155話 厄災は……
この事件は、すぐさま国全体に広がった。憶測が飛び交う中、私は彼女と話をすることが出来た。
「すぐに助けられず申し訳ない」
私は心からの誠心誠意の謝罪する。こんなことで到底許されるとは思っていない。私がここに来なければ、この子は襲われずにすんだ可能性があったからだ。
なのに私がここに来たせいで、彼女に怖い思いをさせてしまった。
そんな後悔の念が私の心を蝕むかのように、暗い気持ちへと落としていくそんな気持ちだった。
「剣聖様頭をお上げください、彼の方はそう長くは滞在していませんでした、それに彼は魔法を使っていましたが、それも無理すれば自分でどうにか出来るほどでした」
彼女は、何事もなかったかのように答えてくる。それがとても眩しい光を見つめているようにも思えた。
「ですが、襲われたのは事実ですから」
「彼、ずっと震えていましたから、本当はそんなことをしたくないと訴えかけているようでした」
そう言われてみると、確かにそんな感じは彼からもかんじた。
あの力が無ければ、所詮は人の領域からは出てこないそんな感じである。
全ては、あの力が原因だと確定してもいいのかもしれない。
「剣聖様、あのこちらの本を読んではいただけませんか?」
彼女が手渡してきたのは、必死に守り抜いていた本である。
題名は「厄災」である。この本を説明するなら簡単に言えば、このダイナール大陸で起こったとされる厄災の歴史書と言えるであろう。
どのような事が起こったのか、どのような被害があったのか、それがどう収まったのかを分かりやすく書いた本である。
中々マニアックな本として、私も師匠から聞いたことがある一冊で、確か常連客の中には持っていると自慢していたおじさん冒険者も言ったけ。
師匠は、こういうのよりは冒険譚が好きでそちらの方を好き好んで読んでいたと言っていたのが印象的である。
「ありがとうございます、早速読んでみますね」
私はそう言ってその場を後にした。二人は、結局本を読むより、起こった事件の対処の方が良いと行ってしまっている。
待つことも考えたが、読んで説明した方がいいと思った私は、早速読み始めた。
そして読み終わる頃には、閉館時間を過ぎようとしていた。
私は慌てて本を返し、お礼を述べた。そんな時だ、彼女に呼び止められたのは。
「そういえば名前を言っていませんでしたね、ノベルと申します」
ノベル、まるで本に関わる仕事をするために付けられた名前の印象を受ける。
そんな印象に浸っていると、少し静寂の一時が流れてしまっているのを思い出す。
私は慌てた感じで名前を言った。
「わ、私の名前はアリア。剣聖の称号を持つ少女よ」
「いい名前ですね、何か掴めたような顔をしてらっしゃる。お役に立てて何よりです」
お礼を言うのは私の方だ、ここまで良くしてくれて私は口角をあげきちんとお礼して、二人のまつギルドへと足早に向かうのであった。
その向かう道中のことだ、私のことをつけて来ている存在に気がついたのは。
恐ろしく鍛錬されたであろう気配遮断、字のごとく血の滲むような努力を垣間見られるほどだ。
ただ、それでも私をつけるというのであれば、まだまだ未熟だと片付けてしまっても致し方ないだろう。
私は、わざと人気のない道を駆けていく、ここは坂の名所としても知られている。
勾配のキツイ場所には人が入れるようなものは何もなく、訪れる人も少ないと言う。
それを利用させてもらうことにしたのだ。
「まだ出てくる気はないか」
思わずボソッと言ってしまう。距離は一定数保たれているが、おそらく聞こえたはずだ。
明らかに、警戒度が跳ね上がっていくのを感じるほどだ。
私は、坂の途中で足を止める。辺りにあるとすれば、周りの木々が生えているぐらいだ。
「お互い気が付いてんだろ、早く出てこいよ」
そして神秘のベールが解かれるかのように、正体を表した。
魔法使い、それは間違いないであろう。それにしては殺し屋にもなれそうなほどの実力を持っているのも確かだと言える。
私がそう思ったのだから、それは自身満々に言えることだ。
「これ以上あなたに行動されるのは厄介だ。ここで死んでもらおう」
杖を構え、いつでも準備が出来ているということだろう。私に剣を抜けさせる時間を作るほどには。
「ここの空気は暖かくて嫌いだ、氷結」
辺りの空気を一瞬にして凍らせる。その一瞬は、体の動きを遅くするにはピッタリ過ぎる魔法だ。
「フリーズ・ショック」
フリーズ・ショック―魔力の塊を氷として活用したもの。
先ほどの攻撃と使い合わせると確実に、魔法を与える一手と考えられる。
「まだ冷たい体に慣れていない君では、完全なるガードは無理だ。雷拳」
私は勢いよく地面に叩きつけられた。
「いいコンボ魔法だ、だがねそんな簡単には終わらないわよ、私は剣聖やってんのよ」
地面には、私の蹴り上げた衝撃が痛々しく残る。それを見えてしまっている時点で、私はもうそこには居ないのだ。
「私を止めたいなら、お前では力不足だ」
木剣でも、ダメージは通る。ただその分手加減なんていうものは一切しないから、死より痛い攻撃で気絶してしまうだろう。
「はい終わった、とりあえずコイツはギルドに連れて行くか!」
予想より遥に遅れて私は、ギルドにたどり着いたのだ。全員ご立腹だろうと扉を慎重に開けるが、そんなことはなかった。
ただ、こんなことに巻き込まれているんだろうなと思われていたようだ。
「ごめんね遅くなって」
「いつものことじゃねぇかよ、それよりそいつはギルドが預かるそうだぞ」
私は、肩に抱えていた魔法使いを下ろし後は職員に任せた。
「早速なんだが剣聖様、文献を読んで分かったことがあれば言ってほしい」
「文献によると、魔神王はすでに力を外により強く放出していることが分かりました」
皆驚いた顔をしているが、これは紛れもない事実なのだと私は思っている。
それだけあの本には、厄災がどういったものかと書いていたからである。




