159話 恥ずかしい名乗り
その場所は、火の手が上がっていた。森には似合わない煙が、上空へと登っていうのが見える。
それに様々な声が響き渡ってくる。その声の中には、魔法を詠唱する声も微かに聞こえてきた。
その瞬間、高密度な魔力が放射されるのが、気配とともに脳に直接叩きつけられてくるようだ。
一瞬、苦虫の潰れたような顔になるがすぐに切り替える。もう一度、大きく深呼吸をして私はたどり着いたのだった。
「二人とも、遠慮なんて要らないから暴れてきていいよ!」
二人とも、にこやかな笑顔が頼もしさをものがったていた。
上空から、颯爽と落ちていく二人。それぞれ力を込め、地面に着くと同時に技を放つのだった。
二人は、私の知らぬ間にとある名乗りを決めていたのか、私が恥ずかしくなるような、名乗りをあげた。
「俺は、剣聖アリアの使い魔にして魔神族フェクト!」
「わたしは、剣聖アリアを心から愛する者ナズナ」
「「こっから先は、剣聖少女アリアの独擅場!!」」
あ、これ私も降りないと行けないやつ? なんで私、仲間にこんな扱い受けてんの。私って剣聖だよね。え、違った? やっぱり私剣聖だよね!?
「ったくしょうがないわねー!」
こんなことのために覚悟を入れた訳ではないんだけどな、そんなことを降りながら考えつつ、私はもう一度覚悟を決めるであった。
「私こそ歴代最強の剣聖アリア! 剣聖少女の剣技、あの世で自慢でもするんだな!!」
ふぅーやり切ったよね私、誰か褒めてくれても良いんだよ、私ちゃんとしてたよね。
めっちゃ恥ずかしかったが我慢してやったんだから、何か褒美でもあってもいいのよ。
「今の名乗り最高です剣聖様! フーンの心にはビシビシと伝わってきました!」
フーンは、とても興奮した様子で私の手を握ってくる。それにしても、めっちゃイキイキしてるのがこっちまで伝わってくるレベル。
今現在、エルフ族の里が襲われているとは思えない状況である。
「里の方大丈夫なの? フーンもいつまでも握ってないで」
「剣聖様が来てくれたのですから、勝つのは決まっています、これで心置きなく、魔法をぶっ放せるってもんですよ!」
この子、最初はあんなにも壁を作っていたのが嘘みたいにフレンドリーだ。
「剣聖様も楽しんでくだいさいね、剣聖の名乗りは効果がすごいですから」
そう言って、彼女は持ち場に戻っていた。
帰り際、振り返って手を振りながら、目の前に現れた魔族を消滅させていたけど。
私は魔族の方を見る。フーンの言う通り名乗りの効果なのかジリジリと後に下がっている様子の魔族。
私が剣聖と気が付いた以上、攻めるのを躊躇する気持ちは分からなくはないが、魔族だというのなら向かって来てくれても嬉しいのだが。
それだけ、あの名乗りは本当に効果があったのだろうと改めて実感するのであった。
「二人は暴れてるみたいだし、私もそろそろ暴れるか」
地面を蹴り上げるように走りだす、素早く剣を構え次々と首を斬り落としていく。
魔族の血の雨が降り注ぐのであった。
「後処理は任せるわ、元々はあなたたちの仕事だしね」
私は処理を任せ、目指すのはただ一つだ。大将首を斬り落とし、戦意を消失させることだ。
魔族たちも私との戦闘はなるべく避けたいはずだ。
「今のお前たちが私に勝てると思うのか? そこを退いてくれた方がありがたいんだけどね」
「剣聖、あなたを殺せば戦意は喪失させられる。それで終わりだ」
おそらく配下だろう、周りの魔族や魔物とはレベルが違う。
だがいくらお前達が学習しようが、私には決して届かない。
私を殺したいならイデリア、フェクト、ナズナ辺りを余裕で殺せるレベルではないと、まず同じ土俵にも立てないだろう。
私を殺せるのは、アイツだけなんだから。
「お前ごときが何が出来るんだ? 斬られていることにすら気が付かないお前が」
「何を言って……」
魔族のミンチ肉完成。
「こうなりたいのは次は誰かしら? 居るならやってあげるけど」
次の瞬間、周りにいた魔物や魔族は消えた。異変を感じ取ったのか、続々と逃げ始めていく。
残ったのは大将やその部下だろう。
歴戦の猛者のような、傷跡が体の所々に付いていた。
「自分のやったことは責任を取らないとだしな」
「なんだ分かってるじゃん、えらいね」
自分のことを完全に舐めている私に内心キレているのだろう。だが、それをやるのだったらもう少し殺気は抑えないとだめだね。
「まだまだ発展途上なのにほんと勿体なことするね、哀れだよ」
「お前から見たらそうなのだろう、だがな覚えておけ、俺だって誇りを持ってやってんだ!」
「そんな軽い誇りなんて捨てろよ、勿体無いのだから」
大将首が飛んでくる。まるで首を差し出しますので、斬ってくださいと言わんばかりの飛び方だ。
「アリア! そいつ何かしでかすぞ。逃げろ!」
フェクトの焦った声が聞こえる。だが私は、冷静に彼を見つめる。
剣を鞘に戻し、手には何も持っていない。
「なんだ諦めたのか! 魔神王様に滅ぼされた世界を見て後悔するんだな! 封印・一年」
そんな低俗な魔法しか出来ないのか。がっかりした目で見てしまう。
この魔法は、赤ちゃんが使うような魔法だ。
「なんなんだその目は!?」
手と手を勢いよく合わせる。
「相殺。それだったら殴りかかって来てくれた方がよっぽど良かったよ」
素早く剣を抜き、斬り伏せたのであった。
「魔法が苦手だったらわざわざ使わなくていいのに」
その後消滅していく。エルフの里は守られ、この一件は決着がついたのであった。
私は座り込み、安堵の表情で疲労感を漂わせ二人が来るのを待った。
「お疲れー、二人ともなんだったのあれ?」
「名乗りなことか、あれ良かっただろ」
「いや恥ずかしかったわ!! 突然やるからびっくりしたんだけど」
二人は、ニヤニヤしながらこちらを凝視してくる。
「それにしてはあの名乗り決まってたよ」
「二人とも、話があるから触りなさい!」
二人は、それから逃げるべく逃走を始めていくのであった。
……
「三人とも楽しそうですね」
「我々を救ってくださった英雄だ、ちゃんとおもてなしするわよ」
エルフ族は、慌ただしく里に戻っていくのであった。
自分たちの故郷を守ってくれた英雄たちに、ささやかな贈り物をするために。




