174話 魔神フェクトの油断
完全に忘れてました、遅くなり申し訳ありませんでした!
いつも通りの朝、いつも通りではない日常、それは突然、目の前に現れたのだった。
「アリア、俺たち行くわ! 何かあったら、いつでも連絡してくれ」
慌ただしい一日の幕開けである。
ことの始まりは、ウェザーが起こした事件である。マメシアの住んでいる国を氷魔法が襲ったのだ。
国全体が猛吹雪、いつ死者が出てもおかしくない状況を作り出す。
幸いマメシアたちは無事だとは、テレパシーで聞いていた。
今の私には無事にことが終わるのを待つほかなかった。それだけの代償が私には課せられていたから。
……
魔法界の構成員の協力があって、ヒゲキにたどり着いた。
門の外では、かろうじて逃げ出せた住民たちが心配そうな表情を浮かべていた。
その中に、アリアの友達は居ない。
「ナズナ、今回相当時間が掛かるかもしれないな」
「何らしくないこと抜かしてんの、しっかりしてニャー」
ナズナに背中を強く叩かれたが、自信はなかった。その原因は、アリアに全て任せてしまっていたからだ。
原因が分かった所で、だからどうしたって感じではあるのだが、今は目の前のことに集中すべきだと切り替える。
「フェクト、今回ウェザーとは俺は初戦闘になる、分かるよな」
「分かってます! 俺がインスを倒して見せます」
「ちげーよ、ナズナも一緒にだよ」
間違った回答をした俺は、どことなく恥ずかしくなる。
「なんで? フェクト一人が戦った方がよくない?」
「強くなるためだよ、アリアは二人にはもっと強くなってほしいと思っている。だからこそだよ」
それを言われて俺は納得した。アリアが俺たちに求めていたのを忘れていた気がした。
「お三方、門の氷除去出来ました! 長くは持ちません、一気に突入のほどお願いします!」
魔力が無くなった魔法使いの声が聞こえて、すぐに走り出した。
相当無茶をしていたのだろう。
青ざめた顔である。
「助かった! ありがとうゆっくり休んでてくれ!」
その言葉を聞いてか、倒れる間際笑っていた。そうして、俺たちは中へと侵入する。
「アイスニードル」
「魔武式・砲拳」
飛ぶ打撃とでも言っておこうか、そんな武術だ。
「入って早々、お出迎えするなんてよっぽど暇だったのか?」
「特にそんなことはない。ただ、入ってくるみたいだったから、挨拶代わりに撃っただけさ」
「そうかよ、でも後で倒れてる連中はどう説明するんだ?」
どう考えても、決死の作戦に出ていたのが分かる。見た感じ、魔法使い、魔術師、冒険者なんかが倒れている。
その数、ざっと五十名ちょっとだ。
精鋭を集めましたって感じだが、歯が立たなかったのだろう。
「挑んできたから、返り討ちにしただけだよ」
開戦は唐突だった。インスが地面に叩きつけられたことが原因である。
いつまでも話している俺たちに飽きたのだろう。ナズナの強烈な一撃がインスにクリティカルする。
「リングベルト、任せたよ」
気がついた時には、リングベルトはインスの後に倒れていた冒険者たちを救出している。
「アイスマウンテン」
倒れながらも魔法を発動。
地面の氷から突き出してくる尖った山。空中にいるナズナに一直線である。
剣を取り出し、ナズナの前に飛び出し剣技を繰り出した。
「魔双剣・炎」
激突する両者の魔法。それは一切妥協なく、互いを表しているかのような魔法であった。
だがそんな時間は長くは続かない、崩れ落ちていくインスの魔法。
「ナズナ一撃お見舞いしてやれー」
ナズナの一撃は、インスの体が砕けちる。ただそれは、氷が砕けただけであった。
「もう少し周りを見るんだな! アイスドリル」
背中に触れられた冷たい手。そこから放たれる魔法は、俺の体を貫くのに時間は掛からなかった。
一瞬の油断が、今までの全てを怖す。それを初めて理解する。
膝から崩れ落ちる。立って耐えることなく、ひどく冷たい力によって体は限界を迎えようとしていた。
頭で何度呼び掛けても、言うことを聞かない体。
「フェクト、しっかりしなさい! 私たちで倒すんでしょ!」
ナズナの声が微かに聞こえる。そっちを向こうとするが、それも出来なさそうだ。
すまない、アリア。主人との旅ももう終わりだ。
……
「何倒れようとしてんのさ、そんな相手に終わらないでしょう」
次の瞬間、インスは宙を舞う。そのままナズナの追撃により、インスは倒れたのだ。
私は、フェクトを抱き抱え国を出た。今にも死にそうな我が使い魔。
そんなフェクトも私は美しいと思っている。
「インスは、本当に私と戦いたかっただね」
私を戦場に引っ張り出すなら、手っ取り早い方法はこれだ。
だからこそ彼は、私にテレパシーを送ってきた。
腹立たしいが、これも全て私の招いた結果だ。自分の管理を最もちゃんとすべきだった。
それなのに、私はそれを怠った。
だからこそ、私は自分で自分を殺めたくなってしまう。
「アリア……怖い顔してるぞ、笑顔でいろよ」
フェクトの声は、とてもか細くいつ糸が切れてもおかしくなかった。
フェクトは、自分が死ぬというのを自覚している。
「フェクト、何諦めてるの? ナズナ転移して」
「ヘーイ」
そうして、私はあの場所へと向かう。フェクトがやってくれたように、私は人目を気にせず走った。
街を爆走した。
「お待ちしておりました、どうぞこちらへ」
案内されるがまま、私は浴場に向かう。私にフェクトがやってくれたように、同じことをするのだった。
ただ一つ違うといえば、ポーションを入れてないことだ。
「フェクト安心して、私があなたを死なせないから」
私の魔力が上昇する。おそらくこれをやってしまえば、私自身もタダでは済まない。
だが、それがなんだって言うんだ。
「我が魔力、我が力に応えたまえ。主従契約の名に従い、我が使い魔フェクトに力を与えよ」
右手から絞り出した一滴の魔力。その魔力量は、私の魔力量そのものを濃縮させたもの。
フェクトの顔に当たる。
次の瞬間、死にかけていたフェクトは力を吹き返す。体は段々と、元に戻っていく。
そうして、私は湯船に沈むのだった。
フェクトの体について。
魔神には核が存在します。自由に動かすことは可能だが、今回の場合、フェクト自身の油断が招いた結果になります。
だからこそ、人間と同じ位置に設置していたことで貫かれました。
フェクトは、魔神の意地を見せ消滅のタイミングをずらした。
それは全て、アリアの言葉があったため。
アリアがその場に居なければ、ナズナの声が微かに聞こえた直後、灰になって消滅していた。




