163話 疑問の残る組み手
フェクトの声は少しばかり、震えていた。その震えは、おそらく恐怖心からくるものだ。
それだけの強さだったと言うことだろう。
「エルザは、とてつもなく強かった。赤子でありながら、魔族を倒した逸話まで広がるレベルだからな」
そこまでの強さなのか。それは戦ってみたい、剣を無意識に持ってしまっていた。
「排除」
突然飛んでくる攻撃魔法。結界をぶち壊して進んでくるだけの威力。
只者ではないことだけは分かる。
私はいつものように、石を投げ対処する。次の瞬間には、魔法を発車した場所まで移動し、剣を振るったのだ。
そこには深くフードの被った魔法使いが一人。
それもなんとも、隙だらけのお方である。おおかた実力を知りたくて攻撃を仕掛けたのだろうが、それは甘ちゃんのする考え方である。
「結界!? この結界普通のとは違うか」
例えるならイデリアを守る結界だ。それに近しいものに感じる。
それに一瞬見えた耳。あの特徴的な耳を忘れるはずもない。
「エルフ族がなんのようだ? この前の腹いせかしら」
「我が名はエルザ。お会い出来て光栄ですわ剣聖様」
突然の突風!? これは一定時間触れている場合に発動するトラップのようなものだろうか。
それに今さっきの言葉。あれは、間違いなく本当のことだね。
まさかこんな早くに会ってしまうとは。
「本当にイデリアに関わったら面倒ごとによく巻き込まれてしまうわ」
「それにしては、とても嬉しそうな顔をしてますわよ」
それは彼女にも言いたい台詞だ。彼女の目は、強きものを求めている目。
それに少し笑みを浮かべている顔。我慢が出来なくなって飛び出してきた子みたいだ。
「それはお互い様ですね、そっちがその気なら剣聖アリアがお相手しますわ」
「ストームバレット」
ストームバレット―小型ストームを発射し、攻撃する魔法。その威力は、単体を狙うより広範囲に向けた魔法だと言える魔法である。
ストームは、風魔法の中でも弱い分類だ。それから上の分類を、ハリケーン、サイクロンと呼ぶ。
「ストームバレットを全て斬るか、さすがだね」
「剣聖舐めてたらダメやで、私を楽しませたいならもっと強くやらなきゃ」
だが一つ言いたいことがある、そんな弱い分類ですら、普通の魔法使いでは全く違う次元である。
この状態でイデリアとほぼ同等、これは気が抜けない。
冷たい空気が流れてくる。おそらく氷魔法の影響、それになんだか嫌な予感がした。
「オーシャンパンチ」
水が拳の形になってる!? いや違う、これは別の目的がある。
次の瞬間、それは破裂する。
「アイスネット」
アイスネットは本来、単体魔法だ。それを複数同時に出すための準備だったって言うわけね。
「そんなのでは甘いよ! 私を止めたきゃ甘ったるい魔法では意味ないよ」
渾身の一撃を繰り出す。その瞬間、アイスネットは、綺麗に砕け散り跡形もなく消えた。
「ボルトスタンプ」
「っっぶねー、掠っただけでも死にそうなレベルじゃん」
「これも避けるんだ、私が甘くないことあなたには打ち込んであげますわ」
「サンダーウイップ」
森だと言うのに、高火力で変則的な魔法ばかりだ。基本的には、中遠距離型だと思っていいだろう。
それだからこそ、上手いこと近づけないように魔法を工夫して撃ってきている。
「サンダーホークの雛たち、彼女と遊んで貰いなさい」
その速さは、シャドウアサシンなんか、赤子以下のようなものだ。
それになんだっていうんだ、あの威力。
木々をいくつも風穴を開け、そんな状態な木を作っておきながら、平然と飛んで抜けていく。
それになんと言っても、少数精鋭としてそれぞれの役割を理解しているかのようだった。
避ける際も、ヒヤッとした場面があったほどだ。
「いい魔法ね、私にその魔法たちで傷の一つでもつけてほしいわね」
子供はとても無邪気である。だからこそ我慢を覚えなければ、後々しんどいのだ。
「あれ、君命令していないよね。それなのになんでこの子たちは動いているの?」
「それぐらい自動で動くなんて魔法では朝飯前よ!」
そう返してくるか、だがその答えは間違っている。なぜなら、こういった魔法生物を生成した際は、必ず指示は絶対だからだ。
「認めた方が楽になるわよ、制御出来てないって」
「何言ってるの! 我に出来ないことなどない」
「そうか、それなら君の作戦が悪くて、全て消されても文句ないな」
いい加減怒りが湧いてくる、鬱陶しい蠅虫を追い払うかのように、消滅させてしまうのだった。
「次はどんな魔法を見せてくれるんだ? 私楽しみだなー」
「グラスジャイアント」
木々を一時的に成長させたか。それはいいことだが、剣の前では全て無意味なのだ。
「イデリアさえ、私には勝ったことはない。それが君にはどう言う意味か分かるはずだよ」
「降参、やっぱりイデリアちゃんの言ってた通り強いわね」
突然頬らかになって、動揺が走る。それに今なんて言った? イデリアちゃん。
もしかして、ここの二人って普通に仲がいい友達なのでは?
そんな疑問が走る。
「ねぇ聞きたいことがあるんだけど、イデリアと友達なの?」
「当たり前じゃん! イデリアって、私にとって大切な人なんだ」
彼女は満面の笑みを浮かべながらそう言った。あの長が言っていたのは一体なんだっただ? そんな疑問も生まれモヤモヤしてしまっている。
だが、それを彼女本人の前で聞くわけもいかず、今後の旅に少なからず影響を受けそうだ。
「おーい大丈夫か? ってまさかエルザか?」
「君のことは知っているよ、魔神族なんでしょう? 君も戦ったら強そうだな」
まだ余力が残っているのが分かる。魔力が沸々と湧き出してくる。
「ダメだよ、流石にそれは容認出来ないよ」
彼女はがっかりした顔になるが、納得はしているようだった。
「せっかくなんだし、ご飯一緒に食べようよ! 私、こういうのしたかったんだよね」
まさかの一言であった。




