169話 ナズナの成長
ミニシアの言葉に誰も何も言えなかった。誰一人動かず、全員が、ジロジロと互いの顔を見てしまう状況が続いてしまう。
そんな状況に嫌気がさしてしまったのだろう。ミニシアは、再度言ったのだった。
椅子の倒れる音が部屋に響く。
「そんなこと出来るわけないだろ! 君は被害者側だ!」
その音の正体は、第五王子だ。椅子から勢いよく立ち、ミニシアに話しかけていた。だが、この状況である。ミニシア自身も自分の疑いが晴れるまでは一歩も引かない。
ミニシアは、そんな女性なのだ。その予想は簡単に当たることとなる。ミニシアは、第五王子の話に一切耳を貸そうとはしなかった。
ただ私を見つめて、訴えかけてくるようだ。
「ミニシアが望んでいることだ、捕縛する」
「何を言っているんだアリア! 君何を口走っているのか分かっているのか」
第五王子は、返答次第ではこちらに向かってきそうな勢いである。
だが、だからと言ってこのままでいるわけにもいかない。
「あぁ分かってる、だからこそだよ」
案の定、円卓の机を飛び越えこちらへ一直線に向かってくる。
魔力の上昇を感じる。怒りと云う感情に身を任せているのが分かる。
「雪鳥の一撃」
氷魔法の一種。その名の通り、雪で作られた鳥である。その威力は、民家の家を一撃で全壊させるレベルである。
だが幾ら強い魔法であろうと、相殺してしまえば怖くないのだ。
手を叩いたのだ。
魔法で作られた鳥は無惨にも、押しつぶされるような形で私に届く前に消えて無くなった。
魔法では無意味だと分かったのだろう、私相手に殴りかかってきたのだ。
殴られそうになる瞬間、どこからか指のなる音が聞こえた。
先ほどまで殴り掛かろうとした第五王子は、吹き飛ばされ壁に全身をぶつけていた。
「なんであなたが居るわけエルザ?」
私の真横には、エルザが立っていた。皆驚いた表情をエルザに向けていた。
「殴られそうになってたじゃん、だから助けただけだって〜。そんな顔しないでよアリアちゃん」
「なんか用があるから来たんでしょ?」
私は、驚きもしなかったので淡々と進めていく。エルザもそれに同感なのか、すぐに話始めた。
「あの子を捕縛するかってことでしょう? それはしなくて大丈夫だよー」
どうしてそれを知っているかは聞かないでおくが、おそらく考えていることを読む魔法でも使ったのだろう。
「その魔法使いたちは関係無かったってこと?」
「いやそれは違うんだよな、魔神王の瘴気に当てられて屍同然だったよー」
それがどういう意味か分かるっていう顔でこちらを見つめてくる。
エルザは机を飛び越え、中心までゆっくりと歩いていく。
「今回は魔神王が起こしたことだから、まだ狙われるよそこの君」
ミニシアの方を見て、そう言ったのだ。それはどこか楽しそうにいうエルザには呆れてしまう。
そうして話し合いは、終了した。私たちはこれ以上居ても仕方ないと感じたため、戻ることにしたのだ。
先ほどの言動に対してフェクトは文句を言ってきたが、私はそれを聞き流した。
ナズナはどこか考え事をしているようだ。ナズナには似合っていない、深刻そうな顔である。
その理由を聞こうとも考えたが、自分から言い出さないのならこちらから聞かなくて良いだろう。
だが、今にも覚悟を決めそうである。
「アリア! わたしと戦ってくれニャー」
「良いよ、それで悩みが解決するなら」
そうして、国を出て少し離れた場所に来た。そうして、私とナズナの勝負が始まったのだ。
ナズナの戦い方は、完全に近接戦闘向けである。そのためすぐに距離を詰めてきた。
スピードを生かした戦闘を得意とし、それに合わせた格闘術は圧巻の強さを誇る。
「ファーリー武術の強さ、その身で思い知るがいいニャー」
持っていた剣がない、いや違う簡単に剣を吹き飛ばれた。思わず口から零れ落ちる言葉。
「マジか……」
剣がない以上私は、武術に切り替えるほかない。だが、ナズナの攻撃は、それを嘲笑うかのように詰めた攻撃をしてきたのだ。
私の懐に潜り込み、その一撃が急所にクリティカルに当たっていく。
私は思わず、後に飛んだ。剣をとり息を整える。
「これではアイツに勝てない」
ナズナはそんなことを呟いていた。私は痛みのせいか、動き出せない。
それでも一歩踏み出すが、それを待ち望んでいたかのように、鳩尾に強く拳が撃ち込まれた。
溢れ出す血、そのまま繰り出される足技に私は対処出来ず地面に転がったのだ。
地面に体を強くぶつけ、立つことも精一杯である。
「魔神王のことを考えているの?」
「あの時何も出来なかった、もっと強くならなければ、アリアの隣に立ってられない」
そんなことない。
そんな言葉が、頭に過ぎる。それを言ったて今のナズナにはなんの効果もない。
それに今のナズナには、そんな言葉など求められてはいない。
「わたしは自信を持ってアリアと対等に生きて行きたいの、だからあんなやつに負けたくない」
なんだろうこの感覚。ナズナに何か起こりそうである。それを私は受け止める!
両腕に、獣人族のマークが甲に浮かび上がる。
次の瞬間、ナズナは成長を遂げたのだ。
「っぶねー、ナズナ! 力に飲み込まれるな!」
起き上がれずにいた体を、蹴り上げようとしていた。先ほどまで、あんなにも離れていたのに。
それを瞬時に転がって避けた自分を褒めたい限りだ。だがそんな時間がないことぐらい自分が一番分かっている。
今大事なのは、ナズナと語り合い受け止めることである。
すぐに立ち上がり、後に下がる。それをすかさず追ってくるナズナ。
ナズナは、拳を構えいつでも攻撃可能といったところである。
剣を構え、迎え撃ったのだ。
力は互角。競り合って、私はそのまま突き出した。ナズナの反射神経は、時に私を遥に超える。
突き出した剣を避け、するりと懐に入ってくる。突然大きな音に驚き、思考が停止したのであった。




