって、発動する魔法。
その威力は、サイクロンの威力を吹き飛ばすだけの力を持っている。
「それぐらいの魔法、私には効かない!」
振りかざした一撃は、ウィンドランチャーを消し去った。これぐらいだったら、私は大丈夫だ。
「やっぱ規格外ってこういうことを言うだな、剣一本で斬り開くというのか。己の道を」
「何言ってんのさ、ビビってるの? 面白くならないでしょ、早く攻撃してきなよ」
顔つきが変わった。それでこそ、私が戦う相手に相応しい。
一気に魔力の高まりを感じる。
来る!
次の瞬間、魔弾が放たれる。それは花火のように、一定数伸びた後、一気に弾け飛んだ。
そんなことにさえ、私は気づかなかった。一段階目を避けただけで、二段階目の攻撃に体に熱い熱を押し当てられたのだ。
「っっグゥッ……これぐらい行ける」
体のあちこちが熱い。痛い、涙が出てきそうだ。それでも私は、刃を彼に押し当てなきゃ行けない。
「それぐらいでは怯まないというわけか、どうりで強いはずだ」
地面に彼の魔力を感じる。次の魔法は草魔法だろう。
「気づいて飛んだか、だがなそれぐらい想定済みだ」
私は剣を落とした。そのまま手を叩いた。
一瞬何が起こったのか分からないといった表情をしている。
私は地面から剣を拾い上げ、一気に駆け出す。
「私は剣聖だ、これぐらいで調子に乗るなー!!」
剣は、自慢の肉体に突き刺さった。耐えきれず血を吐き出す彼。
「はあぁぁぁっ!!」
そのまま斬り上げる。悲痛な叫び声と共に、宙に舞う彼。私はそのまま、飛び上がり彼の心臓に剣を突き立てたのであった。
「ッチ……心臓を移動させたか」
「それが分かった所でどうにもならんぞ! 衝撃」
彼の手は私の体に触れていた。次の瞬間、体は宙を舞い、青い空が木々の間から見えた。
木々を破壊しながら、吹き飛ばされる私。止まる頃には、木々がこちらに倒れ込もうとしていた。
「魔武式・一鉄突き」
倒れ込もうとした木々は、フェクトの一撃によって跡形も残らず消滅した。
朧げに見えるフェクトは、肩で息をしている。相当無理をして飛んできたのが分かる。
そうして私の方に振り返る。手を差し伸べながら声を掛けてきたのだ。
「大丈夫か? あんまり無茶すんじゃねぇぞ」
「ありがとう、それより彼は?」
フェクトは、不思議そうな顔で私を見る。私は瞬時に理解した。
私だけが心の中だけで呼んでいる名前を、言っても分かるはずはない。
「えーと、グリフォンだよ」
慌てて言い直す。
「グリフォンは居ないけど、彼ってあそこで倒れている奴か?」
フェクトの指さす方に目を向ける。そこには、彼が倒れてたままだ。
私の剣が、地面に無造作に倒れている。そんな光景を見て、嫌な予感が頭に過った。
全力で走った、そうして彼の元に辿り着くと、そこには彼の亡骸が灰になって風に吹かれなくなろうとしていた。
「無理にあんなことやるからだよ」
私の体に衝撃を与えた直後、手に持っていた剣は、彼の体を抉り斬っていた。
それが致命傷になったのだろう。
「もっと戦いたかったよ」
そうして、グリフォンとの戦いが終わった。
「二人とも大丈夫だった?」
「今終わったとこ。二人は遅かったね」
「あのね、魔物が襲ってきたから返り討ちにしてたー」
全員が一息つき座っていると、一本のテレパシーが飛んできた。
(アリア今どこいらにいる?)
その声は、イデリアだった。慌てた様子もないし、どうしたのだろうと不思議に思ってしまう。
(今大きい森林地帯、グリフォンとさっきまで戦ってた)
(えグリフォン!? 何それ、それよりインスの目撃情報があったの)
私たちは、その情報の真意を確かめるため近くの国に向かうのであった。




