164話 エルザは大食い
エルザは勢いよく、ご飯をかきこんで食べていく。その速さはまるで、大食い大会にでも出ているのかと言わんばかりの早さである。
「そんな早く食べなくても、ご飯は逃げないわよ」
そんなことを言ってみるが、聞こえていないことは明白である。
なぜなら、ご飯に集中し過ぎて他のおかずには目もくれないからだ。
「おいこれ、俺たち食べておいて良かったな」
「そうね、ここまで食べるなんて思いもしなかったわ」
「でもさ、いい食べっぷりで見てて最高じゃん」
ナズナは、呑気なことを言っているが元々そのご飯は、いつも三食ご飯だった場合、二日で一升を軽く平らげてしまっているのだ。
それをこのエルザは、一人で七合のお米を平げた。
それがどう言う意味が、わかっていないようだ。
「明日から一週間、米は食べられないね」
「俺はそれでいいけどさ、ナズナはパンも好きだけど強いて言うならご飯派だろ」
「アリアよ、食費のことなら心配するではない。私を誰だと思っている!」
かっこいいことを言っているつもりだろうが、口の周りには、沢山のお米を付けた状態で言われても、説得力に掛けると言うものだ。
「期待せずに待っておくよ、それよりやっぱり聞きたいことがあるんだけど?」
「反イデリア派のことであろう?」
は!? コイツ何言ってんの? そんな組織があったことやっぱり知ってたの。それで何もせず、見なかったことにして、イデリアと連んでいたの?
「勝手に私の名前を使ってさ、ほんとマジでありえないっていうか、ちょー最悪なんだけど」
ご飯を食べたからか、口調が完全に変わっている。それはツッコミを入れた方がいいんだろうか、悩ましいが触れないようにしよう。
そう固く思ったのであった。
「反イデリア派ってマジ何? 私さ、イデリアから聞くまではそんなこと微塵も知らなかったわけ、イデリアも困惑してたんだよね」
「それを導いているエルフって分かるの? なんか、この前会った長が入るって表明してたけど」
エルザは、少し黙ったが何か思い出したかのように話し始めた。
「その件なら心配ないよ、そこの長は解任させたし」
「権力強!?」
思わずナズナが叫んでしまう。私もそれには同意見だ。フェクトの顔をチラッと見ると、コイツならやりかねないなって思っていそうな顔で見ていた。
「アイツのびっくりしてた顔、ほんと面白かったわ。イデリアちゃんの警護は私に任せておいて」
「こっちとしてもありがたいな」
フェクトの言った言葉に反応するかのように、エルザは手を差し出してきた。
フェクトと熱い握手を交わし、なんか仲良くなっていた。
「アリアちゃん、そっちは旅を楽しんで! 何かあったら要請するし」
そうして夜の会食は幕を閉じた。朝目覚めると、そこにエルザは居なかった。
ただ、エルザが眠っていた所に一枚の紙と大きな袋が置かれていた。
『何も言わずに行ってしまうのをお許しください。剣聖少女アリア様それにお仲間の方々、昨日はとても楽しかった。
またどこかで会えたなら、我に声を掛けてほしい』
「当たり前じゃん、あんな楽しい戦い私がまだしたりないことぐらい見抜いていたくせに」
私はテントから出る。まだ二人は眠っているようで寝息が静かに聞こえてくる。
まだ朝日が出たばかり、今日はちゃんとご飯を作るかな。
そんなことを思いつつ、料理を始めるのだった。
……
「良き友人を持ったねイデリアちゃん。やっぱりアリアちゃんは強かったよ」
「そうでしょう〜、アリアも楽しんでいたと思うわ」
ここは魔法界のイデリアのお部屋。そこには、エルザが遊びに訪れていた。
ただ、会いたかったから訪れていたのであれば良いのだが、そう上手く行かないのがこの世の中である。
「それにしても、エルザ自ら私の警護に名乗り出るなんて思わなかったわ」
「親友のピンチに駆けつけないわけないでしょう。魔神王とは顔を合わせることはないね」
エルザの言っていることは正しいだろう。
エルザもアリアと戦ってそう感じ取ったなら、魔神王は私の元には来られない。
それだけ、剣聖少女アリアが強いとまた一つ証明された瞬間である。
アリアが旅をしていることによって、剣聖という肩書を知っていれば下手に手を出すものも居ない。
剣聖が国にいれば、犯罪が減ると言われているほどだ。そのことについて、アリアは全くもって分かってはいないが、またそれでもいいのであろう。
アリアには、そのまますくすくと行ってほしいと願うばかりだ。
……
「これからどうするんだ? またいつも通り旅は継続だろ」
「そこは変わらないでしょうね、とりあえず国には行きたいわね」
「それだったらさ、温泉が有名な場所が近くにあるみたいだよ」
温泉という言葉に、私は反応してしまった。久しぶりにお湯に浸かれるのだ。
それが旅をしていてどれだけの楽しみにしているか、はかりしれない。
「ナズナがそんなことを知っているなんて意外だよ」
「昨日、アリアが席を外している間に聞いたんだ!」
エルザも粋なことを教えてくれる。心の中でありがとうと言っておこう。
「そうと決まれば、箒を飛ばすわよ! ナズナ、振り落とされないようにしっかり捕まっておくのよ」
「ヘーイ」
次の瞬間、箒のスピードを一気に上げる。気配感知も怠らず進んでいく。
そんなことをしてすっかりお昼を食べたくなる頃。
「そろそろ休憩しようかな」
「そうだね、日差しも強いし」
私たちは、木陰に降り立った。それが今思えばいけなかったのだ。
二人が降りた瞬間、魔法陣が発動する。
わけもわからず、私は一人上空に戻る。ただ、二人は何者かによって突然に襲ってきたのだ。
「フェクト、ナズナ落ち着いて!」
私は声を荒らげるが、二人の耳には届かない。ただ今は、わけもわからず攻撃を繰り出してくる。
「気配感知にも引っかからず、こんなことが出来るのか」
いや待てよ、何かおかしい。そう思った瞬間、二人は突然気絶し地面に緩やかに落ちていくのだった。




