166話 天狗になりプライドを捨てられなかった魔族
五章開幕です。本当ならこの五十万文字で完結まで行こうと思っていましたが、おそらく伸びます。
今後とも楽しんでいってください!
「おい急にどうしたんだよ! アリア、何があった?」
肩をガシッと掴まれた衝撃で我に返る。心臓の音が周りにまで聞こえてしまいそうな勢いで鳴っている。
呼吸は浅く、誰が見ても何かあったと確信させてしまいそうだ。
「ちょっとね、行かなきゃ行けないんだ」
「一回落ち着けって、どこに向かうんだ!」
ここにフェクトが居なければ、私はナズナを置いて転移してしまったことであろう。
「ミニシアから救援だ」
「何一人で行こうとしてんだよ、俺たちも行くよ」
「そうだよアリア、なんでいつも一人で突っ走ろうとするかな」
そんなことを言われつつ、私は転移した。門の外からでも分かる。
悲鳴があちこちから聞こえてきている。
それにこの気配は、魔族だ。それも呼ばれた魔族なんかではない。
侵入してきた魔族である。
それに結界が施されていない、理由は分からないが状況は芳しくないように思える。
「二人とも暴れていいからね」
すぐさま二人は、門の中に行ってしまう。それを追いかける形で、私も門を潜ったのだ。
辺りは、火災が起きて人々はパニック状態に陥っている。
それに魔族が暴れているのが分かる。
「ハリケーンバースト!」
ものすごい風と共に、魔族が宙を舞って消滅していく。
「国民、ミニシア様には近づけさせるな! 我々は、この国を守る者だ! 意地を見せろ!!」
そこに居たのは、ミニシアの付人であり魔剣士のシューミンである。
「シューミン、君がこんな所に居て大丈夫なの?」
シューミンは、一瞬思考停止したかのように止まる。
夢か現実か分からなくなったような表情で、こちらを凝視する。
「アリア! どうしてここに? 来てくれるのはありがたいけどさ」
「ミニシアの救援を受け取ってね」
全てを察するように、シューミンはニヤリと笑う。それになんだか、元気が湧いてくるのがこっちにまで伝わってくる。
「一体何があったの?」
「結界の張り替え作業中、狙われたんです」
それにしては、やけに計画的な作戦だと思える。おそらくシューミンが離れたのを分かっていて、行動しているような気がする。
「ベルの使用形跡は?」
「ありません。ですが魔族たちは奇妙な行動していました、それが小さくなって侵入してきたのです」
小さくなって侵入、それはもう人為的に起こっているか、魔族がわざわざその魔法を使って侵入したかの二択だ。
どちらにせよ、ここまでの被害は珍しい事例なのは間違いない。
「ミニシアは、彼が守ってくれてるの?」
「はい、彼は相当強くなりましたよ。ミニシア様のことお願いします」
そう言い残してシューミンは、街中を駆けて行った。託された以上、私もやるべきことをやらなければ。
それにしてもひどい有様だ、人々の暮らしを意図も容易く壊すなど、あってはならないことだ。
剣を握る手にも、力がより入る。
力み過ぎているかもだが、今気にすることはそこではない。
「魔族共! こっから先は、剣聖アリアの一本道だ!」
剣聖に反応したのか、我先に突っ込んでくる魔族を斬り伏せる。
そうして斬りながら進むこと十分たらず。
「ようやく着いたか」
領主や貴族が住む住居スペースには、血を大量に流した兵士たちの亡骸が沢山あった。
相当暴れたのだろう、見るも無惨な姿で亡くなっている兵士たちもその中にもはある。
その中には、高そうな服を来たおっさん、おばさん、二人の娘だろうか、その死体も発見できる。
「ミニシア、アルグス!」
二人の立っている姿が見えた。私は途端に走り出す。二人の前に居るのは、魔族だからだ。
今にも、殺してしまいそうな勢いで目の前にいたのだ。
走り出すほかない。
「二人とも、もう大丈夫だからね!」
大剣を振りざした瞬間。力一杯弾いたのだ。その瞬間、魔族は後に少し下がる。
「お前は何者だ! お前が邪魔していい存在じゃない」
なんという威圧感だ。肌にビシビシと伝わってくる。
「私こそ歴代最強の剣聖アリア! お前が最期に相手をする名前だ」
私は、名乗り終えた瞬間魔族に斬りかかる。驚きのあまり体勢が崩れるのを確認する。
勝機と感じた私は、一気に剣を振りかざす。
その一撃は、大剣なんかよりも重く鋭いものだ。その証拠に、魔族の体からは血が流れている。
「デカい図体してるんだから、もっと鍛えておけよ」
「ふざけたことを!」
力任せの一撃は、私には通用しない。それが通用するのは、精々弱い者たちだ。
「お前、少しは頭使った方がいいわよ。相手が違うんだから」
それでも力任せの一撃しか飛んでこない。単細胞すぎるよ、この魔族。
確かに力の任せの一撃は利点もある。
ただ、それは相手を見なければならない。私なんかが相手だと、躱されるか、弾かれるか、カウンターを決めたりなど対処はいくらでもある。
それに大きさも原因の一つであろう。自分たちよりも大きくて、大剣を簡単に振り回しているのを見て、心のどこかで先に諦めがあったのであろう。
「そろそろめんどくさいし、終わらすよ」
「はぁ……はぁ……なんでだ今までは行けたのに」
君の敗因は、天狗になり過ぎたことだ。
その長い鼻を、誰もへし折ってはくれなかったのであろう。
可哀想なことだ。
「安らかに眠れ」
首を胴体から斬り離し、彼の生涯は大量の屍の上で成り立っていた。
それが魔族というものだ。
最期は、天狗になり過ぎてプライドを捨てられない哀れな存在へと成り果てたが、それは今日で終わった。
「剣聖の剣はいかがだったかな、巨体な魔族さん」
そうして振り返ると、ミニシアが飛びかかってきたのだ。
「怖かったよアリア〜。助けに来てくれてありがとう」
「剣聖様、この度はありがとうございました」
「二人とも、あんまり無茶はダメだよ。アルグス、その怪我相当無茶したんじゃない?」
アルグスは咄嗟に傷を手で隠す。
先ほどの巨体の魔族は、所々ダメージが大きそうな箇所があった。
おそらくやったのはアルグスだろう。
アルグスの持っている剣には、魔族の血が付着している。
「まだ終わってないよ、なんなら今からが本番だよ」




