11話 子供たち
春風が心地よい季節になりました。
黒茶の髪を靡かせながら、箒を気ままに飛ばしていきます。
「おや、あれは?」
少しばかり行った先に、子供たちが棒を持って走っているのです。
「坊やたち、何をしているのですか?」
「あ、旅人さんこんにちは。僕たち今、おいかけっこしてたの」
「それは楽しそうですね、ここらに住んでいるのですか?」
「うんそうだよー」
男女四人の子供たちは、とても元気に過ごしている。
先ほど、挨拶してくれた男の子、住んでいることを教えてくれた女の子が、どうやら中心メンバーらしい。
「名前はなんていうのですか?」
「僕はアングル」
「私はイントラ」
「僕はシール」
「私はテナフ」
そうして、彼らたちに連れられて村に着いたのである。ギルドは、あるようだがそこまで使われていないみたいだ。
そして、大人たちは私の顔を見るなり頭を地面につけていた。
「け、剣聖様。こんな寂れた村にどういったご用件でしょうか?」
村長らしき人は、震えた声だ。相当怯えている。それは、私が人を殺したからであろう。
冒険者がいくら殺していいといっても、それでも怖いと思ってしまうのは普通だろう。
「この子達に連れられて来ただけだよ」
村長は、私の周りにいた子供たちを見て納得した表情になっている。
そして子供たちは、親元に戻って行った。
「おねーちゃんまた後でね!!」
アリアは、手を振り彼らを見送った。そしてここから本題に入るのである。
「あの子たちの傷なに?」
彼らは、長袖の服を着ていたがチラっと青痰が全員から見えた。そして村長や周りにいた村人たちは、黙り込む。
「まぁいいわ、今日はここで一泊するわ」
私は、村唯一の宿に宿泊することにした。宿に入ってすぐ、雲行きが怪しくなっている。
そして数分後には、雨が降り始めたのである。
「読書でもするかな」
ボックスから、読みかけの本を取り出し読み進めていく。
雨はどこか本を読むのを集中させてくれる自然音だと思うのだ。
そうしているうちに、気がついたら外は真っ暗になっており、ドアの音が耳に入ってくる。
「なんでしょうか?」
「お食事の用意ができました」
宿で受付していたおばあちゃんの声だ。そうして、ギシギシと音を立てながら階段を降りていくのが聞こえたのだ。
下に降りると、やはり客は私一人のようだ。
テーブルの上には、美味しそうな料理が並べられていた。見た感じ、村でよく食べられているものみたいだ。
「ここの野菜やお肉は、全部村で育てたものです」
「そうなんですね、美味しそうです」
私は、にこやかに微笑みかけ料理を食べていく。てっきり、毒でも入っているかのようにも思えたが、違うらしい。
ただ、この村がきな臭いのも確かである。
そうして、宿から少しばかり歩いた先にあるお風呂やに向かう。夜が始まったばかりの村だというのに、明かりはほとんどが付いていない。
ここまで、整備が行き届いていないのが現状であろう。こういった村が点在しているから、いつまで経っても発展しないと考える。
そうこうしているうちに、着いた。
お風呂の中は、貸し切り状態である。男湯の方にも、気配が感じられない。
いるのは私と受付にいたおばちゃんのみだ。
そうして、宿に帰り早めの就寝をしたのであった。
夜中、私は物音で目が覚めた。あの不気味な階段の軋む音である。
音からして、来ているのは女性である。それは、宿の受付にいたおばあちゃんだ。そして、それはどこかおかしかった
「その分身か」
(師匠、深夜にごめんだけど起きてー!!)
(脳内で、大声を呼ぶのを辞めてくれよアリア。何かあった?)
(ごめんだけど、ハルナータの騎士団を村に呼んでくれない? 名前はランダ村)
師匠は少しの間、沈黙の時間が流れていた。
(すぐに呼ぶから、簡単に殺ろうとするなよ)
(まぁ、今現在宿に火が放たれてるけどね、そして宿全体に結界が施されてる)
(まぁ、大した結界じゃないだろ。それよりほんとに峰打ちで抑えておけよ)
コイツ、私の心配なんて一切してこないあたり平常運転だ。
とりあえず、流暢に話してる暇なんてない。
「さっさと逃げますかね」
転移で逃げても良いのだけど、その後に何が起こるか予想がつかないし、剣で壊すか。
窓を開け、結界に向けて一太刀を浴びせる。案の定破壊ができた。
その間、村人たちが集まって来る。
「ここって魔術師が居たんだね。それで私を攻撃する気?」
長い杖をこちらに向けて、魔力の高まりを感じる。
「一つだけ言っておくけど、攻撃してくるなら容赦しないから。宿のおばあちゃん」
隠蔽魔法で、ブレスレットを隠していたのだろう。まぁ最初から見えてたけど。
「あんたが、ここに来たのが悪いんだ! そして子供たちのことを言うから」
魔弾を放ってくる。それを剣を振り下ろす。
それがわかっていたかのように、数人の若い男どもがなりふりを構わず襲ってくるが全て峰打ちで対処。
「子供たちは無事?」
「お前がこのことを口外しなければ無事さ、私の攻撃魔法の実験になるがな」
「それは無理な話だわ」
次の瞬間、私は攻撃を仕掛けようとした。だが、ある言葉が私の剣を止めたのだ。
「アリア、そこまでだよ」
師匠の声である。そして周りには、騎士団の連中が構えていた。
そして、村唯一の魔術師のおばあちゃんは寸止めされた攻撃に腰を抜かしへたりこんでいた。
「助かったね、おばあちゃん」
おばあちゃんは、なんともいえない顔で私を見ていた。そして、周りの大人たちが子供を盾に拒もうと必死である。
「見苦しいぞ貴様ら」
自分でも内心驚くぐらいの、低い声が響きわたった。そして、もう抵抗しても無駄だと理解したのだろう。
子供は、すぐさま解放された。
その後、村人全員が聴取を受けている間私は、師匠からこっぴどく叱られるのであった。
「師匠、今回はありがとうございました」
「ほんと、トラブルしか起きてないな」
呆れた顔の師匠だったが、久しぶりに見た弟子の姿にどこか喜んでいるようにも見えたのであった。
そして、朝日が登ってくる。
「朝ですね、仕事に遅れますよ」
「今日は定休日だよ、もう忘れちまったのかよ」
「旅してたら曜日感覚なんてありませんから」
そう言ったら、互いにおかしくなってたくさん笑った。そして、今回の事件の概要がわかった。全てあの魔術師が仕組んだことみたいだ。
村人は、力に逆らえず子供を差し出していたらしい。
逆らったら、見せしめに村長の妻が殺されたそうだ。
テレパシーや転移は、一切使わせないようある魔術を仕込んでいたそうだが、私や部外者には効かなかった。
「君たち、これからはたくさん遊ぶんだよ。そして今まで以上に、愛してもらってね」
「うん、おねーちゃんありがとう!!」
全員が声を合わせて言う。
師匠や彼らに見送られながら、私はまた新たな旅へ赴くのであった。




